弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

人権週間と「達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する特別報告者」

b0206085_17431330.jpg国際連合は,世界人権宣言の採択日である12月10日を「人権デー(Human Rights Day)」と定めています.
アムネスティは,12月10日,上智大学四谷キャンパスをメイン会場に四ツ谷駅前広場で,手作りのランタン1万個に明かりを灯し,人権問題についてアピールするそうです(シャイン・ア・ライト).

日本では,法務省と全国人権擁護委員連合会が「人権デー」を最終日とする1週間(12月4日から10日)を「人権週間」と定めています.

法務省,全国人権擁護委員連合会の平成24年度の標語は,「みんなで築こう 人権の世紀 ~考えよう 相手の気持ち 育てよう 思いやりの心~」です.強調事項は,次のとおりです.

(1)女性の人権を守ろう 
(2)子どもの人権を守ろう 
(3)高齢者を大切にする心を育てよう 
(4)障害のある人の自立と社会参加を進めよう
(5)部落差別をなくそう 
(6)アイヌの人々に対する理解を深めよう 
(7)外国人の人権を尊重しよう
(8)HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見をなくそう 
(9)刑を終えて出所した人に対する偏見をなくそう 
(10)犯罪被害者とその家族の人権に配慮しよう 
(11)インターネットを悪用した人権侵害をやめよう 
(12)北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を深めよう  
(13)ホームレスに対する偏見をなくそう 
(14)性的指向を理由とする差別をなくそう 
(15)性同一性障害を理由とする差別をなくそう
(16)人身取引をなくそう
(17)東日本大震災に起因する人権問題に取り組もう

国の責任を脇において「・・・をなくそう」「・・・に取り組もう」と言われることには,違和感を感じます.
医療における人権侵害が問題になっていますが,患者の権利,健康を享受する権利は,「(8)HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見をなくそう」以外は強調事項になっていません.「非喫煙者の受動喫煙被害を受けない権利」も,侵害されている状況にありながら,強調事項になっていません.残念です.

ところで,日本は,国連人権理事会に2013年1月から復帰します.
アジア枠は,改選5カ国で,立候補国も5カ国でした.事前調整は望ましくないように思います.国連総会で一応投票が行われ,日本の得票数は5カ国中3位です.アラブ首長国連邦,カザフスタンに負けています.日本の人権水準はどの程度とみられているかを示唆する結果です.

その国連人権理事会の「達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する特別報告者」アナンド・グローバー氏が,2012 年11 月15 日~26 日,日本を訪れ,原発事故後の人々の健康に関する権利が守られているかを調査し,日本政府を厳しく批判しました.

国連広報センター「プレス・ステートメント」から抜粋ご紹介いたします.

「日本政府が被害にあわれた住民の方々に安定ヨウ素剤に関する指示を出さず、配布もしなかったことを残念に思います。」

「当初の避難区域はホットスポットを無視したものでした。これに加えて、日本政府は、避難区域の指定に年間20 mSv という基準値を使用しました。これは、年間20 mSv までの実効線量は安全であるという形で伝えられました。また、学校で配布された副読本などの様々な政府刊行物において、年間100 mSv 以下の放射線被ばくが、がんに直接的につながるリスクであることを示す明確な証拠はない、と発表することで状況はさらに悪化したのです。」

「私は日本政府に対して、住民が測定したものも含め、全ての有効な独立データを取り入れ、公にすることを要請いたします。」

「健康を享受する権利に照らして、日本政府は、全体的かつ包括的なスクリーニングを通じて、放射線汚染区域における、放射線による健康への影響をモニタリングし、適切な処置をとるべきです。」

「日本政府に対して、健康調査を放射線汚染区域全体において実施することを要請いたします。」

「調査範囲が狭いのです。これは、チェルノブイリ事故から限られた教訓しか活用しておらず、また、低線量放射線地域、例えば、年間100 mSv を下回る地域でさえも、ガンその他の疾患の可能性があることを指摘する疫学研究を無視しているためです。
健康を享受する権利の枠組みに従い、日本政府に対して、慎重に慎重を重ねた対応をとること、また、包括的な調査を実施し、長時間かけて内部被ばくの調査とモニタリングを行うよう推奨いたします。」

「自分の子どもが甲状腺検査を受け、基準値を下回る程度の大きさの嚢胞(のうほう)や結節の疑いがある、という診断を受けた住民からの報告に、私は懸念を抱いています。検査後、ご両親は二次検査を受けることもできず、要求しても診断書も受け取れませんでした。事実上、自分たちの医療記録にアクセスする権利を否定されたのです。残念なことに、これらの文書を入手するために煩雑な情報開示請求の手続きが必要なのです。」

「多くが短期雇用で、雇用契約終了後に長期的な健康モニタリングが行われることはありません。日本政府に対して、この点に目を背けることなく、放射線に被ばくした作業員全員に対してモニタリングや治療を施すよう要請いたします。」

「日本政府は、早急に食品安全の施行を強化すべきです。」

「一部の汚染除去作業が、住人自身の手で、しかも適切な設備や放射線被ばくに伴う悪影響に関する情報も無く行われているのは残念なことです。」

「日本政府は、全ての避難者に対して、経済的支援や補助金を継続または復活させ、避難するのか、それとも自宅に戻るのか、どちらを希望するか、避難者が自分の意志で判断できるようにするべきです。」

「健康を享受する権利の枠組みにおいては、訴訟にもつながる誤った行為に関わる責任者の説明責任を定めています。従って、日本政府は、東京電力も説明責任があることを明確にし、納税者が最終的な責任を負わされることのないようにしなければなりません。」

「健康を享受する権利の枠組みにおいては、地域に影響がおよぶ決定に際して、そうした影響がおよぶすべての地域が決定プロセスに参加するよう、国に求めています。つまり、今回被害にあわれた人々は、意思決定プロセス、さらには実行、モニタリング、説明責任プロセスにも参加する必要があるということです。」

「日本政府に対して、被害に合われた人々、特に社会的弱者を、すべての意思決定プロセスに十分に参加してもらうよう要請いたします。」

「私は日本政府に対して、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」を早急に施行する方策を講じることを要請いたします。」


もっともな指摘と思います.
人権は,人,市民の国に対する権利として発生し,発展してきました.今でも,まず国による人権侵害を警戒する必要があり,国に人権保障を求める必要があると思います.

谷直樹

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by medical-law | 2012-12-05 06:25 | 人権