弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

市立旭川病院,医療過誤を認め示談(酸素を送るチューブを食道に入れた事案)

b0206085_11422213.jpg◆ 報道

北海道新聞「医療ミスで植物状態に 市立旭川病院、5400万円賠償で合意」(平成23年9月5日)は,次のとおり報じました.

「市立旭川病院(青木秀俊院長)で昨年2月、医師が手術直後の男性患者に対し、酸素を体内に送るチューブを誤って食道に入れる医療ミスがあり、患者が植物状態になっていることが4日分かった。旭川市が損害賠償として約5400万円を患者側に支払うことで合意した。

 旭川市は6日開会の定例市議会に関連議案を提案する。同病院は「あってはならないミスで大変申し訳ない。医師の技術向上を図り、再発防止に努めたい」(事務局)と話している。」

◆ 感想

経管栄養チューブの気管支への誤挿入事故で罰金30万円(盛岡略式命令平成14年12月17日),罰金50万円(富良野略式命令平成16年4月2日)に処せられた例がありますが(飯田英男氏著『刑事医療過誤Ⅱ増補版』),この逆の例をはじめて知りました.逆の場合は,普通すぐに気がつくのではないかと思いますが,本件は酸素がいっていないことに気付くのが遅かったようです.

酸素を体内に送るチューブを誤って食道に入れたことは,注意義務違反にあたります.
その注意義務違反に因っていわゆる植物状態になったのですから,因果関係も認められます.
したがって,市立旭川病院を開設している旭川市には損害賠償義務があります.
このような医療過誤があったことは残念ですが,示談によって早期に解決できたことはよかったと思います.

【追記】
朝日新聞「酸素チューブ誤挿入 市立旭川病院、賠償」(平成23年9月6日)は,次のとおり報じました.

 「旭川市立旭川病院は5日、医療ミスで男性患者が植物状態になったとして、患者側に損害賠償として約5400万円を支払う方針を明らかにした。市は同日の市議会運営委員会に報告、6日開会の市議会に関連議案を提出する。

 病院によると、昨年2月18日、30代の男性患者が内臓手術を受け、いったん意識が戻った後に突然呼吸困難になった。医師が酸素を送るチューブを気管でなく、過って食道に挿入していたことに気づき、約8分後に気管に入れ直したが、患者は昏睡(こんすい)状態になった。

 患者はその後も意識が戻らず、昨年10月に植物状態である遷延性意識障害と診断された。病院は医療ミスを認め、患者側に謝罪。示談の話し合いを続け、生涯給や慰謝料などを考慮し5476万円を支払うことで1日に合意した。

 西野泰史事務局長は「医療態勢を強化し、再発防止に努めたい」としている。」


医師には,挿管に際し,(食道ではなく)気管に正しくチューブを挿入するという注意義務があります。挿管が難しいからと言って,この注意義務がないということにはなりません.奇形で通常気管のある位置に食道があったなどという場合でない限り,医師が通常の注意を払うことで誤挿入は避けられるはずです.いくら気管と食道の位置が近いといっても,医師はそのことを十分承知しているはずです.
医師がその注意義務に反し誤挿入した場合は,その医師に注意義務違反があると言えます.

いったん誤挿入をしたが,ただちに誤りに気づいて,気管に正しく挿入し,何らの問題が生じなかった,という場合は,医療過誤として責任を問われることはありません.この場合,結果(損害)が発生していないからです.

次に,医師Aが誤挿入をし,医師Bが誤挿入にただちに気づかず気管に正しく挿入し直したが,結果(損害)が生じたという場合を考えてみましょう.

挿管しても,呼吸状態が改善しないという場合,複数の原因が考えられます.誤挿入の可能性も考えねばならないでしょうが,まさか誤挿入しているとはすぐに思えない場合もありますし,挿管やり直しにもある程度の時間がかかります.
誤挿入に気づくまでの時間,挿管やり直しにかかった時間がそれぞれ合理的なものであれば,医師Bに注意義務違反はありません.
この場合,医師Aの誤挿入が結果と因果関係のある注意義務違反となります.

これに対し,医師Bにも注意義務違反が認められる場合は,「医師Aの注意義務違反と結果との因果関係」,「医師Bの注意義務違反と結果との因果関係」がそれぞれ具体的事案に即して問題になります.

ただ,何れにしても,「挿管後に呼吸状態が改善しないときは誤挿入の可能性も含めて確認行為が行われ,誤挿入しても,確認行為後に正しく挿入され直されるから誤挿入自体は注意義務違反ではない」という主張があるとすれば,その主張は謬論でしょう.

また,診療契約は準委任契約で,結果を約するものではないから,誤挿入しない,という注意義務がない,という主張があるとすれば,これも謬論でしょう.チューブを挿入するとき注意して正しい場所に入れるという義務があるはずです.気管内挿管で,注意してチューブを気管にいれる注意義務がないとは,私にはとうてい考えられません.

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-05 11:36 | 医療事故・医療裁判