弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

新生児蘇生法講習会

新生児蘇生法講習会_b0206085_9201196.jpg日本経済新聞「新生児の脳性まひ防げ 蘇生法の講習会広がる」(平成23年9月22日)は,次のとおり報じています.

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「出産時に新生児に起きる脳性まひを減らすための対策が進んでいる。脳に十分酸素が届かない仮死状態からの蘇生方法が適切でないと重い脳性まひになる可能性が高まるため、蘇生法を指導する講習会が注目され、これまでに出産に関わる医療者の半数超が受講した。事例分析から防止策をまとめた報告書が8月に初めて公表されたほか、不備のあった施設には改善要請も。ただ蘇生に必要な器具などがない施設もあり、普及が課題だ。

「呼吸状態が悪く、チアノーゼ(皮膚が青紫色の状態)で生まれた」。8月下旬、岸和田徳洲会病院(大阪府岸和田市)で開かれた新生児の蘇生法の実習。インストラクターが「自発呼吸がない」「血中酸素飽和度は70%」などと状態の変化を刻々と伝え、約30人の医師や助産師らが研修用の人形に2人一組で「イチ、ニ、サン」と胸骨を圧迫、手動ポンプが付いた人工呼吸用マスクを併用する蘇生法を学んだ。


10分の1は処置必要


 同病院小児科の桑原功光医師は「出生直後の新生児の10人に1人は何らかの蘇生処置が必要になる。出産に立ち会うスタッフがチームで蘇生法を学ぶことが大切」と強調した。

 参加した大阪府内の病院に勤める助産師(31)は「危険な状態の新生児の出産に立ち会ったが、ベテランの助産師が対処する様子を見守ることしかできず、歯がゆかった」と言い、「チームプレーで的確に対応できるよう職場に戻ったら知識や技術を共有したい」と意気込んだ。

 講習会は日本周産期・新生児医学会が国際標準に基づいた蘇生法を普及させるために2007年度から始めた。受講者は初年度が941人だったが昨年度は1万人を突破、累計で2万6668人に。助産師が4割、看護師が3割、医師が2割強を占め、同学会の田村正徳・新生児蘇生法委員長は「出産に関わる医療者は約4万人。全出産に標準的な蘇生法ができる医療者が立ち会う体制にしたい」という。

新生児が仮死状態でも、背中や足の裏へのさする程度の刺激のほか、吸引器で気道から羊水を除去するなど「気道確保と人工呼吸用のマスクのみで9割は蘇生可能」(田村委員長)だ。さらに仮死状態が続くならば胸骨圧迫、気道への挿管、薬物治療が必要だが、田村委員長は「新生児を逆さにしてお尻をたたく誤った方法をとる医療者もまだいる」と指摘する。

 「同じような事例が繰り返される恐れがある」。日本医療機能評価機構(東京・千代田)は7月に開催した産科医療補償制度の運営委員会で、制度開始から1年半以内に重い脳性まひとなった2例の補償を申請した診療所に対して「蘇生法などに問題がある」として改善を要請したことを明らかにした。

 同制度は出産に関連して新生児が重い脳性まひとなった場合、20年間で計3000万円を給付する一方、医療機関から診療記録などの提出を受けて産科医や小児科医などが原因を分析、再発防止を目指している。原因分析に関わった関係者は「改善要請を出した診療所は2例とも学会が推奨する蘇生法を実施していなかった」という。

 同機構は事例分析から再発防止策をまとめた報告書を8月下旬に初めて作成。昨年末までに原因分析結果を公表した15例のうち、7例は蘇生法に問題があったため、「新生児蘇生の方法が脳性まひの主たる原因ではない」としながらも「適切に行うことは脳性まひを防ぐ上で重要」と警告した。


器具ない施設も


 国際的なガイドラインは10年に改訂され、新生児の脳に十分に酸素が届いているか確認する血中酸素飽和度や心拍数は指先に付けるパルスオキシメーターを活用することになっている。だが国内の新生児医療専門施設で新生児用の装置を整備しているのは9割強、産科診療所は9割弱、助産所は4割弱にとどまっている。

 このほか新生児用の人工呼吸用のマスクなど標準的な蘇生法に必要な器具を備えていない施設もある。埼玉医大総合医療センター(埼玉県川越市)新生児科の国方徹也准教授は「蘇生法の普及とともに、一日も早く必要な器具を100%整備する必要がある」と指摘している。

(前村聡、松浦奈美)

◇            ◇

重症、1000人に0.44人 補償を適用、原因分析進む

 2009年に始まった産科医療補償制度で、同年生まれで今年6月末までに補償した重い脳性まひの新生児は139人。5歳になるまで申請できるため、日本医療機能評価機構は今後の申請分を含めると、補償対象者は年間約440人になると見込む。制度開始前に見込んでいた約500~800人をやや下回ったが、新生児1000人当たりでは0.44人の割合となる。

 脳性まひは医療ミスがなくても起きるが、「医療ミスではないか」と訴訟になるケースもあり、親や産科医にとって負担が大きい。同制度はミスの有無にかかわらず補償することで、無用な訴訟を減らす狙いがあった。一方で、8月にまとめた報告書では、原因分析した事例の共通の課題として、蘇生法だけでなく、胎児の心拍数をチェックする分娩監視装置や陣痛促進剤の使用状況などを指摘している。

 同制度の再発防止委員会の委員を務める高校教諭、勝村久司さん(50)は1990年に妻が陣痛促進剤を過剰投与された直後に急変、生まれた長女は脳性まひで生後9日目に亡くなった。「医療界では脳性まひはやむを得ないこととして扱ってきたが、なぜ起きるのか原因究明し、再発防止に取り組むことが不可欠だ」と話している。」



新生児蘇生の遅れが重大な結果を生じることもありますので,新生児蘇生の講習会は重要です.

裁判例では,新生児の誤挿管(食道挿管)は,麻酔科医師に気管内挿管を的確に行う注意義務があること,産科医師に挿管後に肺の酸素化ができていることを確認する義務があること,がそれぞれ認められています(福岡地裁平成11年7月20日判決).

新生児仮死の状態で出生した新生児について,挿管を試みなかったか,挿管を試みたけれども挿管を成功させなかったとされた事案(挿管を試みたか否かに争いがある事案)で,注意義務違反が認められています(福岡地裁平成18年1月13日判決).

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-24 00:15 | 医療