弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

自招危難;放射能汚染水を海に流す行為は,緊急避難にあたるか?

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◆ 放射能汚染水の海への排出


東京電力が,緊急避難的な措置として,原子炉等規制法第64条第1項に基づく措置として,放射能汚染水1万1500トンを海に放出すると発表し,大韓民国から国際法違反を指摘されています.

「汚染水の処理について、原子力安全委員会は3月29日、東電に対し、『井戸を掘る』『使わなくなったタンカーを活用する』『米軍の協力を得る』などの助言をした。
東電は同委員会の案を取り入れず、4号機タービン建屋をタンク代わりにして水を移す計画を立てた。しかし、4号機のタービン建屋は3号機とつながり、汚染水の貯蔵場所としては使えないことがわかり、断念した。」(産経ニュース「東電の低濃度汚染水放出 保管対策の「無計画」さで」)ということなのです.

つまり,東京電力は,4号機タービン建屋をタンク代わりにして水を移す計画が実行可能かを十分検討せずに,タンカーを活用するなどの案をとりいれなかったために,放射能汚染水の処理に困り,海に放出するという事態を招いたのです.

◆ 自招危難の議論

刑法では,自らの故意行為,過失行為によって生じた危難(自招危難)について,緊急避難が成立するか,という議論があります.

大正13年12月12日の大審院の判決がリーディングケースです.
貨物を満載した荷車の背後に十分注意せずに進行した自動車運転者が,荷車の背後から急に飛び出してきた少年を避けようとして,ハンドルを切り,老女をはね死亡させた事案です.
「刑法37条に於いて緊急避難として刑罰の責任を科せさる行為を規定したるは公正正義の観念に立脚して他人の正当なる利益を侵害して尚自己の利益を保つことを得せしめんとするに在れは同条は其の避難行為を是認する能わさる場合には之を適用することを得さるものと解すへき」(表記をカタカナからひらかなに変えて引用)として,大審院は緊急避難の成立を否定しています。

東京高裁昭和45年11月26日判決,東京高裁昭和47年11月30日判決も,同様に,緊急避難の成立を否定しています.

学説は,全面肯定でも全面否定でもなく,自招危難について緊急避難が成立する場合と成立しない場合とがあると考えるのが一般的です。どのような考え方に立ち,どのような基準で線を引くのかは,様々です。社会的相当説,利益衡量説,原因において違法な行為説などいくつもの説があります.

このように様々な考え方がありますが,本件は,原子力安全委員会のタンカーを活用するなどの提案を東京電力が取り入れず,4号機タービン建屋をタンク代わりに使えばいいという安易な考えが,この事態を招いたのですから,単純に緊急避難的な考えで免責されるということにはならないのではないでしょうか.

なお,医療訴訟でも,一連の医療行為を細分化しすぎると,不合理な結論になることがあります.そのため,最後の局面だけみれば結果回避不可能とみられるときでも,その前の処置を含む一連の行為を評価し責任があるとされるべき場合もあります.

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谷直樹
by medical-law | 2011-04-06 01:16 | 脱原発