弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

新潟地裁平成23年8月29日判決(造影剤で急性腎不全となり約4か月後に死亡)

新潟地裁平成23年8月29日判決(造影剤で急性腎不全となり約4か月後に死亡)_b0206085_13404441.jpg◆ 事案

患者(男性,当時72歳)は,糖尿病や慢性腎不全(CKD)だったにもかかわらず、平成15年1月,済生会新潟第二病院で,心臓カテーテル検査のため通常より多い450ミリリットルの造影剤を投与されました.
患者は,造影剤の副作用で急性腎不全となり,人工透析を行っていましたが,約4カ月後に亡くなりました.

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◆ 判決

新潟地裁判決は,「腎機能低下を看過し、造影剤の使用量を少なくする検査方法を検討せず、450ミリリットルもの造影剤を与えたのは不適切」と指摘し,「造影剤の使用で男性の腎機能が悪化し、免疫が低下していたところに菌が侵入し、死亡したと認められる」とし,済生会新潟第二病院を開設する社会福祉法人恩賜財団済生会に対し,約6020万円の損害賠償金の支払いを命じました.

◆ 感想

医師が患者の状態,特性を考慮せず,漫然と造影剤を投与した場合,注意義務違反となります.

高齢者,腎機能が低下している人,脱水などで体液量が減少している人,糖尿病患者,多発性骨髄腫患者は,薬剤性急性腎不全の危険因子です.多量投与は,その危険を高めます.

本件後のものですが,「非イオン性のヨード系造影剤が普及してきた現在においても,すべてのステージのCKD患者において造影剤投与後の腎機能障害が10%以下に発症する.CKDのステージに応じて発症リスクは高くなるが,健常人にも発症する.糖尿病の合併もリスクであるとされているが,明確なエビデンスはない.」(「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2009」)とされています.

もともと慢性腎不全(CKD)で腎機能が低下している,72歳の糖尿病患者に,450ミリリットルもの造影剤を投与したのは,明らかに注意義務違反(過失)にあたります.

本件は,造影剤投与⇒急性腎不全⇒免疫力低下⇒感染⇒死亡の因果関係も認められています.

本判決は適切と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-30 13:29 | 医療事故・医療裁判