弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京高裁平成24年4月26日判決,改正薬事法の解釈を誤り,省令へのネット販売規制委任を否定

東京高裁平成24年4月26日判決は,2009年6月に施行された改正薬事法にネット販売規制の根拠となる委任の規定がない,規制を定めた厚生労働省令の部分は国家行政組織法12条3項に違反する,などとし,一般用医薬品をインターネット販売できる権利(地位)の確認を認めました.
判決は,改正薬事法の趣旨を誤って解釈していると思います

谷直樹
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キャリアブレイン「医薬品ネット販売2社が逆転勝訴- ネット販売規制の規定は国家行政組織法違反」(2012年4月26日)は,次のとおり報じています.

「コマースサイトを運営するケンコーコム株式会社と有限会社ウェルネットが国を相手取り、一般用医薬品をインターネット販売できる権利の確認などを求めた裁判の控訴審で、東京高裁(三輪和雄裁判長)は26日、原告の訴えを退けた一審東京地裁判決の一部を取り消し、両社がネット販売できる権利を認める判決を下した。ネット販売を規制した厚生労働省令の無効確認と、取り消しについては一審判決を維持し、控訴を棄却した。

 一般用医薬品のネット販売は、2009年6月に施行された改正薬事法の関連省令で、副作用のリスクが最も低い第三類医薬品を除き、原則禁止されている。
 判決では、改正薬事法が第一類、第二類医薬品のネットなどによる販売を一律に禁止することを厚労省令に委任したとは認められないと指摘。その上で、ネット販売を規制する規定は「国民の権利を制限する省令の規定であり、国家行政組織法12条3項に違反する」と結論付けた。

 10年3月の一審判決では、一般用医薬品のネット販売と対面販売を比較した場合、ネット販売は「副作用の危険の相対的に高い医薬品の販売に当たり、有資格者の対面による販売と同等の所要の水準の安全性を確保し得るものとは認められない」とし、ネット販売の規制について「必要性と合理性を認めることができる」としていた。
 一方、控訴審では両者の比較ではなく、ネット販売を規制する合理的な理由があったかどうかについて双方に主張することを求めていた。」


国家行政組織法12条3項は,「省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。」と定めています.

東京高裁判決は,「控訴人らの店舗販売業者が第一類・第二類医薬品を郵便等販売により販売することを規制する本件規制の部分は,新薬事法の各規定の文言,法の趣旨・目的,その立法経緯に照らすと,被控訴人がその根拠規定として主張する新薬事法36条の5が第一類・第二類医薬品等についての販売方法を厚生労働省令に委任していることを前提としても,同条が店舗販売業者が行う第一類・第二類医薬品の郵便販売を一律に禁止することまでを委任したものと認めることはできず,また,同条のほかに,同法の36条の6その他被控訴人が主張する根拠規定を総合して検討しても,本件規制の根拠となる委任の規定を新薬法の条項中に見出すことができない。」と認定しました.

検討会の報告書,国会の質疑,審議の過程には,医薬品販売業は、「店舗販売業」・「配置販売業」の販売形態のみでネット販売は認めないという趣旨がうかがわれるのですが,改正薬事法の条文にその趣旨が明記されていないことから,このような判決になったものと思われます.

しかし,一般用医薬品に本来必要であった薬剤師の配置が徹底されなかった現状を踏まえ,登録販売者という新資格を設け,消費者に対する情報提供を適切,実効的なものにしようという改正の趣旨からすれば,改正薬事法は当然にネット販売規制を前提としていたと解釈すべきでしょう.

(この種の委任の解釈問題は最高裁で3対2に分かれたこともありますが)本件について最高裁で適正な判決が下されることを期待いたします.

なお,このような疑義が生じないように,医薬品のネット販売規制を,省令ではなく法自体に織り込むことも検討に値すると思います.同時に,ネットでないと医薬品購入が著しく不便という人に対する具体的な手当もお願いしたいと思います.

谷直樹
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by medical-law | 2012-04-27 03:27 | 司法