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最高裁判所第1小法廷平成23年6月6日決定(日の丸.君が代事件)多数意見

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最高裁判所第1小法廷平成23年6月6日決定(日の丸.君が代事件)の多数意見もご紹介いたします.

谷直樹
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1 本件は,都立高等学校の教職員であった上告人らが,卒業式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱すること(以下「起立斉唱行為」という。)を命ずる旨の校長の職務命令に従わず,上記国歌斉唱の際に起立しなかったところ,その後,退職に先立ち申し込んだ非常勤の嘱託員の採用選考にお
いて,東京都教育委員会(以下「都教委」という。)から,上記不起立行為が職務命令違反等に当たることを理由に不合格とされたため,上記職務命令は憲法19条に違反し,上告人らを不合格としたことは違法であるなどと主張して,被上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めている事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの。以下同じ。)
43条及び学校教育法施行規則(平成19年文部科学省令第40号による改正前のもの。以下同じ。)57条の2の規定に基づく高等学校学習指導要領(平成11年文部省告示第58号。平成21年文部科学省告示第38号による特例の適用前のもの。
以下「高等学校学習指導要領」という。)第4章第2C(1)は,「教科」とともに教育課程を構成する「特別活動」の「学校行事」のうち「儀式的行事」の内容について,「学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。」と定めている。
そして,同章第3の3は,「特別活動」の「指導計画の作成と内容の取扱い」において,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定めている(以下,この定めを「国旗国歌条項」という。)。

(2) 都教委の教育長は,平成15年10月23日付けで,都立高等学校等の各校長宛てに,「入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」(以下「本件通達」という。)を発した。その内容は,上記各校長に対し,① 学習指導要領に基づき,入学式,卒業式等を適正に実施すること,② 入学式,卒業式等の実施に当たっては,式典会場の舞台壇上正面に国旗を掲揚し,教職員は式典会場の指定された席で国旗に向かって起立し国歌を斉唱するなど,所定の実施指針のとおり行うものとすること等を通達するものであった。

(3) 第1審判決添付別紙一覧表「職務命令の日」欄記載の日の当時,X1を除く上告人らは同表「学校名」欄記載の各都立高等学校に勤務する教員であり,X1は都立A高等学校に勤務する学校司書であったところ,上告人らは,それぞれ,同表「校長」欄記載の各校長から,本件通達を踏まえ,同表「行事」欄記載の卒業式又は創立記念式典に際し,平成15年11月5日から同17年3月7日にかけての同表「職務命令の日」欄記載の日に,同表「職務命令の内容」欄記載のとおり上記各式典の国歌斉唱の際に起立斉唱行為を命ずる旨の各職務命令(以下「本件各職務命令」という。)を受けた。しかし,上告人らは,本件各職務命令に従わず,上記各式典における国歌斉唱の際に起立しなかった。

(4) 都教委は,平成16年2月17日にX1及びX2に対し,同年3月31日にX3,X4,X5,X6,X7,X8,X9,X10及びX11に対し,同17年3月31日にX12に対し,上記卒業式又は創立記念式典における上記不起立行為は地方公務員法32条及び33条に違反するとして,それぞれ戒告処分をし,また,同16年及び同17年の各3月31日にX13に対し,同様の理由で,戒告処分等をした。

(5) 定年退職等により一旦退職した教職員等について,都教委は,特別職に属する非常勤の嘱託員(地方公務員法3条3項3号)として新たに任用する制度を実施している。

X3,X4,X5及びX6は平成17年3月31日付けで定年退職し,X7は同日
付けで定年前に勧奨退職したところ,同上告人らは,これに先立ち,平成16年1
0月ころ又は同17年1月ころ,上記制度に係る平成16年度東京都公立学校再雇用職員(教育職員)の採用選考の申込みをしたが,都教委は,上記不起立行為は職務命令違反等に当たる非違行為であり,東京都公立学校再雇用職員設置要綱が選考要件として掲げる「正規職員を退職・・する前の勤務成績が良好であること」の要件を欠くとして,いずれも不合格とした。

また,X8,X9,X2,X10,X12,X11及びX1は平成18年3月31日付けで定年退職し,X13は同日付けで定年前に勧奨退職したところ,同上告人らは,これに先立ち,平成17年10月ころ又は同18年1月ころ,上記制度に係る平成17年度東京都公立学校再雇用職員(教育職員)の採用選考の申込みをしたが,都教委は,同様の理由で,いずれも不合格とした。

(6) 上告人らは,卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為を拒否する前提として,大別して,① 戦前の日本の軍国主義やアジア諸国への侵略戦争とこれに加功した「日の丸」や「君が代」に対する反省に立ち,平和を志向するという考え,② 国民主権,平等主義等の理念から天皇という特定個人又は国家神道の象徴を賛美することに反対するという考え,③ 個人の尊重の理念から,多様な価値観を認めない一律強制や国家主権に反対するという考え,④ 教育の自主性を尊重し,教え子たちを戦場に送り出してしまった戦前教育と同様に教育現場に画一的統制や過剰な国家の関与を持ち込むことに反対するという教育者としての考え,⑤これまで人権の尊重や自主的思考及び自主的判断の大切さを強調する教育実践を続けてきたことと矛盾する行動はできないという教育者としての考え,⑥ 多様な国籍,民族,信仰,家庭的背景等から生まれた生徒の信仰や思想を守らなければならないという教育者としての考え等を有している。

