弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

患者の視点で医療安全を考える連絡協議会、医療版事故調創設を要請

東京新聞「医療事故調は「議論不十分」 自民内から設置に批判」(214年1月23日)は、次のとおり報じました.

「自民党の社会保障制度特命委員会・厚生労働部会合同会議は二十二日、厚労省が通常国会に提出する医療と介護保険の見直しを一本化する法案について議論。医療事故を調査する第三者機関(事故調)の設置と、看護師に一部の医療行為を委ねられるようにする研修制度の新設に対し、「議論が不十分で拙速だ」などと批判が相次いだ。

 法案では、患者が死亡する医療事故が起きた場合、遺族らの申請を受けた事故調が、原因究明と再発防止策を検討する。ただ、医師会の支援を受ける議員らが事故調設置とセットになる医師の過失責任を免除する仕組みの議論が不十分として反発。削除か、一定期間後に内容を見直す条項を盛り込む修正を主張した。

 新設を検討する研修制度は、患者への気管挿管や動脈からの採血などの「特定行為」と呼ばれる医療行為を、研修を受けた看護師ができるようにする内容。医師の指示を受けた看護師が既に特定行為を行っている実態があることから、議員から「制度の新設は現場の混乱を招く」などとして撤回を求める意見が出た。

 丸川珠代厚労部会長は会合後、厚労省に研修制度について「現場の混乱が起きない理由の説明が十分でなかった」と指摘。記者団に対し、二十八日の次回会合であらためて厚労省の説明を聞き、事故調も含めて一括法案に盛り込むかどうか、結論を出す考えを示した。」



読売新聞「医療事故の調査制度創設を…事故被害者ら要請」(2014年1月27日)は、次のとおり報じました.

「医療事故の被害者や遺族らで作る「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」は27日、安倍首相や田村厚生労働相らに対し、医療事故調査制度の創設に向け、医療法改正を求める要請書を提出した。

 通常国会に提出される医療法改正案に制度の創設が盛り込まれる予定になっているが、一部の与党議員から疑義を唱える声が上がっているためだ。」



医療にたずさわる方は、医療過誤で患者が死亡しても、必ずしも遺族から責任追及があるわけではないことをご存知だと思います.
医療過誤を立証することのハードルの高さもさることながら、遺族が医療過誤であることに気づいていないケースが少なからずあるからです.

医療版事故調は、責任追及の制度ではなく、原因究明と再発防止のための制度です.
ただ、医療版事故調により事実が明るみにでてしまうと、医療過誤であることに気づいてしまう遺族もいるでしょう.その結果、いままで闇に埋もれていた医療過誤事案について、医療機関に対する民事の賠償が請求されることになりかねません.これが不都合である、と考える人たちは、医療版事故調に反対しています.
しかし、医療版事故調ができ、事実が明るみにでることよって、遺族が医療過誤に気づいてしまうという不都合なことがあるとしても、それは、医療版事故調の問題ではありません.医療過誤が少なからずあることの問題といえるのではないでしょうか.

また、明確な根拠は示されていませんが、民事賠償事請求訴訟が増えると、刑事の処分も増加し、行政処分も増えるから、という理由で反対する人もいます.
しかし、一般に示談成立により不起訴となることが多いように、民事が機能すれば刑事は謙抑的になると考えるべきでしょう.

医療版事故調が創設されると、医師が逮捕される、刑事処分が行われる、などと危機意識を煽る論調をみかけることもあります.
しかし、医療過誤に関して医師が逮捕される例はごくわすかです.山本病院事件の医師、銀座眼科事件の医師は、刑事処分に処されていますが、それは本当に不当なことなのでしょうか.
過失犯において逮捕されるのは、医療事故に関連するより、交通事故に関連するもののほうが多いでしょう.医療過誤を起こした医師の圧倒的多数は逮捕されていません.医療事故において逮捕され刑事処分を受けるのは、とくに違法性が高い場合に限られています.

院長である医師が理事長である義母を殺害し、(異常死であるにもかかわらず)病死とする死亡診断書を書き、義母は火葬されたという事件は記憶に新しいところです.このような事案で医師が逮捕され刑事処分を受けるのは不当とは思われません.
国家が刑事処罰を行うのは私的制裁を封じ秩序を維持するためでもありますから、医師に特権的な刑事免責権を付与するのは医師のためになりません.

医師法との関係は確かに未整理ですが、そのことをもって医療版事故調を先送りするのは早計ではないか、と思います.
医療版事故調により、事故の原因解明と再発防止がすすむことが期待できます.その結果、中長期的には医療事故が減り、医療弁護士の仕事が減るでしょう.そのほうが悲痛な医療事故被害を見ることが少なくなりますので、私はうれしいです.

【追記】

日本経済新聞「医療版事故調を設置へ 自民が大筋了承」(2014年1月28日)は,次のとおり報じました.

「医療事故の原因究明と再発防止に役立てるため、厚生労働省が法制化を目指す第三者機関「医療版事故調査委員会」について、自民党の社会保障制度特命委員会・厚生労働部会合同会議は28日、2年以内に制度を見直すことなどを条件に大筋で了承した。厚労省は今国会に制度創設を盛り込んだ医療法改正案を提出する。

 法案では診療行為に関して患者が予期せず死亡した場合、医療機関は民間の第三者機関への届け出と院内調査が義務付けられる。調査結果に納得できない遺族は第三者機関に再調査を求めることができ、調査結果は警察や行政に通知しない。

 ただ、医師が患者を「異状死」と認めたケースは従来通り医師法に基づき警察に届け出る義務があり、一部の議員らが「警察が介入する恐れがある」などと反発していた。法案ではこうした意見も踏まえ、2年以内に医師法との関係性についても結論を出すとの文言が盛り込まれる見通し。」


【再追記】

読売新聞「医療事故調査制度創設を了承…自民部会」(2014年1月30日)は,次のとおり報じました.

「自民党は30日午前、厚生労働部会などの合同会議を開き、医師の治療で患者が予期せずに死亡した場合、原因究明し再発を予防する医療事故調査制度を創設することを盛り込んだ「医療・介護総合推進法案」を了承した。

 公明党の部会でも31日に了承される見通しで、政府は近く法案を閣議決定し、通常国会に提出する。

 調査制度は、医療機関に対して、国が指定する第三者機関「医療事故調査・支援センター」に事故の届け出や院内調査結果の報告を義務付けるもので、2015年10月に施行される。今後、現行法が定めている警察への届け出との関係などを調整し、法律の公布後2年以内に制度を見直すこととされた。

 法案には、高齢者の在宅復帰や長期療養を支援するため、都道府県が必要な病床数をまとめた「地域医療ビジョン」を作ることも盛り込まれた。住み慣れた地域で医療と介護のサービスを一体的に受けられる体制作りを目指す。介護保険サービスの自己負担は、高所得の高齢者を対象に1割から2割に引き上げられる。」



弁護士 谷直樹

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by medical-law | 2014-01-28 02:24 | 医療事故・医療裁判