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債権法改正,民事法定利率・遅延損害金と中間利息控除の割合について

債権法改正により,被害者が受け取ることのできる賠償額が減ってしまう,ということになりそうです.
債権法改正中間試案(案)は,民事法定利率をまず3%,その後金利にスライドする変動制に改正しようとしています.その結果,遅延損害金も同様にまず3%そして変動制となり,減額されてしまいます.他方,将来損害を現在価額に引き直すための中間利息控除の割合は,5%を維持するものとしています.
私は,逆に,中間利息控除の割合こそまず3%そして変動制に移行すべきで,遅延損害金については5%を維持すべき,と考えます.

◆ 現行法

現行法では,民事法定利率は年5%と定められています(民法404条). そこで,債務不履行・不法行為に基づく損害賠償金の遅延損害金は,年5%で計算されています(民法419条1項本文「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。」).なお,商事法定利率は年6% (商法514条)と定められています.

◆ 最高裁(三小)平成17年6月14日判決

将来損害については,中間利息を控除し現在価額に引き直してて計算します.
損害賠償額の算定における中間利息控除の割合を定める法文はありませんので,裁判所が事実認定のなかで判断しています.

損害賠償額の算定における中間利息控除の割合を年3%とした平成16年7月16日札幌高裁判決(末永進、森邦明、杉浦徳宏)は,最高裁(三小)平成17年6月14日判決(金谷利廣,濱田邦夫,上田豊三,藤田宙靖)により破棄差し戻しとなっています.
上記最高裁判決は,「被害者の将来の逸失益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならない」としています.

「3 原審は,甲の将来の逸失利益の算定における中間利息の控除割合につき,次のとおり判示して,被上告人らの請求を一部認容した。
 交通事故による逸失利益を現在価額に換算する上で中間利息を控除することが許されるのは,将来にわたる分割払と比べて不足を生じないだけの経済的利益が一般的に肯定されるからにほかならないのであるから,基礎収入を被害者の死亡又は症状固定の時点でのそれに固定した上で逸失利益を現在価額に換算する場合には,中間利息の控除割合は裁判時の実質金利(名目金利と賃金上昇率又は物価上昇率との差)とすべきである。民法404条は,利息を生ずべき債権の利率についての補充規定であり,実質金利とは異なる名目金利を定める規定であるので,これを実質金利の基準とすることの合理性を見いだすことはできない。また,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号ほかの倒産法の規定や民事執行法88条2項の規定が弁済期未到来の債権を現在価額に換算するに際して民事法定利率による中間利息の控除を認めていることについては,いずれも利息の定めがなく,かつ,弁済期の到来していない債権を対象としており,弁済期が到来し,かつ,不法行為時から遅延損害金が発生している逸失利益の賠償請求権とは,その対象とする債権の性質を異にしているのであって,中間利息の控除割合についてこれらの規定を類推又はその趣旨を援用する前提を欠くものというべきである。
 我が国の昭和31年から平成14年までの47年間における定期預金(1年物)の金利(税引き後)と賃金上昇率との差がプラスとなった年は16年で,マイナスとなった年は31年であること,そのうちプラス2%を超えたのは3年(最大値はプラス2.3%)であり,マイナス5%を下回った年は16年(最小値はマイナス21.4%)であり,全期間の平均値はマイナス3.32%であり,平成8年から平成14年までの期間の平均値は0.25%であることによれば,甲の将来の逸失利益を現在価額に換算するための中間利息の控除割合としての実質金利は,多くとも年3%を超えることはなく,中間利息の控除割合を年3%とすることが将来における実質金利の変動を考慮しても十分に控え目なものというべきである。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 我が国では実際の金利が近時低い状況にあることや原審のいう実質金利の動向からすれば,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は民事法定利率である年5%より引き下げるべきであるとの主張も理解できないではない。

 しかし,民法404条において民事法定利率が年5%と定められたのは,民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率,我が国の一般的な貸付金利を踏まえ,金銭は,通常の利用方法によれば年5%の利息を生ずべきものと考えられたからである。そして,現行法は,将来の請求権を現在価額に換算するに際し,法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には,法定利率により中間利息を控除する考え方を採用している。例えば,民事執行法88条2項,破産法99条1項2号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同様),民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法136条1項1号,2号等は,いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって現在価額に換算することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても,法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから,民法は,民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられる。このように考えることによって,事案ごとに,また,裁判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ,被害者相互間の公平の確保,損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。

上記の諸点に照らすと,【要旨】損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならないというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。

5 以上のとおりであるから,原判決中上告人の敗訴部分を破棄し,損害額等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すことにする。」


◆ 「民法(債権関係)の改正に関する中間試案(案)」

民法(債権関係)の改正に関する中間試案(案)」は,民事法定利率を年3%に引き下げ,年1回日銀の基準貸付利率の変動に応じて0.5%刻みで改定する,他方損害賠償額の算定における中間利息控除の割合は年5%とする,というものです.

