弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

『討論!医療訴訟の準備・対応について裁判官と双方代理人』(3)

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写真は,長崎の大浦天主堂の猫です.

パネリストの討論で最も白熱した私的鑑定意見書の提出問題について,議論を紹介します.

◆ 私的鑑定意見書の提出についての,村田渉判事,秋吉仁美判事の考え方

判例タイムズに「医事関係訴訟における審理手続きの現状と課題」が掲載された後でしたので.これを引用しての質問があり,私的鑑定意見書の要否,提出時期等に議論が集中しました.
村田渉判事が「原告患者側代理人は,訴訟提起時等の早期の段階で協力医の意見書を提出することが望ましく」(判例タイムズ1330号14頁)と述べている点について.その真意が問われましたが,同判事は「望ましい」を強調しました.なお,望ましいという点では例外はなく,全例について提訴時等の早期提出が望ましい,という考えのようでした.(なお,東京地裁では,現在.おおよそ5~6割は原告側の私的鑑定意見書が提出されているそうです.)
秋吉仁美判事は,意見書は,医学的知見の当該事案へのあてはめに必要で,かつ争点整理にも役立つ,という考えを述べました.

◆ パネリスト,司会の意見

患者側弁護士,医療側弁護士ともに.パネリスト.司会からは,村田渉判事,秋吉仁美判事の考えを支持する意見は全くありませんでした.むしろ,懐疑的,批判的な意見が述べられました.

◆ 感想

裁判官は,適切な争点について適切な判断材料が与えられることが適切な判断のために必要あるいは望ましいと考えているようですが,それは判決を書くとき,適切な判断材料となる意見書があれば良いということでしょう.和解で終了する事案では,必ずしも意見書は必要ではないでしょう.
訟提起時等の早期の段階で協力医の意見書提出を推奨する考え方からは,裁判所は判決の材料を早期に入手でき,便宜であるかもしれません.しかし,他面,原被告の意見書合戦になってしまい.紛争の解決から遠ざける結果になる懸念があります.

1)あてはめのために必要?
たとえば,ガイドラインへのあてはめの場合,あてはめ自体もガイドライン自体,或いはその他医学文献で判断できる場合も少なくないでしょう。また,仮にガイドラインに当てはまらない場合でも,その医療行為に合理性があればよいわけで,合理性があるかどうかは,医学文献で判断できます。あてはめに意見書が必要な場合もあれば,不必要な場合もあります.したがって,一律にあてはめが問題になるから患者側が私的鑑定意見書を提出する必要がある,あるいは提出が望ましい,とはならないでしょう.

2)争点整理に役立つ?
30部で意見書が争点整理に役立った場合があったのかもしれませんが,本来,争点は準備書面で整理すべきであり,鑑定意見書で争点が整理されるというのは望ましいことではありません。

3)早期提出の問題
原被告の準備書面の提出いにより争点が詰まってくる前に,もし私的鑑定意見書が提出された場合,争点と関係がない医療行為の問題を指摘する内容であれば,結果的に無駄な書面となります.
また.その後確定した事実が,鑑定意見書の前提とする事実と異なる場合.前提事実が異なるため無意味な書面となることもあるでしょう.(訴訟前の説明と,被告が準備書面で主張する事実が異なることは結構あります.)
時期尚早の鑑定意見書は,かえって審理を混乱させるおそれがあります.
判断材料になる質の高い意見書を求めることと,早期提出は相反します.

4)費用
医療訴訟では.現に病気で働けない人,一家の支柱を失った人が,原告になることが多く,私的鑑定意見書提出が必須あるいは望ましいとなれば,複数の科にまたがる事案もありますから.費用の点から権利救済のハードルが高くなります.

弁護士は,患者側,医療側ともに紛争の解決を目的とした訴訟活動を行っているのに対し,裁判官は判決を書くことを目的としている(少なくとも判決起案を第一義としている)ようにみうけられました.
裁判所が.医事関係訴訟の運営を紛争解決から考え,和解による解決を目指す訴訟運営を第一義とし.それが成功しないときの判決に備えた訴訟運営を二次的に考えるのであれば,意見の相違は解消するように思います.
紛争解決のための訴訟運営は,裁判官にとって難しいことなのでしょうか.


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by medical-law | 2010-12-02 09:10 | 医療事故・医療裁判