弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

地域主権改革法案成立の医療・福祉への影響

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◆ 民,自,公,社,みの賛成で成立した地域主権改革法案

地域主権改革法案が,4月28日,字句の修正はありましたが,民主,自民,公明,社民,みんなの党の賛成で成立しました.

国から地方自治体に権限を移し,仕事をさせた方が今よりよくなると思われているようですが...
これには,医療・福祉を後退させる,住民自治を形骸化させる,などの重大な問題があります.
国が国民に保障すべきことを,各地方自治体の自主的規律・基準設定に委ねることは,人権保障の最低基準を(各自治体の財政事情などの実態にあわせて)引き下げることになります.

ところが,マスコミは,これを批判するどころか,完全に同調しています.

朝日新聞5月10日付社説「地域主権3法―「国と対等」への一歩に」は,「改革の原動力になり得るものとして評価する。」と同調しています.

地方分権3法 国と地方の新たな関係を築け(5月10日付・読売社説)」は,「基準が全国一律である必要性はない。地域の実情に応じた基準になれば、効率化や利便性の向上につながる。例えば都市部では、保育所の待機児童を減らすことを優先し、幼児1人当たりの居室面積を狭くすることが可能になる。3法は、分権改革のメニューの一部に過ぎない。国の出先機関の地方移譲など、改革の本丸とも言える抜本策の具体化は足踏みしている。政府は、地方と協議を重ねて実現を急がねばならない。」と,追い風をおくっています.

狭いところに多数の幼児を詰め込むことは,安全・安心に成長発達する権利を侵害するもの,という視点を欠いています.

◆ 日本弁護士連合会

日弁連は,地域主権改革が国民の権利義務に重大な影響を及ぼす危険があることを指摘して,その具体的内容を取り上げてそれに反対し,又は全体として慎重な審議を行うよう求めて,たびたび意見書を採択してきました.日弁連は,次の点を具体的に指摘しています.

① 国民の権利義務に直接関係する事務を行う法務局の権限を地方自治体に委譲することは、法の解釈・運用を全国一律に行う必要上容認できない

② 現在でも不十分な現行の児童福祉施設最低基準を各地方自治体の自主的規律・基準設定に委ねることは、子どもの成長発達権保障という観点から重大な問題が生ずる

③ 国の出先機関たる都道府県労働局にかかる労働行政を地方公共団体に移管することは、憲法上の労働者の最低労働条件の保障と雇用の確保を国の責任で全国統一的に行う制度を変更することになりかねない

④ 第3次勧告中の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」及び「男女共同参画社会基本法」の見直しは、男女平等・男女共同参画の実現に看過できない重大な影響が及ぶ


⑤ 保育所の居室床面積に関する重大な例外扱い等が、安全・安心に成長発達する権利を侵害するものであること、予定される教育関連法制の改正は、極めて広範かつ多岐の事項に及び、これを包括的に地方に委ねれば、一定の教育水準の下で安全に等しく「学ぶ権利」が、地域を越えると保障されないという事態が懸念される

いわゆる地域主権改革につき、拙速を避け慎重かつ徹底した審議を求める緊急会長声明」ご参照

◆ 全国保険医団体連合会

保団連は,5月9日「全国民共通の最低基準引き下げにつながる「地域主権改革」一括法の成立に抗議する」という意見書を発表しました.

「国政の最重要課題である東日本大震災からの復旧・復興に向け、第一次補正予算の審議が行われている中、衆議院と参議院あわせて10時間ほどの審議で、参考人質疑も行わず法案を採決、成立させたことに、断固抗議する。」

「保育所や障害者施設の設置基準、介護施設の設備・運営基準、住民への医療提供を確保するための「医療計画」の内容の一部などを、地方自治体の条例に委任することになっている。
また、今通常国会に提出されている「地域主権改革」一括第2次法案には、医療法で国が定める、医療機関の人員基準や施設基準の一部を条例委任とすることや、公立高校の収容定員基準の廃止などが盛り込まれている。
国には、すべての国民に医療や介護、福祉、教育などの最低基準を保障する責任があるが、「地域主権改革」一括法の実施によって、国の責任をいっそう後退させ、全国民共通の最低基準が引き下げられることが危惧される。」


保団連のホームページには,芝田英昭立教大学教授の「「地域主権改革」は何をもたらすか……政府・民主党の社会保障戦略の危うさ」が掲載されています.芝田教授はつぎのとおり述べています.

「政府の社会保障戦略は、障がい者分野(障がい者自立支援法)、児童分野(こども・子育て新システム)においても、現物給付から「現金給付」への変更を意図していることは明らかである。「現金給付」は、結果的にはサービス供給における公的責任は捨象される。」

「社会保障分野が株式会社等の「営利企業」の餌食にされてしまう。」

「ナショナルミニマムは、日本に在住する者として、生存権に値する生活を送るための最低基準であり、それが自治体の条例や財政事情で変更できるとなれば、生存権は保障されないことと同じである。」


医療.福祉については,今までは,国がそのときどきの財政事情に応じて一定の保障を行ってきていたのですが(地方自治体が上乗せするのは勿論OKです),地域主権改革は,その一部を地方自治体の責任とすることで,財政事情の逼迫した地方自治体では,保障の限度を引き下げることを認めるものです.

弁護士は,生存権の保障レベルが引き下げられることになるとみています.
医師も,同様のみかたをしています.
社会保障の教授は,生存権が保障されない,とみています.

谷直樹
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by medical-law | 2011-05-11 06:33 | 医療