弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

新潟県立がんセンター新潟病院,和解勧告受諾(心臓カテーテルで血管内膜を傷つけ,急性心筋梗塞の事案)

b0206085_9271948.jpg◆ 報道
読売新聞「医療ミスで1350万支払い 県立がんセンター検査手術で血管損傷」(平成23年9月10日)は,以下のとおり報じました.

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「県は9日、県立がんセンター新潟病院(新潟市)で2004年3月、狭心症の検査をした胎内市の男性患者(当時60歳代)の手術で血管内膜を傷つけ、心筋梗塞になる医療ミスがあり、患者に1350万円を支払うことを決めたと発表した。

 発表によると、男性は、心臓を取り囲む動脈2か所で血管が狭くなっているのが見つかった。血管にカテーテルを挿入して血管を広げる手術をしたが、その際に血管内膜を傷つけてしまったという。この結果、男性は急性心筋梗塞を発症した。

 患者側は05年3月、県を相手に約2200万円の損害賠償を求める訴訟を新潟地裁に起こした。

 同病院は「早期解決の必要性などを総合的に判断した。結果として患者に身体的、精神的苦痛を与えたことを重く受けとめている。安全な医療の提供に努めたい」としている。」


◆ 感想

記事には,「検査」,「手術」という表現がありますが,本件は「検査」や外科が行う「手術」ではないでしょう.
「血管にカテーテルを挿入して血管を広げる」と書いてありますから,経皮的冠動脈インターベンション(PCI,percutaneous coronary intervention))の事案だと思います.

PCIは,冠動脈の狭窄部位を広げるため,カテーテルを冠動脈入り口まで挿入し,細いワイヤーで狭窄部位や閉塞部位を通し,ワイヤーに沿ってバルーンを進め,バルーンをふくらませて血管を拡張し,その部分にステントを留置する,という手順で行われる血管内治療です.

医師には,バルーンなどで血管を広げる際に,注意深く操作し血管内膜を傷つけない,という手技上の注意義務があります.
記事の「その際に」の意味がやや分かりにくいのですが,血管を広げる際に注意深く操作しないで血管内膜を傷つけたとすれば,注意義務違反があります.

そして,血管内膜を傷つけてしまった結果急性心筋梗塞を発症した,というのですから,注意義務違反と心筋梗塞発症との間の因果関係もあります.

したがって,新潟県が,裁判所の和解勧告を受け容れたのは,適切な判断です.

◆ 裁判例

PCIの手技ミスについての裁判例を振り返ってみます.

以前は,PCI後の異変に対する発見の遅れ,不適切な対処を捉えて,注意義務違反を認めていた裁判例が多く,PCIの手技ミスの注意義務違反を認めた裁判例がありませんでしたので,裁判所にPCIの手技ミスで注意義務違反を認めさせるのはかなりハードルが高い,とみられていました.

ただ,裁判所は,PCIで血管を広げる際に血管内膜を傷つけないように操作するという注意義務の存在自体を正面から否定したことはありませんし,棄却判決の内容をみると,穿孔したという事実を否定(東京地裁平成2年3月16日判決)するなど,事実認定の問題で患者側が敗訴しているようにもみえました.

その後,大阪地裁平成16年2月16日判決は,中心静脈カテーテルの先端で右心房底部を突いて心膜内壁を穿孔し,心タンポナーゼを合併させて心停止及びこれに伴う低酸素脳症に基因する遷延性意識障害を発生させた事案で,注意義務違反を認めました.

これが認められるなら,PCIでも同じことが言えるのではないか,と考えられ,実際,東京地裁所平成17年4月27日判決は,PCIの手技ミスを注意義務違反と認定しました.
「出血の主原因については、ガイドワイヤーが目的としていた左前下行枝の真腔を捉えず、対角枝方向へ向かい、しかも偽腔に入っていたため、偽腔内においてバルーンを拡張した結果、冠動脈を裂いて出血を招いた可能性が高いものと認められる」と,出血を医師Bの手技に起因するものと認定しました.
ただ,判決は,同時に「「被告(医師)Aが、ガイドワイヤーの先端によって血管を穿孔させた可能性も相当程度認められる」とも認定しています.
A医師の注意義務委違反は詳細に認定され,国立病院東京災害医療センターの賠償責任が肯定されました.

その後も,棄却判決(東京地裁平成18年5月18日判決)が出ていますが,それは断裂した右肺動脈の付近でバルーンを膨らませたという事実が立証できなかったためです.断裂した右肺動脈の付近でバルーンを膨らませたという事実が立証できれば,結論が変わってくる可能性があったと理解できます.

患者側がPCIの手技ミスを立証することは結構大変で,その立証ができる事案の多くは,判決に至らず,示談,和解で解決しているように思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-11 02:13 | 医療事故・医療裁判