弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

山形県立中央病院,静脈に入れるカテーテルを動脈に入れ左腎臓の動脈を損傷した事案で和解

b0206085_1031456.jpg◆ 報道
    
毎日新聞「県立中央病院医療事故:県、賠償金支払いで和解 /山形」2011年12月3日)は,以下のとおり報じています.

「県立中央病院で08年2月、山形市内の40代男性への血管造影検査で男性の左腎機能を損傷した医療事故で、県は病院側の過失を認め、損害賠償金1036万円を支払うことで男性側と和解していたことが2日分かった。

 県病院事業局によると、男性は08年2月8日、同病院で足からカテーテルを使って造影剤を入れる検査を行った。この検査の際、病院側は本来静脈に入れるカテーテルを誤って動脈に入れ、左腎臓の動脈を損傷。その後、男性の左腎臓が機能不全となったことが判明した。【和田明美】」


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◆ 感想

本件のような「手技上の過失による損傷事案」は,医療事件でよく問題になります.

「手技上の過失による損傷事案」は,
1 或る部位(出来る限り特定)に損傷が生じたこと
2 手技が原因でその損傷が生じたこと
3 その手技に注意義務違反があること
を立証する必要があります。

とくに3については,注意義務の言語的表現,注意義務内容の特定に問題があります.

手技上の過失が問われる裁判では,まず被告側が具体的に手技の過程を明らかにし,どの程度の力でどのように器具を動かしたかを陳述書等で立証し,その前提事実をもとに,原告側が意見書等による具体的な手技上の過失の特定するのが合理的です.

しかし,どの程度の力でどのように器具を動かしたかを文字で表現することには,限界があります.前提事実が確定困難なケースでは,注意義務の厳密な特定は困難とならざるをえません.

本件は,医師が,静脈にカテーテルを入れるところを,動脈に入れ,左腎臓の動脈を損傷し,その後左腎臓が機能不全となったことが報道されています.

そこで,「静脈にカテーテルを入れるところを,動脈に入れ,左腎臓の動脈を損傷したこと」について注意義務違反が認められるか,が問題になります.

医師は,動脈にカテーテルを入れないために「カテーテルを静脈に向かって進める義務(動脈に向かって進めない義務)」を負うと表現すると,(どこに向かって)進めるという結果に注目した表現になってしまいます.
そこで,動脈・静脈の位置とカテーテルの位置の関係を把握してカテーテルを操作する義務を負う,と表現すると,操作の具体的な内容がぼやけてしまい,やや抽象的になってしまいます.
裁判例でも,「手技上の過失による損傷事案」については,注意義務の言語的表現,内容の特定については,結果から述べているにちかいもの,やや抽象的なものになっていることが少なくありません.

訴訟における両当事者の公平からすると,本来入れるべきではないところにカテーテルを入れ血管を損傷したことが立証されたときは,器具の操作についての何らかの注意義務違反が推定され,医師側で注意義務を尽くしたことを意見書・鑑定等により反証しない限り,器具の操作についての何らかの注意義務違反が認定されると考えてよいのではないか,と思います.

例えば,最高裁平成11年3月23日判決(脳ベラ判決)では,「本件手術後間もなく発生した小脳内出血等は,本件手術中の何らかの操作上の誤りに起因するものではないかとの疑いを強く抱かせるものというべきである」と判示しました.そして,他の原因による血腫発生も考えられないではないという極めて低い可能性があることをもって,本件手術の操作上の誤りがあったものと推認することはできないとした原審の認定判断には経験則ないし採証法則違背がある,として,原判決を破棄し,差し戻しました.なお,差し戻し審(大阪高裁平成13年7月26日判決)では,再鑑定の結果,手技上の過失はないとされ(反証の成功),説明義務違反で一部認容されています.

判決を書くとなると,理論上難しい点があり,最終解決まで年月を必要とするでしょうが,「静脈にカテーテルを入れるところを,動脈に入れ,左腎臓の動脈を損傷したこと」について注意義務違反が全くないという判決を期待することは,多くの場合,困難でしょう.
静脈にカテーテルを入れるところを動脈に入れ動脈を損傷すると,医療過誤として賠償責任を問われるものと考えて,行動したほうがよいと思います.
したがって,本件和解は適切と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-12-04 02:38 | 医療事故・医療裁判