弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

山形大学医学部附属病院,調査専門委員会の調査結果(J字型ガイドワイヤーによる右室穿孔)

b0206085_719267.jpg山形大学医学部附属病院が設置した調査専門委員会の調査結果の概要が,平成23年8月23日公表されました.

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本件は,「J字型ガイドワイヤーを挿入した際に想定困難な状況が発生,右室穿孔をきたし,極めて短時間のうちにその穿孔部位より心嚢内に多量に出血,心タンポナーデをきたし心肺停止に至った」ものと推定しています.
「予見が難しく,かつその後の処置も適切であったにもかかわらず救命できなかった,非常に稀なケースであった」としていますが,「影響度レベル5(死亡)のアクシデント(過誤あり)と判定」しています.
以下,調査結果の内容です.

「1 患者さんは県内在住の70歳代の男性です。

2 5月下旬,抗癌剤の点滴並びに栄養状態の改善のために,中心静脈カテーテルを右鎖骨下静脈から挿入いたしました。この判断は医学的に妥当です。ガイドワイヤーやカテーテル挿入に明らかな問題はなく,手技は順調に行われ,所要時間は約25分でした。カテーテル留置後,患者さんに症状のないことを確かめております。

3 カテーテル留置約20分後に患者さんが急変し,主治医は直ちに蘇生処置を開始しました。同時に,病棟にいた医師4名と集中治療部医師に応援を要請し,救命を図りましたが,約1時間後に死亡されました。救命蘇生処置として特に問題はありませんでした。

4 病理解剖の所見では,心嚢内に400 mlの血液が貯留しており,これによる心タンポナーデが死因とされました。右心室(右室)の心外膜に約15×15 mmの暗褐色部があり,同部位を顕微鏡で観察すると,右室内腔側からのごく細いものによる穿通性損傷と判断される所見があり,ここからの出血が心タンポナーデの原因と考えられました。

5 病理診断の結果,直接的な死因は,右室の穿通によって起こった心タンポナーデであるとされましたが,今回のケースにおいては,物理的に穿通部位へ到達可能なのはガイドワイヤーのみでした。ただしガイドワイヤーは柔らかくかつ先端がJ字型をしており右室壁を穿通する確率は極めて低いと考えられました。

6 ガイドワイヤー等の細いもので右室壁を穿通したとしても,通常は心停止に至るまで1日~数日を要し,緊急手術等の対応で救命可能と思われます。今回,右室穿孔から心
肺停止に至る経過が極めて速かった理由は明らかにすることができませんでした。

7 上記の点を総合的に考え合わせると,J字型ガイドワイヤーを挿入した際に想定困難な状況が発生,右室穿孔をきたし,極めて短時間のうちにその穿孔部位より心嚢内に多量に出血,心タンポナーデをきたし心肺停止に至ったと推測されます。本事例は予見が難しく,かつその後の処置も適切であったにもかかわらず救命できなかった,非常に稀なケースであったと結論されます。

8 以上の調査結果に基づき,医療事故等防止対策委員会で慎重に審議した結果,本事例については,中心静脈カテーテル挿入にあたり,臨床実務的に明らかな手技上の問題があったとは言えず,急変後の処置も適切であったが,結果として,中心静脈カテーテル挿入手技中に右室壁の穿通を引き起こし,原因不明の急速な心タンポナーデを発症させ,不幸な転帰となったことを考慮し,影響度レベル5(死亡)のアクシデント(過誤あり)と判定しました。

9 患者さんのご家族には,これらの事実について説明いたしました。

10 調査専門委員会委員は,院内から病院長久保田功以下6名,外部から4名(医師3名,弁護士1名)の計10名です。」


「ガイドワイヤーは柔らかくかつ先端がJ字型をしており右室壁を穿通する確率は極めて低い」にしても,実際に右室壁を穿通しています.本件は,調査委員会を設置し,調査し公表されましたが,今まで原因不明,合併症として処理されてきた例もあるのではないかと思います.
右室壁の穿通を引き起こしたことについて,臨床実務的に明らかな手技上の問題があったとは言えないが,「過誤」があった(すなわち,賠償する)との判定です. この判定の仕方は正しいと思います.

なお,スポーツ報知「カテーテルのワイヤが心臓貫通し死亡」
によると,「久保田功病院長は「ワイヤの使用方法を変更するなどして、予防策を徹底する」と話した。」とのことです.

J字型ガイドワイヤーによる右室穿孔事故について,院外の委員もいれての,この調査結果は,貴重です.J字型ガイドワイヤーによる穿孔事故の確率は極めて低いにしても,対策が必要ですので,予防策徹底の具体的内容を知りたいところです.
読売「患者死亡 山大病院「過誤あった」」
によると,「同病院では今後、中心静脈カテーテル挿入時のマニュアルを策定する予定」とのことです.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-24 06:40 | 医療事故・医療裁判