弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

アナフィラキシーショックによる死亡事案で,損害賠償請求訴訟を前橋地裁に提訴しました

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風邪と診断した患者に適応のない抗生剤を点滴し,アナフィラキシーショックによって死亡した事案で,2012年5月29日,前橋地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提訴しました.

朝日新聞「「点滴で夫死亡」医療法人を提訴 妻子,160万円賠償請求」(2012年5月30日)は,次のとおり報じています.

「県内の50代男性が死亡したのは,医師らが観察義務を怠るなどしたためだとして,妻子3人が29日,○○内科(高崎市××町)を運営する医療法人に対し,損害約8千万円のうち160万円の賠償を求める訴訟を前橋地裁に起こした。

訴状によると,男性にはじんましんやアレルギー性鼻炎があった。昨年1月,かぜで○○内科を受診し,抗生剤の点滴注射を受けた約5分後,「アナフィラキシーショック」と呼ばれる薬物過敏反応で苦しんでいるのを別室から戻った看護師が発見。医師の処置後も改善されずに救急車で転院し,2日後に死亡したと主張している。
原告側は「医師はアナフィラキシーショックの危険性がある抗生剤の点滴を指示するにあたり,看護師に少なくとも5分間は異変がないか観察するよう指示する義務があった」と主張。提訴後に会見した代理人の谷直樹,岡村香里の両弁護士は「5分以内に救急処置をとったかが予後を左右する」とした2004年の最高裁判決を根拠に挙げた。

これに対し,被告側代理人の坂本正樹弁護士は「医師や看護師は重篤なアナフィラキシーショックが起こると予見できたわけではない。また,発症後も適切な治療を行った」と反論している。」


記事中の「2004年の最高裁判決」とは,最高裁平成16年9月7日判決(判例時報1880号64頁)のことです.最高裁平成16年9月7日判決は,アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある薬剤を投与する場合には,点滴静注開始後5分間の観察義務を認めました.

この最高裁判決は,看護師が平成2年7月25日午後10時ペントシリン(合成ペニシリン製剤)とミノマイシン(テトラサイクリン系抗生物質製剤,ミノペン点滴静注用の一般名)の点滴静注を開始し,その直後の10時02分ころ病室から退出した事案です.

最高裁平成16年9月7日判決は,
「医学的知見によれば,薬剤が静注により投与された場合に起きるアナフィラキシーショックは,ほとんどの場合,投与後5分以内に発症するものとされており,その病変の進行が急速であることから,アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある薬剤を投与する場合には,投与後の経過観察を十分に行い,その初期症状をいち早く察知することが肝要であり,発現した場合には,薬剤の投与を直ちに中止するとともに,できるだけ早期に救急治療を行うことが重要であるとされている。」
「あらかじめ,担当の看護婦に対し,投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示をするほか,発症後における迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示,連絡をしておくべき注意義務があり,Y2が,このような指示を何らしないで,本件各薬剤の投与を担当看護婦に指示したことにつき,上記注意義務を怠った過失があるというべきである。」
と判示し,破棄差し戻しとしました.

この最高裁判決から,医師には,看護師に風邪に適応がなくアナフィラキシーショックの危険性がある抗生剤の点滴静注を指示をするにあたり,点滴静注開始後少なくとも5分間は風邪の患者(蕁麻疹・アレルギー性鼻炎がある)のそばを離れず,異変がないか観察することを指示する義務がある,と考えます.
また,医師は,異変後に点滴ルートを抜去せずに(○○内科では点滴ルートが抜去されボスミン静注ができませんでした.),すみやかにボスミン静注を実施するなどアナフィラキシーショック発症後5分内に迅速かつ的確な救急処置を執る義務がある,と考えます.

谷直樹
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by medical-law | 2012-05-30 11:59 | 医療事故・医療裁判