弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

国立病院機構金沢医療センター,ひだり腎臓摘出内視鏡手術で,みぎの血管を切断する

b0206085_11321294.jpg◆ 事案

国立病院機構金沢医療センターの医師(40代,泌尿器科医長)は,2010年3月29日,腎臓がんのため左の腎臓を摘出する内視鏡手術の際,誤って患者(50代,男性)の右の腎臓につながる血管を2本切断しました.
別の医師が血管を縫合し,左腎臓を摘出しましたが,右腎臓の機能が回復しないため,9日後に右腎臓も摘出しました.
患者は,同年11月末に退院しましたが,両方の腎臓を摘出したため,人工透析が必要となり,別の病院に通院しています.

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◆ 対応

金沢医療センターは,手術直後,院内で委員会を開き,経緯調査や対応を検討したほか,機構本部などには事故報告を行いました.
金沢医療センターは,2011年7月,男性や家族に謝罪し,医療費や賠償金を支払うことで,示談が成立しました.
医長は処分されませんでしたが,その後同センターでは内視鏡手術を行っていないとのことです.
これまで事故を公表しなかったのは「患者が公表を求めなかったため、積極的に公表する必要がないと判断した」とのことです.

時事通信「健康な腎臓摘出=手術で血管取り違え-金沢」(2012年1月24日)ご参照

◆ 感想

手術部位の左右取り違え事故は,実は結構あります。
たとえば,小山市民病院で,2010年2月10日に,泌尿器科長(48歳)が手術個所のマーキングを忘れ、さらに別の泌尿器科の医師(40歳)もCT写真を裏表間違えて掲示し,患者の健康な左の腎臓を摘出するという医療ミスが起きています.それは,ちょうど2010年3月29日に報道されています.

マサチューセッツ総合病院内分泌部門,ハーバード大学助教授李啓充先生は,米国の部位取り違え手術(Wrong-site Surgery)の例を紹介し,次のとおり述べています.

「個別症例の分析だけで誤りの原因を同定し予防策を講じようとしても,誤りの「パターン」を見出すことは不可能で,有効な予防策を講じることも著しく困難である。つまり,医療過誤について,過誤が発生した医療機関が個別に原因を分析し予防策を講じるというだけでは,再発防止の努力がどんなに真摯なものであったとしても,その努力が実を結ぶ保証は何もないのである。
 医療過誤防止に本気で取り組もうとするならば,国レベルで過誤の情報を収集・分析するという体制を作ることが最も効率がよいのである。」(アメリカ医療の光と影(17)

米国では,医療施設評価合同委員会(JCAHO)が,医療過誤の情報収集と原因分析を行ない,98年8月に部位取り違え手術の防止策を勧告しています.

日本では,財団法人日本医療機能評価機構は,医療安全情報No.8(2007年7月),医療安全情報No.50(2011年1月)で,手術部位の左右の取り違えについて,
①マーキングを適切にしなかった.
②マーキングはしたが,執刀直前に手術部位の確認をしなかった.
という例を,情報提供しています.

手術の際のタイムアウトは,①執刀直前に,②チーム全員で,③いったん手を止めて,④チェックリストに従って,⑤患者・部位・手技等を確認することを意味します.
マーキングとタイムアウトは通常行われるはずなのですが,本件では,マーキングとタイムアウトがどのように行われていたのかは,報じられていません.気になるところです.

【追記】

日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の
事例ID;AA29F56186C840C3F」は,50代男性の左腎細胞癌で左腎摘出のために行われた内視鏡手術の際に誤って右腎臓につながる2本の血管を切断した事例で,本件と酷似します.

事例概要は,以下のとおりです.

「【実施した医療行為の目的】
左腎細胞癌のため、腹腔鏡下左腎摘出術を実施した。

【事故の内容】
患者は検診にて左腎腫瘍を指摘され、手術目的にて入院し、腹腔鏡下にて左腎摘出術の予定となった。

腹腔鏡下による手術操作にあたって、左腎静脈の剥離後、その頭側に平行に走る動脈を左腎動脈と認識し(後に右腎動脈と判明)切断した。切断後、左腎静脈の血行遮断を行ったところ、同静脈の鬱血を認めたため、もう1本腎動脈がある可能性を考え、先に切断した動脈のさらに頭側に位置する動脈を剥離し切断した(後に上腸間膜動脈と判明)。

その後、左腎全体の剥離を進めたところ、本来の左腎動脈の存在に気づき、その動脈周囲からの出血をも認めるに至り開腹術に移行し、左腎摘出術を施行した。

誤って遮断・切断した右腎動脈と上腸間膜動脈は、血管吻合にて再建し、吻合後には血流再開を確認している。

術後経過において播種性血管内凝固(DIC)の病態を併発、右腎臓の存在がDICをさらに悪化させる原因であると判断し、右腎臓の機能不全を確認して摘出術を実施した。

その1週間後に腹腔内出血を認め、緊急手術を施行したが明らかな出血源は特定できなかった。

その約10日後再び腹腔内出血を認めたため、造影CTにより出血部位の検索を行った。

その結果、上腸間膜動脈吻合部近傍の仮性動脈瘤からの出血が疑われた。出血部位及び患者の一般状態から保存的加療を選択した。

その後、呼吸不全、腎不全、肝機能障害、感染症などの合併症を併発しているが、人工呼吸器による呼吸管理、透析、経管栄養、抗菌剤投与などにより、対応・治療している。

【事故の背景要因の概要】
腹部大動脈左側の剥離操作の際に左後腹膜腔内臓器を残さないように剥離面を意識しすぎた。そのため大動静脈間まで剥離手術を行ったことを術中認識できていなかったため、誤った動脈を遮断し切断した。

【改善策】
1.背筋群を直視下に確認し、背側に位置する動脈であるという確認操作を最初に行うべきであった。

2.泌尿器科における腹腔鏡下手術は事故後直ちに中止するとともに、その他の診療科における腹腔鏡下手術においても十分な注意を払い実施するよう指示した。」


本件が,「事例ID:AA29F56186C840C3F」であるとすれば,左腎臓につながる血管を切断しようとして,血管同定のミスのため,右腎臓につながる血管を切断した事例ということになります.

以上,堀康司先生の医療安全備忘録を参考にさせていただきました.ありがとうございます.

谷直樹
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by medical-law | 2012-01-24 20:55 | 医療事故・医療裁判