弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

尊厳擁護分科会会合と上田里美氏の名誉回復

b0206085_10413349.jpg京都の看護助手の事件報道で,北九州の看護師の事件を想起した人も多いと思います.

これは,北九州八幡東病院の看護師上田里美氏が,平成19年に適正なフットケアを行ったのに,爪切り傷害として不当に起訴され,一審の福岡地裁小倉支部判決(田口直樹裁判長)では有罪とされましたが,福岡高裁平成22年9月16日判決(陶山博生裁判長)で無罪(確定)となったものです.
上田里美氏の名誉回復は,しっかり図られる必要があると思います.

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朝日新聞「つめ切除分科会が最終会合/市、月内判断」(平成23年8月25日)は,次のとおり報じています.

北九州市の民間病院で看護師が認知症の入院患者に施した足のつめ切り行為を、市が「虐待」と認定した経緯について検証する尊厳擁護分科会の最後の会合が24日夜、市役所で開かれた。分科会は虐待認定の是非について見解をまとめたが、「近く発表する」として内容を明らかにしなかった。市はこれを受け、月内にも認定の是非を判断する。

 約2時間半にわたる会合は非公開。会合後、分科会長の伊藤直子・西南女学院大教授は「各委員の意見を尊重して取りまとめた」と述べるにとどめた。

 市は2007年、看護師の上田里美さん(45)から意見聴取をしないまま市の第三者機関である尊厳擁護専門委員会(現分科会)の意見を受け、上田さんの行為を虐待と認定。上田さんは傷害罪に問われたが昨年、福岡高裁で無罪判決が確定し、市は分科会に再検証を求めていた。

 上田さんは代理人を通じて「北九州市が虐待ではなかったと判断して下さることを信じて待ちたい」とコメント。この日の定例会見で、北橋健治市長は「そう遠くないしかるべき時に、市の方針を表明したい」と話した。(山根久美子)


【追記】

◆ 産経「「虐待」認定を撤回 無罪確定で北九州市」(平成23年8月26日)は,次のとおり報じました.

「高齢の認知症患者のつめ切りをめぐって傷害罪に問われ、無罪が確定した看護師、上田里美さん(45)の行為を高齢者虐待防止法に基づき「虐待」と認定していた北九州市は26日、「虐待とはいえない」として認定を撤回すると発表した。

 市は平成19年、上田さんの行為を「必要性がない措置」「医師の指示を仰いでいない」と問題視、虐待と認定したが、「正当な看護ケア」とした福岡高裁の確定判決を受けて見直した。

 事件当時の認定を「やむを得なかった」とする一方で、今後は刑事裁判確定まで断定的な判断はせずに慎重に対応する-としている。北橋健治市長は記者会見で「上田さんは長い間、大変つらい思いをされたと思う。今回の教訓を忘れてはならない」と述べた。」

◆ 西日本新聞「爪切り「虐待」を撤回 北九州市 上田さん名誉回復」(平成23年8月26日)は,次のとおり報じました.

「認知症患者への爪切りケアで傷害罪に問われ、福岡高裁で逆転無罪が確定した北九州100+ 件八幡東病院(北九州市)の元看護課長上田里美さん(45)の行為を同市が2007年に「虐待」と認定していた問題で、同市の垣迫裕俊保健福祉局長は26日記者会見し、認定を取り消すと発表した。上田さんの無罪確定後も、認定が撤回されない状態が10カ月以上続いていたが、行政判断の上でも4年ぶりに上田さんの名誉回復が実現した。

 上田さんが逮捕されたのは07年7月2日。市の第三者機関「尊厳擁護分科会」(当時は尊厳擁護専門委員会)は同17日、上田さんの行為について高齢者虐待防止法に基づき、(1)必要性がない措置だった(2)医師の指示を仰がなかった-など7つの理由で「虐待」と確認。市も同23日、これに準じて虐待と認定した。

