弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

米国の医療保険改革法に初の違憲判断

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米国バージニア州リッチモンドの連邦地裁(ヘンリー・ハドソン判事)は,12月13日,医療保険改革法について、大半の国民に原則として医療保険の加入を義務付け,非加入者に事実上の罰金を科す条項は合衆国憲法に違反するとの判断を下しました.

CNNは,「米医療保険改革法に初の違憲判断 バージニア」として,12月14日,次のとおり報じています.

「米バージニア州の連邦地裁は13日、今年3月に成立した医療保険改革法について、2014年までに大半の国民に医療保険の加入を義務づける条項は憲法に違反するとの判断を下した。司法省は控訴するとみられており、最終判断は最高裁に委ねられることになりそうだ。

判断を下したヘンリー・ハドソン判事は、民間のサービス提供事業者から医療保険を購入するかしないかを決める判断は憲法のこれまでの適用範囲を超えていると指摘した。
これを受けてギブズ大統領報道官は、医療保険改革法は持病のある人への差別に対応するものだとして、地裁の判断に反論した。そのうえで、すべての法的論争が終結すれば同法は支持されるはずだと語った。司法省の報道官も、最終的には政権が法的勝利を収めることになると自信を示した。

医療保険改革は民主党が長年推し進めてきた政策だ。政府の推計では、昨年時点で米国では国民の約15%に当たる4500万人が医療保険に未加入だったとされる。今年3月に成立した医療保険改革法は、オバマ大統領の任期前半における重要な実績と評価されている。

しかし、共和党などからは増税やサービスの質の低下につながるとして批判があがっており、全国の連邦裁判所で同法を不服とする訴訟が20件程度起こされている。
今月にはバージニア州の連邦裁判所が同法を合憲とする判断を下しており、10月にはミシガン州の裁判所でも同様の判断がなされている。」

米国は先進国で唯一国民皆保険制度がない国です.無保険者は約4600万人とも3200万人とも言われています.
バラク・オバマ大統領は,無保険者の救済のために,当初新たな公的医療保険制度の創設を掲げていましたが,反対が強く実現が困難でした.
そこで,医療改革法は,保険加入者に補助金を支出し,保険会社への規制を強め民間保険への加入条件を緩和することで,保険を購入しやすくするという妥協的内容で,それも僅差で3月に成立しました.
保険加入条件の緩和義務化は2014年からで,現在83%に過ぎない米国民の医療保険加入率が95%まで上がるとみられています.
義務化条項は医療改革法の要になるものですが,ヘンリー・ハドソン判事は,この義務化条項について,保険商品を購入するか否かの個人の選択の権利との関係で,憲法が規定する議会の権限の範囲を超えると判断しました.最終的には,連邦最高裁で判断されると思いますが,この保険商品への規制を違憲とは言えないと思います.

ヘンリー・ハドソン判事は,共和党のブッシュ前大統領に指名された判事です.
今後10年間で約9400億ドル(約76兆円)の多額の税金が投入される(これはイラク戦争7年間に米国が費やした戦費約7040億ドルを上回ります)とのことです.米国は,医療を市場原理の支配に委ね,伝統的に小さな連邦政府を維持してきましたので,共和党は,医療改革法案に反対しています.
共和党は,医療改革法を縮小ないし廃止しようとしていますので,この動きに拍車がかかることでしょう.

日本でも,小さい政府・市場経済を指向し,規制を緩和しようという動きがあります.混合診療解禁などがその例です.医療の公共的性格からすれば,日本が米国を指向するのは誤りと思います.


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by medical-law | 2010-12-16 11:58 | 医療