弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

「医事関係訴訟における審理手続きの現状と課題(下)」を読んで

b0206085_9333532.jpg判例タイムズ1331号の「医事関係訴訟における審理手続きの現状と課題(下)」を読んだ感想を記します.

◆ カンファレンス鑑定について

浜秀樹判事;「東京地裁では,カンファレンス鑑定方式を採用しておりまして,平成14年ころから現時点で70件近い事件について鑑定を実施しております。これは都内には13の大学病院がありますが,原則として,名簿順に13大学のうち3大学に鑑定人の推薦をお願いして,推薦のありました先生に鑑定をお願いするというものです。」(5~6頁)

村田渉判事:「カンファレンス鑑定はこの幹事会での議論を通じて考え出されたもので,幹事会では,カンファレンス鑑定をよりよいものとするための検証作業等を行っているばかりでなく,医療機関,弁護士会及び裁判所が一同に会して,医療訴訟が全般的により適正かつ円滑に審理されることを目指して協議をするという趣旨で,専門委員制度の活用の在り方等についても議論しています。」(7頁左)

この幹事会とは,「医療機関,弁護士会及び裁判所の協議会」の幹事会のことで,医師13名,弁護士6名(医療側3名,患者側3名)と裁判官で構成されます.患者側弁護士は3人だけです.
カンファレンス鑑定は,先日の研修会でも口頭鑑定の限界等から否定的な意見がありましたが.裁判所は,これを未だ続けていくようです.
専門委員制度の活用?? 具体的に何を議論しているのでしょうか,注目する必要がありそうです.

◆ 裁判所鑑定の採否

村田渉判事:「裁判所が不利な当事者から敗者復活戦として申し立てられた鑑定を採用するのは,裁判所の心証がノンリケット(真偽不明)の状態かそれに近い微妙な状態である場合に限られているということになります。裁判所の心証がノンリケットかそれに近い微妙な状態であれば,裁判所から鑑定の申立てをするよう促すことも少なくありませんが,既に心証が形成されている場合には,仮に鑑定の申立てがあったとしても,裁判所がこれを採用することはないであろうということです。」(10頁左)

もともと医学的知識は医学文献で立証するものです.医療は,口承伝授の世界ではないのですから.
医学文献では不足のとき(初歩的なミスで本には書いていない,或いはきわめて特殊な事案など)に,裁判所鑑定が行われてきました.裁判所鑑定は,時間がかかり,その鑑定意見が庇い合いになっていて不合理な場合も多々ありましたので,患者側弁護士は必要な場合にはできるだけ私的鑑定意見書を提出するようになりました.村田渉判事が,医療集中部に転任してきたのは,その後の時期です.
村田渉判事は,私的鑑定意見書を重視し,裁判所鑑定は,真偽不明かそれに近い状態でないと採用しない,ということのようです.
東京地裁医療集中部創設期の前田判事,福田判事の考え方は,“医療側は医学知見立証が容易だが,患者側はそうではないので,患者側からの裁判所鑑定申請は採用する”,というものでした.村田渉判事の発言は,この考え方を否定するものです.
しかし,医療側と患者側が対等でないのは明らかで,患者側の立証が不足していて医学知見を補充する必要がある場合は,本来の裁判所鑑定(カンファレンス鑑定に限らない)を行うべきであって,微妙な場合だけという特別な要件を課するのはおかしくありませんか.
立証の途中なのに,裁判所が心証を形成したからその後は立証手段(裁判所鑑定も立証手段です)を受け付けない,鑑定申請を採用しない,というのは,不合理だと思います.

浜秀樹判事は,「東京地裁は余り鑑定を採用していないのではないかといったご意見もあるかと思いますが,おそらく申請のあった場合には,ほとんど採用しているのではないかと思います。」(11頁左)と述べています.東京地方裁判所医療集中部でも,村田渉判事の34部と浜秀樹判事の35部とで扱いが違うということでしょうか?

◆ 協力医の出廷

浜秀樹判事:「出廷していただける医師の意見書の提出を求めております。」(11頁右)
村田渉判事:「顕名の意見書が提出されても,その作成者である協力医(意見医)が証人尋問に出頭できない場合には,法廷において証言できる,別の協力医に再度依頼して新たに意見書を作成・提出してもらうこともあります。」(12頁左)

裁判所は,鑑定意見書を作成した医師の出廷を重視していることが分かります.

◆ 和解

村田渉判事:「感覚的には,証拠調べ前つまり争点整理段階で和解が成立する事件は,和解成立で終了事件のほぼ6,7割ぐらいはあろうかと思っています。」(17頁左)

和解で終了する事件は全体の約半数ですから,主張を整理することで,証拠調べを行わなくても,全体の約3分1の事件は,争点整理段階で和解が成立し解決しているわけです.鑑定意見書を作成した医師の尋問によって裁判所が専門的医学知見を取得するまでもなく,約3分1の医療事件は解決しているのです.医療事件の適正迅速な解決のためには,最初からフルコースモデルを目指すのではなく,争点整理段階での解決モデルを意識した訴訟運営を行うことが鍵となるように思います.

◆ 医療ADR

浜秀樹判事:「東京の弁護士会で行われているADRに関しては,責任に争いのないものを対象にするというような制度設計のようにおうかがいしております 」(26頁左)

東京3弁護士会の医療ADRは,責任に争いのないものだけを対象にしているわけではありません.私的鑑定書(医学的評価)の提出を求めるわけではありませんし,医療行為の適否を判定するわけではありません.主張を整理し,説明を補充することで解決しています.和解率は55.9%です(2009年4月現在).

◆ 患者側勝訴率の低下

村田渉判事:「医療訴訟事件の認容率が低いのは医療訴訟が高度の専門性を有する分野でありその主張・立証に難しい面があること,被告医療機関側に証拠や情報が遍在していることなどから,原告患者側が勝訴判決を得ることが極めて難しい訴訟類型であるというような意見が述べられることがあるようですが,私ども東京地裁医療集中部の裁判官は必ずしもそういうふうには思っておりません。むしろ医療訴訟においては,少額であっても認容できる事件,すなわち被告側に何らかの債務不履行あるいは過失(注意義務違反)が認められる事件については和解が成立する率が非常に高いと思っておりますし,実際にもそのような事件がそのほとんどで和解が成立しております。」(16頁右)

東京地裁医療集中部の裁判官には,患者側に過酷な立証を求めている,厳しすぎる判決を下しているという認識は全くないようです.


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by medical-law | 2010-11-17 09:36 | 医療事故・医療裁判