3(1) 上記のような考えは,「日の丸」や「君が代」が過去の我が国において果たした役割に関わる上告人ら自身の歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上ないし教育上の信念等ということができるところ,上告人らは,卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,「日の丸」や「君が代」に尊重の意を表するものであって,上告人らの考えとは根本的に相容れないものであるから,このような考えを有する上告人らに対して職務命令によってこれを強制することは,個人の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反する旨主張する。

しかしながら,本件各職務命令の発出当時,公立高等学校における卒業式等の式典において,国旗としての「日の丸」の掲揚及び国歌としての「君が代」の斉唱が広く行われていたことは周知の事実であって,学校の儀式的行事である卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,一般的,客観的に見て,これら式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであり,かつ,そのような所作として外部からも認識されるものというべきである。

したがって,上記国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,その性質の点から見て,上告人らの有する歴史観ないし世界観を否定することと不可分に結び付くものとはいえず,上告人らに対して上記国歌斉唱の際の起立斉唱行為を求めることを内容とする本件各職務命令は,上記の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものということはできない。

また,上記国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,その外部からの認識という点から見ても,特定の思想又はこれに反対する思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難であり,職務上の命令に従ってこのような行為が行われる場合には,上記のように評価することは一層困難であるといえるのであって,本件各職務命令は,特定の思想を持つことを強制したり,これに反対する思想を持つことを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものということもできない。

そうすると,本件各職務命令は,これらの観点において,個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するものと認めることはできないというべきである。

(2) もっとも,上記国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,一般的,客観的に見ても,国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であるということができる。

そうすると,自らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となる「日の丸」や「君が代」に対して敬意を表明することには応じ難いと考える者が,これらに対する敬意の表明の要素を含む行為を求められることは,その行為が個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る行為そのものではないとはいえ,個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行動(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなる限りにおいて,その者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることは否定し難い。

そこで,このような間接的な制約について検討するに,個人の歴史観ないし世界観には多種多様なものがあり得るのであり,それが内心にとどまらず,それに由来する行動の実行又は拒否という外部的行動として現れ,社会一般の規範等と抵触する場面において,当該外部的行動に対する制限が必要かつ合理的なものである場合には,その制限によってもたらされる上記の間接的な制約も許容され得るものというべきである。

そして,職務命令においてある行為を求められることが,個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行動を求められることとなる限りにおいて,当該職務命令が個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があると判断される場合にも,職務命令の目的及び内容には種々のものが想定され,また,これによってもたらされる上記の制約の態様等も,職務命令の対象となる行為の内容及び性質並びにこれが個人の内心に及ぼす影響その他の諸事情に応じて様々であるといえる。

したがって,このような間接的な制約が許容されるか否かは,職務命令の目的及び内容並びにこれによってもたらされる上記の制約の態様等を総合的に較量して,当該職務命令に上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

これを本件についてみるに,本件各職務命令に係る国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,前記のとおり,上告人らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となるものに対する敬意の表明の要素を含むことから,そのような敬意の表明には応じ難いと考える上告人らにとって,その歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行動となるものである。この点に照らすと,本件各職務命令は,一般的,客観的な見地からは式典における慣例上の儀礼的な所作とされる行為を求めるものであり,それが結果として上記の要素との関係においてその歴史観ないし世界観に由来する行動との相違を生じさせることとなるという点で,その限りで上告人らの思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があるものということができる。

他方,学校の卒業式や入学式等という教育上の特に重要な節目となる儀式的行事においては,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図ることが必要であるといえる。法令等においても,学校教育法は,高等学校教育の目標として国家の現状と伝統についての正しい理解と国際協調の精神の涵養を掲げ(同法42条1号,36条1号,18条2号),同法43条及び学校教育法施行規則57条の2の規定に基づき高等学校教育の内容及び方法に関する全国的な大綱的基準として定められた高等学校学習指導要領も,学校の儀式的行事の意義を踏まえて国旗国歌条項を定めているところであり,また,国旗及び国歌に関する法律は,従来の慣習を法文化して,国旗は日章旗(「日の丸」)とし,国歌は「君が代」とする旨を定めている。そして,住民全体の奉仕者として法令等及び上司の職務上の命令に従って職務を遂行すべきこととされる地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性(憲法15条2項,地方公務員法30条,32条)に鑑み,公立高等学校の教職員である上告人らは,法令等及び職務上の命令に従わなければならない立場にあり,地方公務員法に基づき,高等学校学習指導要領に沿った式典の実施の指針を示した本件通達を踏まえて,その勤務する当該学校の各校長から学校行事である卒業式等の式典に関して本件各職務命令を受けたものである。

これらの点に照らすと,公立高等学校の教職員である上告人らに対して当該学校の卒業式や創立記念式典という式典における慣例上の儀礼的な所作として国歌斉唱の際の起立斉唱行為を求めることを内容とする本件各職務命令は,高等学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものであるということができる。

以上の諸事情を踏まえると,本件各職務命令については,前記のように上告人らの思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面はあるものの,職務命令の目的及び内容並びにこれによってもたらされる上記の制約の態様等を総合的に較量すれば,上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるものというべきである。

(3) 以上の諸点に鑑みると,本件各職務命令は,上告人らの思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するとはいえないと解するのが相当である。


谷直樹
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by medical-law | 2011-06-07 07:11 | 司法