弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

重大な人権侵害の疑いがある「大阪市のアンケート調査」

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◆ 経緯

2011年11月の大阪市長選挙で,大阪市職員の労働組合が前市長を応援したのではないか,という疑いから,橋下市長は,2012年2月10~16日,大阪市全職員市職員に政治活動・組合活動等について記名式アンケートを行い,回答を求めました.
回答は業務命令で,正確な回答をしない場合は処分の対象とあり得る,というものでした.
これは,明らかに重大な人権侵害の疑いのあるものでした.

谷直樹
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◆ 「アンケート調査について」と題する書面

橋下市長の「アンケート調査について」と題する書面は,以下のとおりです。

「アンケート調査について

市の職員による不適切と思われる政治活動、組合活動などについて、次々と問題が露呈しています。
この際、野村修也・特別顧問のもとで、徹底した調査・実態解明を行っていただき、膿を出し切りたいと考えています。
その一環で、野村特別顧問のもとで、添付のアンケート調査を実施いただきます。
以下を認識の上、対応よろしくお願いします。

1)このアンケート調査は、任意の調査ではありません。市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求めます。
正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます。

2)皆さんが記載した内容は、野村特別顧問が個別に指名した特別チーム(市役所外から起用したメンバーのみ)だけが見ます。
上司、人事当局その他市役所職員の目に触れることは決してありません。
調査票の回収は、庁内ポータルまたは所属部局を通じて行いますが、その過程でも決して情報漏えいが起きないよう、万全を期してあります。
したがって、真実を記載することで、職場内でトラブルが生じたり、人事上の不利益を受けたりすることはありませんので、この点は安心してください。

また,仮に,このアンケートへの回答で,自ら違法行為について,真実を報告した場合,懲戒処分の標準的な量定を軽減し,特に悪質な事案を除いて免職とすることはありません。
以上を踏まえ,真実を正確に回答してください。
以上
大阪市長 橋下徹」


懲戒処分の威迫をもって職員の思想信条に関わる事項の回答を強制するものです.

大阪市特別顧問の弁護士野村修也氏(森・濱田松本法律事務所所属)が,調査チームの中心となっていることがわかります.

◆ 日弁連「大阪市のアンケート調査の中止を求める会長声明」

これに対し,日本弁護士連合会(日弁連)は,2月16日,以下の「大阪市のアンケート調査の中止を求める会長声明」を発表しました.

「大阪市のアンケート調査の中止を求める会長声明

大阪市は、本年2月9日、市職員に対する政治活動・組合活動等についてアンケート実施を各所属長に依頼した。

本アンケートは、組合活動や政治活動に参加した経験があるか、それが自己の意思によるのか、職場で選挙のことが話題になったか否か等について業務命令により実名で回答を求めるとともに、組合活動や政治活動への参加を勧誘した者の氏名について無記名での通報を勧奨している。また、本アンケートは外部の「特別チーム」だけが見るとされているが、アンケート内容により回答者に対し処分を行うとされている以上、結局は市当局がアンケート内容を知ることに変わりはない。

このようなアンケートは、労働基本権を侵害するのみならず、表現の自由や思想良心の自由といった憲法上の重要な権利を侵すものである。

まず、本アンケートが職員に組合活動の参加歴等の回答を求めていることは、労働組合活動を妨害する不当労働行為(支配介入)に該当し、労働者の団結権を侵害するものであり、職員に労働基本権の行使を躊躇させる効果をもたらすことは明らかである。

また、政治活動への参加歴や職場で選挙のことが話題にされることを一律に問題視して回答を求めることは、公務員においても政治活動や政治的意見表明の自由が憲法21条により保障されていることに照らせば、明らかに必要性、相当性を超えた過度な制約である。そもそも地方公務員は、公職選挙法においてその地位を利用した選挙運動が禁止されるほかは、非現業の地方公務員について地方公務員法36条により政党その他の政治団体の結成に関与し役員に就任することなどの限定的な政治的行為が禁止されるにすぎず、その意味でも本アンケートは不当なものである。

ところで、本アンケートには、①任意の調査ではなく市長の業務命令として全職員に真実を正確に回答することを求めること、②正確な回答がなされない場合には処分の対象になること、③自らの違法行為について真実を報告した場合は懲戒処分の標準的な量定を軽減することが、橋下徹市長からのメッセージとして添付されているが、これも大きな問題である。

すなわち、アンケートの該当事項が「違法行為」であるかのごとき前提で、懲戒処分の威迫をもって職員の思想信条に関わる事項の回答を強制することは、いわば職員に対する「踏み絵」であり、憲法19条が保障する思想良心の自由を侵害するものである。

以上のように、本アンケートは当該公務員の憲法上の権利に重大な侵害を与えるものであり、到底容認できない。

当連合会は、大阪市に対し、このような重大な人権侵害を伴うアンケート調査を、直ちに中止することを求めるものである。」


◆ 大阪府労働委員会の勧告

大阪府労働委員会は,2月22日,「組合の運営などに対して、市側が支配したり、介入したりする不当労働行為に当たるおそれのある項目がアンケートには含まれていると言わざるをえない」として,大阪市側に対して,府労働委員会の最終的な決定が出るまでアンケートの続行を差し控えるよう勧告しました。
大阪市の調査チームは,労働委員会への申し立てが行われたことを理由に,提出されたアンケートを開封・分析を中断しています.

◆ 厚生労働省の指針違反のメール調査

NHK「橋下市長 事前通知せずメール調査」(2012年2月22日)は,次のとおり,報じています.

「大阪市の橋下市長は、職員の政治活動などを確認するため、職員が仕事で使ったメールのデータについて調査を始めたと明らかにしました。厚生労働省の指針に反し、対象の職員に事前に通知していませんが、橋下市長は、「厚生労働省の指針が間違っており、何の問題もない」という見解を示しました。

メールの調査は、大阪市の職員が大阪ダブル選挙の際、勤務時間中に庁舎内で選挙活動を行ったことなどを受けて、職員の政治活動や組合活動の実態を調べるため、外部の弁護士などで作る市の調査チームが始めました。
調査チームの1人で市の特別参与を務める弁護士の山形康郎氏が、職員およそ150人分について、市役所のサーバーに保存されているメールのデータを提供するよう市の担当者に要請し、20日、受け取ったということです。厚生労働省が定めた指針は、こうした場合、職員に事前に通知するよう求めていますが、今回は通知されませんでした。
これについて、橋下市長は、「調査については了解していた。厚生労働省の指針のほうが間違っている。事前に通知すれば削除されてしまう。生ぬるい調査では実態を解明できず、法律の範囲内の実効性ある調査で何の問題もない。大阪市役所の組合問題や政治活動の問題を徹底調査することが市民の求めだ」と述べました。」


調査チームには,野村氏だけではなく,弁護士山形康郎氏(弁護士法人関西法律特許事務所所属)も加わっているのがわかりました.

◆ 感想

大阪市のアンケート調査は,前市長と労働組合との不適切な関係にメスをいれようとするものですが,日弁連会長声明が指摘するとおり,この方法が人権侵害であることはかなり明白なのではないでしょうか.
弁護士が人権侵害に荷担することはあってはならないことで,人権侵害であることの認識がありながら敢えて実施する筈もないでしょうが,複数の高名な弁護士が関与しながら,人権侵害の認識がなかったなどということがあり得るのでしょうか.
どうしてこんなアンケートが実施されたのか,不思議です.

谷直樹
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by medical-law | 2012-02-24 05:57 | 弁護士会