弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

日本医師会,定例記者会見で「今後の認知症施策の方向性に関する報告書」を批判

昨日8月8日は,日本医師会の定例記者会見の日で,日本医師会のサイトにはその資料がのっています.
 
キャリアブレイン「厚労省の認知症報告書「一方的な官僚主導」-日医が批判」(2012年08月08日)は,次のとおり報じています.

「日本医師会の三上裕司常任理事は8日の記者会見で、厚生労働省内のプロジェクトチームが今後の認知症施策の方向性に関する報告書を取りまとめたことについて、「作成過程が不明確。医療現場の真摯な対応の軽視、理想論のみの反映など、一方的な官僚主導によるものだ」と厳しく批判した。

 三上常任理事は、「厚労省内の縦割りを排除し、認知症対策に取り組むこと自体には賛同する」と述べ、藤田一枝厚労政務官を主査とするプロジェクトチームを設置したことに一定の評価を示しながらも、省内での議論により報告書を取りまとめたことを疑問視。「現場の意見を反映しない強引な施策は、約7年前に突然打ち出された介護療養病床の廃止方針と同様、現場に混乱を来すのみで実効を伴わないことは明らかだ」と断じた。
 その上で、「地域で認知症対策にかかわっている人々の意見を真摯に聞き取り、実態を的確に把握した上で、円滑に稼働するシステムを構築していただきたい」と求めた。

 報告書の具体的な内容では、かかりつけ医と連携して、そのバックアップ機能を担う「身近型認知症疾患医療センター」の整備について、「唐突に記載されており、具体的にどのような医療機関を想定しているか不明だ」と指摘した。【高崎慎也】」


日本医師会は,「今後の認知症施策の方向性に関する報告書」を批判していますが,日本精神科病院協会とは一線を画しているようです.

すなわち,公益社団法人日本精神科病院協会の,2012年7月26日の「平成24年6月18日 厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチーム(主査:藤田一枝厚生労働政務官)の取りまとめ 「今後の認知症施策の方向性について」の反論」は,次のとおりです.

「•4疾病5事業に新たに精神疾患が加わり、5疾病5事業となった。精神疾患の中で特に優先順位の高い対象として急増する認知症やうつ等がある。新たに医療連携体制を構築し、医療計画に明示しなければならない。

•厚生労働省の4局長、障害保健福祉部長、各課の課長がメンバーとなり取りまとめられた「今後の認知症施策の方向性について」は精神疾患である認知症に対し、ケア中心の施策であり、医療、特に精神科医療への関与を極力抑えるような文言が目立ち、到底受け入れられる内容ではない。

•昭和63年、わが国にはじめて認知症専門病棟が設置され、認知症患者デイ・ケアも行われた。以来今日まで認知症専門医療機関として精神科病院が社会に果たしてきた役割は大きい。

•取りまとめの中で、これまでの「自宅→グループホーム→施設あるいは一般病院・精神科病院」というような不適切な「ケアの流れ」と表現しているが、我々は常に「病院→地域→自宅」という流れを推進した。しかし、地域の受け皿や自宅での介護支援の不足が大きな障害となり困難を極めていた。これは国の認知症施策の貧困によるものである。

•現行の認知症疾患医療センター(地域型・基幹型)に加え、新しい類型の身近型を作ろうとしている。より身近なセンターを目指し300ヶ所設置する予定である。多くは診療所が中心になると考えられるが、なるべく精神科病院に入院させない危機回避支援機能なども負わされることになる。偶然にせよ激しい行動・心理症状(BPSD)が発現した時は精神科医療機関で対応しなさいというのは、本人、家族に対してもあまりに無責任である。認知症は早期より精神科医療が関わらなければならない疾患であることを忘れてはならない。

•認知症専門医以外の医師が不適切な薬物使用をしないように「薬物治療に関するガイドライン」を策定することは重要である。「認知症初期集中支援チーム」「認知症ライフサポートモデル」など医療と介護・福祉が協働することは大切であるが、くれぐれも本人と家族の意思を尊重した施策を提供してもらいたい。

•地域の認知症ケアの拠点としてグループホームの活用を推進し、より重度化した者や看取りの対応まで行わせようとしているが、運営に関する監査体制は不十分であり、法的に人権に配慮しているとは言えない。認知症患者の人権に対して格別の配慮を法的に行っているのは精神科医療だけである。また、我々は若年性認知症研究を行い提言をしている。しかし、国はそのまま今日まで対策を考えてこなかったのである。

•精神科医療では、早期から終末期までの長い経過の治療を家族の支援とともに行ってきた。精神科病院では入院に際しては早期退院を目指し、入院クリニカルパスを作成、退院後にはデイ・ケアのクリニカルパスを作成し運用している。さらに地域連携パス「オレンジ手帳」を作り、かかりつけ医、ケアマネジャー、地域包括支援センター等と情報を共有している。精神科医療の関与がなくして認知症施策は成り立たないのである。医療計画の策定等、実効ある施策でなければならない。」


日本精神科病院協会は,精神疾患である認知症に対し医療,特に精神科医療への関与を極力抑えるような文言が目立ち、到底受け入れられる内容ではない,精神科医療の関与がなくして認知症施策は成り立たない,という強硬意見です.

加藤一郎元東大学長は,民法の学者でしたが,認知症になりました。その長女である小宮山洋子厚生労働大臣は,認知症患者の扱いについて思うところがあったはずです。厚生労働省内で検討が行われ,精神病院へ認知症の人たちを収容していた方針を転換し,認知症になっても住み慣れた地域で暮らし続けられる社会の実現をめざす方針が打ち出されました.これが上記報告書です.

これに対し,日本精神科病院協会からは上記のとおり強い反発反論があり,日本医師会からは,上述のとおり医療現場の真摯な対応の軽視,理想論のみの反映などという批判があったわけです.

認知症患者といえども,患者の意思を尊重することが基本です.そして,理想を実現するために医療現場の理解を得ることが必要で,住み慣れた地域で暮らし続けられるためには具体的にどのような態勢を構築べきか,さらに関係者の意見交換が必要でしょう.

谷直樹

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by medical-law | 2012-08-09 02:02 | 医療