4 法定利率(民法第404条関係)
(1) 変動制による法定利率
民法第404条が定める法定利率を次のように改めるものとする。
ア 法改正時の法定利率は年[3パーセント]とするものとする。
イ 上記アの利率は,下記ウで細目を定めるところに従い,年1回に限り,基準貸付利率(日本銀行法第33条第1項第2号の貸付に係る基準となるべき貸付利率をいう。以下同じ。)の変動に応じて[0.5パーセント]の刻みで,改定されるものとする。
ウ 上記アの利率の改定方法の細目は,例えば,次のとおりとするものとする。
(ア) 改定の有無が定まる日(基準日)は,1年のうち一定の日に固定して定めるものとする。
(イ) 法定利率の改定は,基準日における基準貸付利率について,従前の法定利率が定まった日(旧基準日)の基準貸付利率と比べて[0.5パーセント]以上の差が生じている場合に,行われるものとする。
(ウ) 改定後の新たな法定利率は,基準日における基準貸付利率に所要の調整値を加えた後,これに[0.5パーセント]刻みの数値とするための所要の修正を行うことによって定めるものとする。

(注1)上記イの規律を設けない(固定制を維持する)という考え方がある。
(注2)民法の法定利率につき変動制を導入する場合における商事法定利率(商法第514条)の在り方について,その廃止も含めた見直しの検討をする必要がある。
【部会資料50・1頁】

(2) 法定利率の適用の基準時等
ア 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,利息を支払う義務が生じた最初の時点の法定利率によるものとする。
イ 金銭の給付を内容とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によるものとする。
ウ 債権の存続中に法定利率の改定があった場合に,改定があった時以降の当該債権に適用される利率は,改定後の法定利率とするものとする。

【部会資料50・4頁】

(3) 中間利息控除
損害賠償額の算定に当たって中間利息控除を行う場合には,それに用いる割合は,年[5パーセント]とするものとする。

(注)このような規定を設けないという考え方がある。また,中間利息控除の割合についても前記(1)の変動制の法定利率を適用する旨の規定を設けるという考え方がある。
【部会資料50・6頁】」


◆ 遅延損害金はその趣旨から5%が適切 

そもそも,債務不履行・不法行為に基づく損害賠償金の遅延損害金は,利率を定めない金銭消費貸借の利率(法定金利)とは局面が違います.利率を定めない金銭消費貸借の利率は平均的な市中金利前後でも不都合はないのですが,遅延損害金を平均的な市中金利にすると加害者・保険会社が賠償支払いを遅らせてその資金を運用した方が得になりますので,平均的な市中金利より高く設定する必要があります.遅延損害金については,法定利率を適用しないことも十分合理性があると思います.遅延損害金は,制裁的考慮,政策的考慮(早期の賠償を促す)から,年5%が合理的と思います.遅延損害金を3%に引き下げれば,加害者側が裁判を引き延ばし,生活に困窮する被害者を兵糧攻めにし,低額の和解を迫ることも考えられます.
したがって,法定利率を3%にするなら,同時に現行民法419条を改正し,法定利率と損害賠償金の遅延損害金を別に定めるべきと思います.

◆ 中間利息控除の割合はその趣旨から変動制が適切

また,本来,平成16年7月16日札幌高裁判決が指摘するとおり,逸失利益を現在価額に換算する上で中間利息を控除するのは,将来にわたる分割払と比べて不足を生じないだけの経済的利益が一般的に肯定されるからにほかなりません.基礎収入を被害者の死亡又は症状固定の時点でのそれに固定した上で逸失利益を現在価額に換算する場合には,中間利息の控除割合は裁判時の実質金利(名目金利と賃金上昇率又は物価上昇率との差)とすべきです.
したがって,中間利息控除の割合こそが変動制であってしかるべきです.

◆ 仮に最高裁の考え方に従えば

最高裁(三小)平成17年6月14日判決の考え方は,民事法定利率と中間利息控除の割合を同じにするというものです.
法的安定,統一的処理,被害者相互間の公平の確保,損害額の予測可能性による紛争の予防等の観点から,「被害者の将来の逸失益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならない」という最高裁(三小)平成17年6月14日判決の考え方にも一理あり,その考え方では中間利息控除は民事法定利率と同じ割合でなければならないはずです.民事法定利率が変動制になれば,控除すべき中間利息の割合も変動制でなければならないはずです.

◆ 「民法(債権関係)の改正に関する中間試案(案)」について

債権法改正試案(案)は,制度の趣旨に合致しませんし,統一的に対処するという最高裁の考えにも従っていません.合理的な案とは思えません.

実質的にも,民事法定利率が3%に引き下げられ,遅延損害金もそれにスライドして引き下げられると(現行民法419条を残すとそのようになります.),被害者が受け取る遅延損害金が大幅に減少します.加害者が賠償金の支払いを引き延ばす事態も生じかねません.
他方で,控除すべき中間利息の割合を5%にとどめると,現状の過大な中間利息控除による大幅減額が維持されることになります.バランスを欠き,具体的妥当性を欠いた不合理な改正と思います.

谷直樹

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by medical-law | 2013-04-22 02:37 | 医療事故・医療裁判