弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大分刑務所と大分市医師会立アルメイダ病院事件裁判(内科医が外科手術,後遺症)

b0206085_9222297.jpg◆ 外科手術は外科医に

訴状によれば,受刑者に対し,大分刑務所内で,内科医が腫瘍の摘出手術を行い,後遺症を残したため,国が被告として訴えられた事案です(後記朝日ご参照).

手術後内出血が止まらず腫れたため,大分市医師会立アルメイダ病院で診察を受けましたが,治療はなされなかったため,大分医師会も被告になっています.

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平成23年8月1日,第一回口頭弁論があり,国,医師会ともに請求棄却を求め,争う姿勢を示しました.

国は,「刑務所内の手術と後遺症には因果関係がない」という理由です.内科医が外科手術を行ったことは争っていないようです.

内科医が腫瘍の摘出手術を行ったことは,不適切と言えるのではないでしょうか.少なくとも,適切な医療を受ける権利の侵害になるでしょう.
受刑者は,自由に病院,医師を選べない立場にあるのですから,刑務所には,(内科医ではなく)外科医による手術を受けさせるため転医させる義務があるはずです.

受刑者の医療を受ける権利については,多くの問題が起きており,弁護士会が繰り返し勧告していますが,なかなか改まりません,
本件裁判の判決に期待いたします.

◆ 報道

朝日新聞(8月3日)「受刑者が国と医師会を提訴 「刑務所内の手術で後遺症」」は,次のとおり報じました.

「大分刑務所(大分市畑中)内での手術などで後遺症が残ったとして男性受刑者(29)が国と大分市医師会を相手取り約150万円の損害賠償を求める訴えを大分地裁に起こした。第1回口頭弁論が1日あり、国と医師会は請求棄却を求めた。

 訴状によると男性は刑務所内で受刑中の2007年11月ごろ下半身に腫瘍(しゅ・よう)ができた。刑務所内の内科医が腫瘍の摘出手術をしたが、内出血が止まらず腫れたため、大分市医師会立アルメイダ病院で診察。医師は診察のみで治療はしなかった。その後男性の下半身に炎症が生じ、現在も後遺症が残っている。

 男性は「十分な器具や装置がない刑務所で専門外の未熟な知識の医師が手術をした。医師会は下半身が腫れ上がって変色していることを認識しながら、適切な処置をしなかった」と訴えた。国は答弁書で「刑務所内の手術と後遺症には因果関係がない」、医師会は「刑事施設の職員でない医師の立場でした診療は国家賠償法が適用される」と主張した。(軽部理人) 」


大分医師会の主張はわかりにくいですが,大分市医師会立アルメイダ病院での診察についても,国家賠償法が適用され,(責任を負うとすれば)国が責任を負う(=医師会は責任を負わない),という意味でしょう.

◆ 拘禁者の医療を受ける権利~裁判例

東京地裁平成16年1月22日判決は,拘禁者の医療を受ける権利について,次のとおり判示しました.

「a 拘置所における適切な医療を受ける権利
(a) 何人も,自らの健康を保持し,生命を維持するために必要かつ適切な医療を受ける機会を与えられるべきことは,最も重要な基本的人権である(憲法13条,25条,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約12条1項参照)。

(b) そして,拘禁施設の適正な管理体制を維持するために,被疑者・被告人が外部の医師を任意に選択し自由にその診療を受けることは制限されている(監獄法42条)が,在監者といえども,一般に国民が社会生活上享受すべき水準の,専門的資格のある医師による治療を受ける機会が不当に制限される理由は何ら存しないのであるから,拘禁を行なう国及び当該拘禁機関の職員は,被疑者・被告人の身体を適法に拘束する反面において,在監者の診察に万全の意を用い,疾病をかかえた者に対しては,迅速かつ適切な医療行為を行い遺漏なきを期すべきことは,監獄法40条をまつまでもなく,当然の職責である。
この点,被拘禁者の医療を受ける権利について,わが国内法では明確な規定はないが,国際法規では,被拘禁者の医療を受ける権利が保障されており,これらの規約等は,わが国においても被拘禁者の処遇の基準とされるべきである(市民的及び政治的権利に関する国際規約10条,被拘禁者処遇最低基準規則22条1項,あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則・原則25,医学倫理原則・原則1,法執行官行動綱領6条参照)。

(c) さらに,医師一般としても,医療を受ける者に対し,良質かつ適切な医療を行う等の医療上の義務が存する(医療法第1条の2第1,2項,同条の4第1,2項参照)。

(d) 以上に加え,自己決定権(憲法13条等)の尊重の観点及び憲法31条の要請するデュー・プロセス関係の観点を加味するならば,被拘禁者といえども,原則としてその拘禁目的(公判廷への出頭確保,罪証隠滅の防止等)からくる最小限のもの以外の人権制約は許されない。

b 拘置所における転医義務
 拘禁施設における転医義務は,単に健康状態の悪化という結果を回避するための転医義務にとどまるものではない。被拘禁者は医師や医療機関を選択する自由が認められていない状況下におかれているのであるから,拘禁施設側は,医師を選択する「権限」を独占的・排他的に有している反面として,一般国民なら受けるであろう最善の医療を受けさせ
る積極的な義務を負っているというべきである。
 そして,拘禁施設においては,仮に,とりわけ被拘禁者が高度に専門領域に属する疾病に罹患し,拘禁施設の医師あるいはその医療設備等によっては当該被拘禁者の疾病に対し,その時の医療水準に即応した診療(医療行為)が困難な場合には,自ら積極的に専門医療施設に転医させ,遺漏のない医療を受けさせる機会を与える義務を負うというべきである。
 よって,東京拘置所においても,脳梗塞のような高度に専門領域に属する疾病で,かつ重病の場合であるため,拘置所内においては,医療水準に応じた医療行為を被拘禁者に対して提供できない場合には,前記医療機会提供義務の履行として,重病患者を外部の専門医療機関に可能なかぎり速やかに転医させる義務がある。」

拘置所と刑務所の違いはありますが,拘禁者という点では同じですから,大分の事案についても,同様の理が当てはまると思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-08 02:07 | 医療事故・医療裁判