弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

北九州市立医療センター,高齢・術後せん妄患者に催眠鎮静剤ミダゾラムで呼吸抑制,低酸素性脳症

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◆ ミダゾラムの事故 

北九州市立医療センターで,2011年8月18日,術後せん妄の患者に催眠鎮静剤ミダゾラムを投与し,副作用である呼吸抑制が生じ,低酸素性脳症になり,現在も全身麻痺の状態だそうです.

ミダゾラムの添付文書の「警告」欄に,「「重要な基本的注意」に留意し、呼吸及び循環動態の連続的な観察ができる施設においてのみ用いること。[呼吸抑制及び呼吸停止を引き起こすことがあり、速やかな処置が行われないために死亡又は低酸素脳症に至った症例が報告されている。]」と記載されています.

添付文書には,「高齢者への投与」について,次の注意が記載されています.
1. 慎重に投与すること。[高齢者では、作用が強く又は長くあらわれやすい。]

2. 少量ずつ分けて投与するか、又は投与速度を減じること。[低換気、気道閉塞、無呼吸等の危険性が高い。また、作用の発現が遅延することがある。]


量の加減も難しく,添付文書に「ミダゾラムに対する反応は個人差があり、患者の年齢、感受性、全身状態、目標鎮静レベル及び併用薬等を考慮して、過度の鎮静を避けるべく投与量を決定すること。」と記載されています.

東京地裁平成16年4 月27日判決(判例タイムズ 1211:214−231)もあり,呼吸抑制,呼吸停止の副作用は,よく知られています.この判決は,人工呼吸用具を手もとに用意しておくこと,当直医等に連絡をとっておくこと等を求めており,事前準備の不足と蘇生措置について注意義務違反を認めています.

ミダゾラムの適応は,麻酔前投薬,全身麻酔の導入及び維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静だけです.術後せん妄患者への投与は適応外使用になります.

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◆ 読売新聞

読売新聞「がん患者に催眠鎮静剤投与ミス、意識障害に」(2011年11月17日)は,次のとおり報じています.

「北九州市小倉北区の市立医療センター(約600床)は16日、前立腺がんで入院した市内の男性患者(73)に手術後、催眠鎮静剤を投与したところ、呼吸が弱まって低酸素性脳症に陥り、意識障害が残ったと発表した。

 催眠鎮静剤には呼吸を抑制する副作用があり、病院側は「投与時に医師が立ち会っておらず、安全管理に問題があった」とミスを認めている。

 センターによると、男性は8月18日、前立腺の摘出手術を受けた。3日後の21日未明、手術後の高齢者に起きやすい「せん妄」という精神機能障害を引き起こし、点滴を引き抜くなどした。担当看護師が男性に催眠鎮静剤を点滴で投与したところ、男性の心拍数や呼吸数が極度に低下。当直医が数分後に駆け付け心臓マッサージなどを行ったが、低酸素性脳症に陥った。

 男性は全身まひで寝たきりの状態。呼びかけに反応するものの、意識がもうろうとしており、回復は難しいという。

 センターの医療事故調査委員会が事実関係を調査。鎮静剤の点滴については、20歳代の男性副主治医が手術前、せん妄を発症した場合、投与するよう看護師に指示していた。投与量に問題はなかったという。

 この結果を受け、センター医療安全管理委員会が今月8日、「医師が立ち会っていれば、すぐに処置できた」と結論付け、副主治医と主治医、院長の3人を内規による注意処分とした。今後、鎮静剤を使う際のマニュアルを作り、使用時には、心肺蘇生ができる医師が立ち会うよう徹底する。

 センターは同15日、患者の家族に謝罪した。今後、損害賠償の交渉を進めるという。16日、記者会見した光山昌珠院長は「ご家族に深くおわびする」と陳謝した。」


◆ 西日本新聞

西日本新聞「鎮静剤投与で寝たきりに 北九州市立医療センターの患者」 (2011年11月17日)は,次のとおり報じています.

「北九州市病院局は16日、市立医療センター(同市小倉北区)で8月18日に前立腺摘出手術を受けた市内の男性患者(73)が、手術後に投与された催眠鎮静剤の副作用で低酸素性脳症を発症し、寝たきり状態になったと発表した。同局は「鎮静剤投与時に医師が立ち会わず、副作用への対処が遅れた」と過失を認め、家族に謝罪した。

 同局によると、男性は前立腺がん患者で、手術後の20日深夜、点滴を抜きベッド上で暴れるなど混乱状態に陥った。事前に医師の指示を受けていた看護師が鎮静剤「ミダゾラム」を投与すると、呼吸や意識が低下したという。

 同局は「投与量は適正。術後の混乱は一般的に起きる可能性があり、ミダゾラムの副作用は認知されている」と話すが、同センターには投与時に医師が立ち会う決まりがなかった。

 同局などは光山昌珠院長ら3人を厳重注意処分とした。既に投薬マニュアルを作るなど防止策を講じ、今後、家族と損害賠償について協議する。光山院長は「今回の事例を周知徹底し、再発防止に取り組みたい」と話した。」


◆ 感想

これは,直接には,適応外使用で,ミダゾラムの副作用の危険性が添付文書に指摘されているにもかかわらず,その点を配慮することなく,術後せん妄にはミダゾラムという指示をだしていた医師の注意義務違反の問題ですが,ミダゾラムは(もし)このような適応外使用を行うなら)呼吸抑制,呼吸停止が生じたときにただちに対処できる体制で投与しなければならないことからすれば,病院の体制の問題でもあります.

これは,北九州市立医療センターに限った話ではなく,全国どこの病院でもミダゾラムを術後せん妄患者に投与している病院では,おこり得る事故に思えます.注意と体制整備は全国どこの病院でも必要とされることと思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-11-17 03:23 | 医療事故・医療裁判