弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

名古屋大学医学部附属病院,入院連絡体制の不備から手術時期が遅延し患者が死亡した事例の調査報告書を発表

名古屋大学医学部附属病院は,平成25年3月13日,入院連絡体制の不備から手術時期が遅延し,治療機会を逸したまま患者が死亡した事例についのて調査報告書を発表しました.

調査報告書によると,事案は次のとおりです.

「本事例は、口腔内に発生した病変の精査目的にて名大病院を紹介された患者が生検を実施され、根治の可能性が高い早期癌の可能性があるとの診断が得られたが、手術のための入院予定日が名大病院側から患者側に伝えられないまま約3年間が経過し、その間に癌の進行を許してしまったというものである。

当時名大病院は、患者に「入院日が決まったら連絡する」と約束したが、複写式の申し込み表を院内で遺失してしまったため、スタッフ間で情報が伝達されず、3年間患者への連絡が途絶えた形となった。
患者側は、自身の病気は「グレーゾーン」であって、まだ悪性と決まったわけではないと認識しており、病院から連絡がないのだから手術は必要ないのだろうと考え、紹介元のクリニックに通院していた。
紹介元のクリニックは、名大病院から生検結果の返書がなかったため、患者の認識通り、生検結果は悪性ではなかったものと考え、経過観察を続けた。これら一連の出来事は、名大病院内の入院連絡体制・情報管理体制の不備による事務手続き上のミスに端を発したものである。仮に3年前に、予定通り患者に手術が行われていれば、癌はその時点で根治していた可能性が高いと考えられた。」


調査報告書によると,ミスの要因は次のとおりです.

「このミスを発生させた要因として、当時の名大病院当該診療科の入院予約システムが、少数の人力と紙媒体による手作業に依存し、また紙媒体から電子カルテへの移行時期であり人為的なミスを招きやすいものだったこと、さらにミスを補う仕組みが脆弱だったことなどが挙げられた。また、生検結果の説明内容が、結果的に患者と病態を正確に共有するものではなかったこと、さらに名大病院が紹介元のクリニックに返信をしていなかったことなども患者の受診を促すことができなかった要因になったと考えられた。」

調査報告書は,「背景要因」として,次の3点をあげました.

「本調査委員会の事例発生における背景要因の検証にて、
①名大病院における入院予約システムの脆弱性、
②本患者の病態と入院の必要性の共有が十分でなかった点、
③名大病院と紹介元クリニック間での情報共有が十分でなかった点等が明らかとなった。」


調査報告書は,「再発防止、および改善策の提言」として,次の3点をあげました.

「(1)名大病院における入院予約システムの改善

事例発生当時、入院業務は、各々の診療科が独自の方法で行い、病院組織として統一的に管理、運営されることがなく、管理手順の洗練、精緻化が不十分であったものであり、これが入院予約システムの脆弱性の要因ともなっている。
そして、各診療科で独自に入院業務を行なっている点は、現在でも変わっていない。
入院業務については、本来、病院機能として組織的に運営すべきものであって、病院組織としての改善が必要であり、今後は、入院手続きの一元化ならびに集約管理が望まれる。
その際には、他の医療機関の入院管理システム等も参考にして、本事例のように患者情報が遺失してしまう危険を最小限に抑えた入院予約システム(万が一の連絡不備の発生時でも、院内で患者管理を回復できるフォローの仕組みも含む)が構築されることが望まれる。

(2)医療の質・安全向上のための患者参加の推進

本事例では、外来担当医と患者間において、本患者の病態と入院の必要性に関する認識の共有が十分ではなかった。
患者の安全を確保するためには患者の協力は不可欠であり、医療従事者と患者間の情報共有、連携及び協力を支援するなんらかの組織的な病院機能があれば、防ぎうるものであった可能性があると考えられた。病院組織としての取り組みが望まれる。

(3)情報共有の推進ならびに地域連携の強化

本事例においては、事例発生から大変長い時間が経過してから発覚していた。本事例の連絡不備を補うことができなかった根本的な要因として、病院-診療所間の情報の共有が適切になされていないことも一因であった。
今後、病院機能として情報共有の推進ならびに地域連携の強化の在り方を検討し、具体的な指針を定め、すべての診療科ならびに職種に周知徹底をはかるべきであると考える。」


直接の要因は入院連絡ミスですが,連絡ミスを補完するバックアップ体制がなかったことが悔やまれます.
さらに,外来担当医患から者に病態と入院の必要性が伝わっていなったために,問い合わせがなく,約3年が経過してしまっのも残念です.
紹介元クリニックに情報が共通されず,紹介元クリニックもがんではなかったと思ってしまったこともあります.
医療は,多くの人がかかわりますので,連絡ミスが起きやすいのですが,それだからこそ,連絡ミスを補完する体制が必要です.

名古屋大学医学部附属病院は,このように、調査委員の過半数を外部の専門家で構成した事故調査委員会が事故の要因・背景を調査し,再発防止に役立つ提言を行ってています.
このような事故調査は事故を減らすために必要なことですので他の大学病院も積極的に行っていただきたい,と思います.

谷直樹

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by medical-law | 2013-03-15 01:48 | 医療事故・医療裁判