弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

『大阪地裁医事部の審理運営方針』

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大阪地裁第17,19,20部は,平成22年10月,「適正迅速な審理を実現し,医療者と患者の間の紛争を適切に解決するために,これまで蓄積してきたノウハウを『大阪地方裁判所医事部の審理運営方針』として発表することとした」とのことです.
すこし感想を述べます.

「提訴前に,診療経過に関する情報収集と協力医のバックアップを得て,十分な準備をする.」(1頁)

診療経過に関する情報収集と協力医のバックアップがあれば,多くは訴訟にすることなく解決できます.医師に説明を求め,医療機関に説明会実施を求めても,何れも拒否される場合があり.そのような対応をする被告だから訴訟になるわけです.訴訟事案の多くは「診療経過に関する情報収集」が被告に拒まれている事案,診療経過の説明がない事案です.

「可能であれば,協力医から意見書を取得する.意見書取得に至らなくても,提出後の意見書作成及び証人としての出廷の内諾を得ておくことが望ましい.」(3頁)
「協力医の意見書は,当該事案についての具体的な医師の判断の適否を証明するために重要な書証となりうる.」(13頁)
「意見書は遅くとも争点整理手続終結までに提出する」(13頁)


医学知見は本来医学文献で立証すべきもので,或る医師の意見で立証するというものではない筈です.具体的事案へのあてはめも意見書なしで可能な筈です.医師の意見書が必要なのは本来きわめて例外的な場合です.
たしかに意見書が必要な事件もありますが,以前は裁判所鑑定でした.ところが,裁判所鑑定は時間がかかり,出てきた意見書にも問題があることが少なくありませんでした.そのため,患者側代理人は.努力して.科学的根拠に基づく論理的で公正な私的意見書をだすようになりました.そうすると,裁判所は,他の事件でも私的意見書を期待するようになりました.
そして,この「審理運営方針」では原則として協力医師の意見書,さらに協力医師の証人尋問が予定されるという事態になっています.

患者側は協力医に相談していますが,訴訟前の段階で意見書をお願いするのは困難です.
第1には,医療側から説明が拒まれていますので,診療記録から明らかな事実だけしかわかりませんので,暫定的な意見にとどまります.
第2に,裁判所からの依頼なら意見書を書きますが,患者側の依頼で意見書を書くのは勘弁してほしい,と躊躇する医師も少なくありません.
第3に,私的意見書を提出しても,裁判所鑑定になる場合もあり,患者側の負担が過大になります.

なお,大阪弁護士会の石川寛俊先生からは私的意見書を提出するのは裁判所鑑定がおかしなときだけ,と(食事の席ですが)聞いています.

第二東京弁護士会法律相談センターの「医療過誤法律相談ガイドブック2003年」204~205頁にも次のとおり,記載されています.

「原告側としては,訴訟提起前に協力医等から私的鑑定(意見)書を得て,提訴の可否を検討することが望ましいが,適切な協力医を見つけることができるかどうか,依頼者に費用の負担能力があるか等の問題もあるので,私的鑑定(意見)書については,作成することが可能かどうか,どの時点で作成すべきかなどの点を十分に検討・考慮する必要がある。
また,作成・提出時期についても,争点整理の段階で積極的に提出すれば,充実した争点整理が可能とはなるが,前提たる事実関係が確定していなかったり,争点が追加されるなどした場合には,提出した私的鑑定(意見)書が適切で効果的なものとならない場合もある。したがって,私的鑑定(意見)書が作成されるとしても,証人喚問等の立証がある程度なされた段階で,あるいは裁判上の鑑定書に対する反論として作成・提出されることが多い。」

「証人尋問等終了後,特に鑑定終了後に新たな過失,因果関係等の主張をするのは,相当ではなく,これらは場合により時期に後れた攻撃防御方法として却下することがある.」(21頁)

もともと密室の中の事実は,患者には明らかにされていません.
訴訟前に説明会を拒んだ被告は,答弁書,準備書面,医師の陳述書に最小限の事実しか記載しません.
被告は.原告の主張,立証をみて.医師尋問で切り札の事実をだすことができます.医師尋問で,患者側にとっては意外な事実がでてきます.予想していなかった証言に対し.反対尋問が奏功しないこともあります.
その結果,患者側は,医師尋問で認定される事実をもとに,過失,因果関係の主張を組み立て直すことになります.
前提事実が異なりますから,新たな意見書が必要となる場合もあります.
このような経過は,医療訴訟では,普通にあることです.
弁論準備手続きの前に提出できなかった合理的な理由があります.それを却下するのは民訴法違反にあたるでしょう.

創設当初の医療集中部と最近の医療集中部とでは,審理運営の姿勢にだいぶ違いがあるように思います.近年の審理運営は,患者側に対し不合理な負担を求めている感があります.『大阪地方裁判所医事部の審理運営方針』は,その傾向がいっそう顕著と思いました.


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by medical-law | 2010-11-06 12:06 | 医療事故・医療裁判