弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

薬害イレッサ東京高裁判決,確定的に因果関係があるといえない段階は緩い注意喚起でよいという変わった見解

b0206085_4295938.jpg◆ 添付文書に記載すべき危険情報とは

薬害イレッサの東京高裁判決(園尾隆司裁判長)は,後記のとおり,医薬品の添付文書における副作用の記載に製造物責任法上の欠陥又は不法行為法上の違法性があったというためには,「因果関係がある可能性ないし疑いがある」との判断が示されたのでは不足で,「因果関係がある」と認定することのできる症例が必要,というものでした.

しかし,確定的に因果関係があるといえる症例は数限られます.記載を確定的に因果関係がある症例に絞ってしまったら,医師に必要な危険情報は伝わりません.
添付文書に記載すべきなのは,医師に伝えるべきなのは,本来「因果関係がある可能性ないし疑いがある」段階の危険情報です.そして,その危険がきちんと伝わるように記載する必要があります.

製造物責任法においても,不法行為法においても,このような添付文書の役割から判断すべきです.
つまり,添付文書に記載すべき危険情報が本来「因果関係がある可能性ないし疑いがある」段階の危険情報であることをふまえて,判断することになる筈です.
したがって,「因果関係がある可能性ないし疑いがある」段階の危険情報の記載のない添付文書,危険情報の記載の不十分な添付文書は,「欠陥」です.

ところが,高裁判決は,以下のとおり,添付文書がどういうものか,製造物責任法・不法行為法が分かっていません.重大な誤認があるのです.

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◆ (東京高裁平成23年11月15日判決文一部抜粋)

 「ところで,弁論の全趣旨によれば,薬事行政上,生命・身体の保護の観点から,副作用症例と認定する際の有害事象と医薬品投与との因果関係の判定については,「因果関係を否定することができない」か否かが判断基準とされているものと認められる。この扱いは,「疑わしい場合は副作用報告の対象とする」扱い(前記2(2)8頁)と同様に,「因果関係がある可能性ないし疑いがある」症例を幅広く「副作用症例」として扱い,医薬品の投与中又は投与後に有害事象が発現した症例をできる限り広く薬事行政に生かしていくための行政上の運用指針として合理性が認められる。

 しかし,民事損害賠償法の中には,製造物責任法においても,不法行為法においても,因果関係について,上記のような判断基準は存しない。医薬品の添付文書における副作用の記載に製造物責任法上の欠陥又は不法行為法上の違法性があったといえるかどうかについて判断する場合には,添付文書の作成時において,当該有害事象と医薬品投与との間に「因果関係がある」といえる事実関係があったのか,あるいは「因果関係がある可能性ないい疑いがある」にとどまっていたのかを具体的事実に基づいて認定した上で,これに基づいて,添付文書における副作用の記載に欠陥等があったといえるかどうか判断する必要がある。原審がした「副作用症例」であるとの認定は,有害事象とイレッサ投与との聞の「因果関係を否定することはできない」との判断,すなわち,「因果関係がある可能性ないし疑いがある」との判断を示したものにとどまり,「因果関係がある」とまで認定したものではない。

この観点から上記4死亡症例について見てみると,いずれの症例についても,肺癌患者の死亡原因特定の困難性(前記2(2)(7~9頁))を反映して,次に述べるとおり,死亡とイレッサ投与との間に,因果関係の認定を揺るがす症状又は現象が存在しており,「因果関係がある可能性ないし疑いがある」との判断が示されたにとどまり,「因果関係がある」とまで認定することのできる症例は存在しない。」


薬事行政上「因果関係がある可能性ないし疑いがある」症例を集めるが,「因果関係がある」とまで認定することのできる症例がない限り,国・製薬企業は,医師に対しとくにきちんと注意喚起する義務はない,ということなのです.

原発事故に関連して「風評被害」という言葉が,情報を隠すために使われました.
高裁判決は,その発想と同じで,基本的に,確実でないことは医師,国民に教えなくてよい,教える義務はない,という発想です.4番目にでも一応書いてあったのだからそれでいいじゃないか,というわけです.

市販前の段階で(多数の患者が使用する前の段階で)4症例も疑い症例があり,重大な結果が生じている,ということは,きわめて重大な危険情報です.国・製薬企業は,このようなきわめて重大な危険情報をきちんと伝える義務があります.
実際に,添付文書改訂前に,多数の死者がでたのですから,改訂前の添付文書が危険情報を伝えるに足るものでなかったことは明らかです.添付文書が「欠陥表示」だったことは,死者の数が示しています.

こういう極端な判決は,のこるはずがありません.最高裁で破棄判決が下されることを期待いたします.

谷直樹
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by medical-law | 2011-11-16 09:23 | 医療事故・医療裁判