弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

市立旭川病院,医療過誤を認め示談(酸素を送るチューブを食道に入れた事案)補足

b0206085_14515466.jpg◆ 或る疑問について

「市立旭川病院,医療過誤を認め示談(酸素を送るチューブを食道に入れた事案)」で,私は「酸素を体内に送るチューブを誤って食道に入れたことは,注意義務違反にあたります.」と書きました.

これに対し,「挿入後の確認を普通行うべきところを怠ったというならそれは別ですが、誤挿入だけで注意義務違反だという人は、準委任契約の基本を理解していないのではないか、弁護士能力として如何なものかと疑います」というツイッターがあったようです.

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

医師の義務について,●●する義務,●●しない義務,という表現をすることがありますが,それは医療契約が病気の治癒を約束するものではなく,通常の診療を行うことを約束するものであることと矛盾するものではありません.

このツイッターの方は,おそらく,医師が通常の注意を払っていても誤挿入は避けられない,と考えるのでしょう.
しかし,(あまり考えられないですが奇形で通常気管のある位置に食道があったなどという場合でない限り)医師が通常の注意を払うことで誤挿入は避けられるはずで,避けねばならない,というのが法の立場である,と考えます.いくら気管と食道の位置が近いといっても,医師はその位置関係を十分承知しているはずです.

医師には,挿管に際し,(食道ではなく)気管に正しくチューブを挿入するという注意義務があります。挿管が難しいからと言って,この注意義務がないということにはなりません.
医師がその注意義務に反し誤挿入した場合は,その医師に注意義務違反があると言えます.

◆ 確認について

いったん誤挿入をしたが,ただちに誤りに気づいて,気管に正しく挿入し,何らの問題が生じなかった,という場合は,医療過誤として責任を問われることはありません.この場合,結果(損害)が発生していないからです.

次に,医師Aが誤挿入をし,医師Bが誤挿入にただちに気づかず気管に正しく挿入し直したが,結果(損害)が生じたという場合を考えてみましょう.

挿管しても,呼吸状態が改善しないという場合,複数の原因が考えられます.誤挿入の可能性も考えねばならないでしょうが,まさか誤挿入しているとはすぐに思えない場合もありますし,挿管やり直しにもある程度の時間がかかります.
誤挿入に気づくまでの時間,挿管やり直しにかかった時間がそれぞれ合理的なものであれば,医師Bに注意義務違反はありません.
この場合,医師Aの誤挿入が結果と因果関係のある注意義務違反となります.

これに対し,医師Bにも注意義務違反が認められる場合は,「医師Aの注意義務違反と結果との因果関係」,「医師Bの注意義務違反と結果との因果関係」がそれぞれ具体的事案に即して問題になります.

◆ 私見

ただ,何れにしても,「挿管後に呼吸状態が改善しないときは誤挿入の可能性も含めて確認行為が行われ,誤挿入しても,確認行為後に正しく挿入され直されるから誤挿入自体は注意義務違反ではない」という主張があるとすれば,その主張は謬論でしょう.

また,診療契約は準委任契約で,結果を約するものではないから,誤挿入しない,という注意義務がない,という主張があるとすれば,これも謬論でしょう.
チューブを挿入するとき注意して正しい場所に入れるという義務があるはずです.気管内挿管で,注意してチューブを気管に入れる注意義務がないとは,私には到底考えられません.

【追記】

福岡地裁平成11年7月20日判決は,新生児の誤挿管(食道挿管)の事案で,麻酔科医師には気管内挿管を的確に行う注意義務があること,産科医師には挿管後に肺の酸素化ができていることを確認する義務があること,をそれぞれ認めています.

谷直樹
下記バナーのクリックを御願いいたします.クリックは一日一回有効です.7日間のクリック数合計が順位に反映します.

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2011-09-07 14:37 | 医療事故・医療裁判