弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

米国FDA,“奇跡の薬”アバスチン,乳がん治療の適応承認取り消しへ

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◆ 抗がん剤アバスチン

夢の新薬と宣伝されたのはイレッサですが,アバスチン (Avastin)は分子標的治療薬の一つで,“奇跡の薬”と謳われ,治療効果が期待されていました.2010年に68億ドルを売り上げた薬です.

日本では,ロシュグループの中外製薬が販売しています.
日本での適応は,「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」と「扁平上皮がんを除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」ですが,中外製薬は乳がんに対する適応追加を申請しています.

2011年6月4日の米国臨床腫瘍学会では,アバスチンが卵巣がんの進行を遅らせ,死亡率を減少させることが報告され,ロシュによると,この報告は卵巣がん治療用の承認申請に用いるだろう,とのことです.
産経biz「アバスチンに卵巣がん抑制効果」ご参照

◆ 2008年,米国の迅速承認制度で乳がん治療の適応を取得

米国では,ロシュ社の子会社の米国ジェネンテック社が,2008年2月,多国籍臨床第3相試験「E2100」の結果(腫瘍の成長を平均5カ月半遅らせる)に基づき,迅速承認制度により,パクリタキセルとの併用療法での乳がん治療の適応を取得しました.

◆ 市販後の臨床試験の結果

ロシュと米国ジェネンテック社は,AVADO試験,RIBBON-1試験を実施しましたが,全生存期間の改善は認められず,無増悪生存期間は約1カ月(中央値)しかありませんでした.
市販後に実施された4つの臨床試験で,アバスチンは全生存期間改善のエビデンスを伴わず,無増悪生存期間に対する影響はごくわずかで,胃内部の損傷,出血などの副作用リスクが効果を上回っていました.
そこで,FDAの諮問委員会は,2010年7月,12対1で乳がん適応の取り消しを支持しました.
FDAは,米国ジェネンテック社に乳がん適応の自主的な承認取り下げを勧めましたが,同社は公聴会での反論のみちを選びました.

◆ 公聴会とFDAの抗腫瘍剤諮問委員会の判断

FDAの抗腫瘍剤諮問委員会は,2011年6月29日,アバスチンの乳がん治療に対する承認を取り消すことを6対0で支持しました.
WSJ「FDA諮問委、アバスチンの乳がん治療承認取り消しを支持」は次のとおり報じています.

表決に先立ち開催された2日間の公聴会では議論が白熱した。公聴会では、乳がん患者が証言し、一部はアバスチンが「奇跡の薬」だと主張。その一方で、反対証言した人の中には、薬の副作用で亡くなった患者の話をする人もいた。

諮問委のメンバーであるクリーブランド・クリニック研究所のMikkael Sekeres氏は、もしアバスチンに効果があるなら、ある程度の副作用を甘受する用意はあるが、効果が「最小」にとどまっているため、これほど強い副作用は受け入れられないと諮問委は判断したと述べた。

FDAで乳がん治療へのアバスチン使用に対する最終的な判断を下すのは、同局のマーガレット・ハンバーグ局長だ。他のがん治療へのアバスチン使用承認は依然として有効であり、今回の表決からは影響を受けない。


米国ジェネンテック社は,“we remain ready to collaborate with the FDA to find a solution that is in the best interest of patients who need Avastin.”と述べています.FDAとの取引妥協を試みるつもりでしょう.

なお,2011年2月1日の米国医師会雑誌(Journal of the American Medical Association、JAMA)に掲載された論文によると,(乳がん治療にかぎらず)アバスチンの致死的有害事象のリスクは,「タキサンまたはプラチナ製剤を投与されている患者では3.5倍に跳ね上がった。しかし,それ以外の薬剤には影響されなかった。腫瘍のタイプや投与量も無関係だった。」と報告されています.
AFP「がん治療薬アバスチン、化学療法との併用で死亡リスク増加 米研究」ご参照

アバスチンは,一般に全生存期間改善のエビデンスは弱く,無増悪生存期間改善で有効と評価されますが,本当にリスクを上回る有用性があるか,よく検討した方がよいと思います。「E2100」は,ほどよいところで打ち切っているので,見かけ上延命効果があるようにみえたように思います。

日本でも迅速承認制度の導入が主張されますが,このように,迅速承認制度は,本来迅速な市販後臨床試験の評価と一体のものです.
なお,効果がないことが分かった場合,その治療費を製薬企業が負担するという考え方もあり,イタリアなどが熱心です.製薬企業にもリスクを負わせようというものです.

谷直樹
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by medical-law | 2011-07-02 03:12 | 医療