弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

野田首相が視察し消費税の必要性をアピールした病院で,内視鏡が消毒されていなかったことが分かりました

◆ 野田首相の病院視察

野田首相は,2012年4月7日,兵庫県立柏原病院を視察し,社会保障と税の一体改革が医療の充実につながる,として消費税=安定財源の必要性をアピールしました.

時事通信「小児科医療の現場を視察=「安定財源確保を」-首相」(2012年4月7日)は次のとおり報じています.

「同病院は兵庫県中東部にある中核病院で、小児科医が一時減少したものの、地域の母親の働き掛けで回復させた実績がある。首相は井戸敏三知事や足立確郎病院長らと、医療現場の実態や地域医療の重要性などについて意見を交換。「安定財源を確保しながらやっていかないといけない」と述べ、消費増税の必要性を強調した。
 この後、首相は記者団に「産科や小児科で不安をなくすことが、そこを支える世代には社会保障の恩恵、実感を受けることになる」と語った。」


◆ 消費税と医療

しかし,病院は,仕入れには消費税が乗せられているのに,診療費には消費税を乗せられない,という不合理な扱いで,消費税率を上げると病院経営は悪化します.その分は診療報酬で手当てすると言っていますが,診療報酬本体を上げることは限界があります。消費税の問題は,転嫁できない経済的弱者の負担が重くなることです.
消費税率を上げると,安定財源が確保され(この点も怪しいのですが),医療が充実するというのは,にわかに信じがたい話です.

◆ 内視鏡が洗浄されていなかったこと

同病院では,内視鏡を使用後すぐに洗浄機で30分間洗浄し,うち5分間は消毒液に浸けることになっていました.ところが,4月4日,3台ある洗浄機のうち1台で,消毒液につける設定が0分になっていて,消毒が行われていないことに看護師が気付いた,とのことです.

看護師が消毒ミスに気づいたのは野田首相の視察前です.
病院は,確認等に日時を要したのかもしれませんが,4月20日になって,会見し,消毒ミスを公表発表しました.

足立確郎院長の説明では,消毒なしの洗浄だけでも細菌の大半は除去されるとのことです.今後は機器の設定確認など再発防止策を講じるとのことです.
また,対象者658人に,血液検査を実施し,健康状況を確認するそうです.

◆ 内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン

日本消化器内視鏡技師会安全管理委員会は,「内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン(第2版)」を作成しています.
そのガイドラインの「消毒」の項には,次のとおり記載されています.

「使用後の内視鏡を洗浄せずにいきなり消毒を行うと,内視鏡に付着する有機物を凝固させ,その後の洗浄に支障をきたすばかりでなく,逆に病原微生物を保護し,感染の原因をつくる可能性があるので行なってはならない。
 内視鏡の高水準消毒剤としては,現在GAのほかにフタラールや過酢酸が厚生労働省から承認されている。したがって,それぞれの薬剤の使用については有効濃度と期限を守って使用する。しかし,中水準消毒剤のアルコールや塩化ベンザルコニウム,グルコン酸クロルへキシジンなどの低水準消毒剤は効果が期待できないので使用してはならない。
 GAを用いた消毒例では,洗剤を十分に除去した後に,GAの浸漬槽で内視鏡外側とすべての内視鏡チャンネルに2%以上のGAを満たして10分間の浸漬を行う。」

「おわりに」に 「内視鏡の洗浄・消毒は手間の掛かる作業であるが,患者を感染の危険から守る上で非常に重要な業務である。洗浄・消毒のガイドラインが遵守されなければ,内視鏡による検査や治療が成り立たないことを内視鏡医療従事者は自覚すべきである。」と明記されています.
洗浄でも細菌は減少しますが,内視鏡の消毒が行われていなかったことは,重大なことだと思います.

谷直樹
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by medical-law | 2012-04-21 02:57 | 医療事故・医療裁判