弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

薬害イレッサ,信濃毎日新聞,徳島新聞,山陽新聞社説

アストラゼネカ社は,大阪高裁平成24年5月25日判決を受けて「弊社はイレッサ発売時および発売後を通して、医師に対しそのリスクおよび有用性について 適時・適切に情報提供を行ってまいりました。このたび、司法の場においてもこのことが認められました。弊社は医師および進行非小細胞肺がん患者さん、とくに標準化学療法が奏効しなくなった患者さんに、イレッサという治療選択肢を提供してきたことに誇りを持っています。」と述べました(プレスリリース).

適時・適切に情報提供を行ったのであれば,添付文書改訂前のあの多数の死亡は,医師の不注意とでも言いたいのでしょうか?
イレッサは本当に「誇り」なのでしょうか?

◆ 信濃毎日新聞社説

信濃毎日新聞社説「副作用被害 防止と救済の手だてを」(2012年6月3日)は,次のとおり述べています.

「イレッサは副作用が少ない「夢の新薬」とされていた。効果を期待して飲み、多くの患者が命を落とした。にもかかわらず、救済が図られないのは納得しにくい。国や企業には、司法判断とは別に解決策を検討してもらいたい。

 加えて、国は薬事行政の見直しを進める必要がある。イレッサ訴訟をきっかけに始まっているものの、はかどっていない。

 課題の一つは、被害防止に向けた情報の伝え方だ。厚生労働省の検討部会は1月にまとめた報告書で、企業に対して添付文書の届け出を義務付けるよう提言した。

 これを受けた薬事法改正はめどが立っていない。厚労省は改正案を今国会に出す方針だった。多くの法案の審議が滞る中で難しい面があるにしても、早く国会で議論し、適切に改める必要がある。

 もう一つは、抗がん剤の副作用被害に対する救済制度だ。重い副作用が出ることを前提に使われる例の多い抗がん剤は、今ある制度の対象になっていない。新たな仕組みが求められる。」


◆ 徳島新聞社説

徳島新聞社説「イレッサ訴訟 薬禍防ぐ手を尽くせ」(2012年5月29日)は,次のとおり述べています.

「承認当初は、亡くなる患者が相次いだものの、国の指導で添付文書を改定して「警告」欄を追加すると死亡例が減った。この事実をどう見たのか。

 東京高裁判決に続き、高裁レベルで原告敗訴の判断が重なった格好だが、遺族らの落胆は大きい。地裁と高裁の判断が分かれたことについて疑問を抱く人も多かろう。

 原告側は上告する方針で、上告中の東京訴訟と合わせ、判断は最高裁に委ねられる。注目したい。

 イレッサは現在も年間8千~9千人が服用している。判決も「延命効果があり、患者に治療の選択肢を与える」と有用性を認めた。しかし、薬の効用と副作用は背中合わせであり、危険情報を適切かつ迅速に医療現場に伝えなければならない。専門知識のない患者に理解しやすい内容かどうかのチェックも必要だ。

 添付文書について遺族らは、新薬販売や新たな副作用情報を書き加える前には、国の承認審査を法律で義務付けるべきだと訴えている。抗がん剤による副作用の救済制度も検討する必要があるだろう。」


◆ 山陽新聞社説

山陽新聞社説「イレッサ判決 薬事行政の改革進めよ」(2012年5月28日)は次のとおり述べています.
 
「過去には国の責任まで認めた東京地裁判決もあり、司法判断は3通りに分かれている。国や業者の責任をどう問うかは極めて難しい判断といえよう。二審で勝訴したとはいえ、製薬会社は医療現場に丁寧に情報を伝える努力を怠ってはならない。

 気になるのは、訴訟を機に始まった薬事行政改革の成り行きである。厚生労働省の検討部会は1月、薬の添付文書の届け出を義務化するよう提言し、国は内容を監督する立場であると明文化するよう求めた。だが、これを受けた薬事法改正案が国会に提出されるめどは立たない。抗がん剤による副作用の救済制度創設については厚労省の検討会が昨年12月、事実上「不可能」との見解を示している。

 有効な新薬をいち早く取り入れつつ、薬害をどう防ぐかは重い課題だ。有効な手だてと被害救済策を患者の立場に立って模索していかねばならない。」


いずれの社説も,(1)添付文書届け出の義務付け化,(2)抗がん剤の副作用被害に対する救済制度の創設が必要,とiいう見解を述べています.

谷直樹
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by medical-law | 2012-06-03 12:43 | 医療事故・医療裁判