 これに対し、刑事事件で無罪が確定した上田さんが10年11月、「個人への人権侵害に当たるうえ、介護現場を萎縮させる」として、認定取り消しを求める陳情書を市に提出。今年4月には、全国の医療関係者から集めた7650人分の賛同署名を市に提出。8月8日には分科会で意見陳述し、「患者が嫌がるようなことはしていない」とケアの正当性を主張していた。

 北橋健治市長は24日の定例会見で虐待認定の見直しについて「大変重要な案件だと認識している。市として主体的な責任で判断したい」と述べていた。」

◆ 読売「元看護課長の爪処置、虐待とはいえない…北九州」(平成23年8月26日)は次のとおり報じました.

「入院患者の爪の処置を巡って傷害罪に問われ、福岡高裁で無罪が確定した北九州八幡東病院(北九州市)の元看護課長、上田里美さん(45)について、北九州市は26日、記者会見を開き、上田さんの行為について、「虐待」とした判断を見直し、「虐待とはいえない」と改めた。

 市は2007年7月、市の第三者機関・尊厳擁護分科会の審議を基に、上田さんの行為を高齢者虐待防止法に規定された「虐待」と認定したが、無罪確定後の10年10月、北橋健治市長が認定に至る経緯を検証すると表明、翌11月に上田さんも市に見直しを申し入れた。

 上田さんは「虐待ではなかったと明確に述べていただいてうれしく思う」とのコメントを出した。」


◆ 毎日「つめ切り事件:「虐待」認定撤回…北九州市」(平成23年8月26日)は,次のとおり報じました.

「北九州八幡東病院で07年に起きた「つめ切り事件」で、北九州市は26日、傷害罪に問われ福岡高裁で無罪が確定した元看護課長、上田里美さん(45)が高齢の認知症患者にしたつめ切り行為を「虐待とはいえないと判断した」と発表。07年当時の「虐待」認定を撤回した。判断は無罪判決を踏まえた一方、当時の虐待認定を有識者の判断を踏まえたことなどを理由に「やむを得なかった」とした。

 昨年10月の無罪判決確定を受け、市は07年の虐待認定の見直し作業を決断。上田さんも市に認定取り消しを求めた。これを受け、第三者機関「尊厳擁護専門委員会(現・分科会)」が昨年末から当時の認定根拠などを再検証していた。

 分科会は24日まで検討。「裁判中に病院関係者の証言が『(上田さんの行為は)ケアの範ちゅう』と変化した」「控訴審の判断を尊重しなければならない」などの意見があったという。最終的に委員8人全員が「虐待ではない」との見解で一致したという。

 上田さんは代理人の弁護士を通じ「市から『虐待ではなかった』と明確に述べていただきうれしい。看護や介護の現場が萎縮することなく取り組めるとほっとした」とコメントした。【河津啓介、仙石恭】」



◆ 感想

このようにして,ようやく,上田氏の名誉回復が図られました.
ほっとする反面,聴取手続きを践まず,一方的に虐待を決めつけた,当時の認定方法の問題は重大だと思います.事件当時の認定を「やむを得なかった」とするのは疑問で,もっときちんと謝るべきだと思います.
 
また,本件は,法律家の役割について示唆するところがあるように思います.

不当な起訴を行ったのは法律家(検察官)ですが,それと戦い正義と人権を守ったのも法律家(弁護人弁護士)です.
不当な判決を下したのは法律家(裁判官)ですが,曇りのない目でそれを覆し無罪判決を下したのも法律家(裁判官)です.

司法が医療に介入したことが悪い,というのではなく,誤った判断がなされたことが問題だと思います.
医療者も含めて医療にかかわるすべての人の人権が保障されることが,患者の人権を守るために必要なことです.人権を守る法律家の職務の重大性と責任を改めて示す事件だと思います.


谷直樹
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by medical-law | 2011-08-26 10:15 | 医療