弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京大学「SIGN 研究特別調査 予備調査委員会中間報告書」

慢性期慢性骨髄性白血病治療薬の臨床研究「SIGN研究」に関する国立大学法人東京大学特別調査予備調査委員会は、2014年3月14日、中間報告を発表しました.

報告書は、のヒヤリングと書証(臨床研究実施計画書、メール等)から、事実を認定し、評価を加えています.

SIGN 研究は、医師主導の臨床研究ということで、研究代表者は黒川峰夫教授(東大病院血液・腫瘍内科)、プロトコール作成委員会委員長は南谷泰仁講師(東大病院血液・腫瘍内科)でした.

実際の実施母体はノバルティス社(以下「N 社」という)のMRが関わっていたとされている東京CMLカンファレンス(以下「TCC」という) で、そのTCCの代表世話人は黒川峰夫教授でした.
TCC 事務局の南谷講師名のメールアカウントは、東大病院担当N 社社員により管理されており、そのメール内容を確認すると、発信者TCC 事務局、黒川教授名及び南谷講師名のメールは、N 社社員がその原案を作成し、それぞれの確認、了解のもと、N 社社員が黒川教授名又は、南谷講師名で発信していた、というのですから、N 社と黒川教授・南谷講師との密接な関係がうかがわれます.

◆ 本当に医師主導の臨床研究だったのか?

報告書は、「南谷講師によると、研究デザインの立案は自身の手によるものとしている。しかしながら、研究計画書やアンケート用紙をはじめとするその後のほとんどの書類にはN 社の関与を示すプロパティが残されている。研究デザイン自体が海外のENRICH 試験を参考にしており、その資料がN 社から提供されていることも考慮すると、本臨床計画を企画するにあたって、かなり早期の段階からN 社の関与があったことを否定できない。」と指摘しています.

研究実施計画書やアンケート等の作成にN 社が関与していた。研究データの運搬に始まり、N 社社員が全参加施設の症例登録票等の写しを取得し、SIGN 研究の進捗状況が把握され、SIGN 研究の事務局機能も一部代行していた。TCC 事務局の南谷講師名のメールアカウントは東大病院担当N 社社員が管理し、東大病院担当N 社社員がメールの原案を作成するなど、実質的にTCC 事務局業務を代行していた。これらの事実は、本来、研究対象の製品を販売する企業とは独立して実施されるべき医師主導の臨床研究としては、適正性を欠いていると言わざるを得ない。」と評価しています.

医師主導の臨床研究と銘打っていましたが、その実態はノバルティス社主導の臨床研究だったといえるでしょう.

◆ 個人情報の扱い

「東大病院担当N 社社員によると、他施設担当社員も含めてアンケートの運搬に関与していたとのことである。初めからそのように運営されていたのではなく、他施設でのアンケートをその施設の担当社員が預かったことが契機となり、N 社社員によるアンケートの運搬が始まった。他施設N 社社員から預かったアンケートは2 部コピーし、1 部は事務局へ渡し、もう一部は東大病院担当N 社社員がN社内で保管していた。預かったものが原本の場合とコピーの場合があるが、いずれにしろ預かったものは他施設N 社社員に返却した。

事務局で他の施設からのfax を受領した際に、技術補佐員が受領書をその施設にfax 返信していた。やがて、その受領fax を東大病院担当N 社社員が代わりに作る様になり、fax で送られたデータも東大病院担当N 社社員が保管するようになった。その後、登録一覧(エクセルファイル)の更新も行うようになった。このようにして、東大病院担当N 社社員は全てのデータを入手するようになった。N社でそのデータがどのように扱われていたかは、N 社で調査中とのことである。

アンケートには、施設名、主治医名、被験者のイニシャル、生年月(日)、性別、患者ID などが記載されていた。特に「初回登録分CML 副作用アンケート」において記載されていた
患者ID は、明確な個人識別情報である。プロトコールでは研究事務局で症例登録番号を割り振り、登録通知書で各施設に通知し、この番号をもとに各施設で連結可能匿名化がなされることになっている。しかしながら、203 件のアンケートにおいて、各病院の患者ID が記入されていることが判明した。これらの個人識別情報はN 社にコピーとして渡っていたと考えられる。」

「他施設からのアンケートを N 社社員が運搬し始めたことを契機に、東大症例のアンケートや正規手続きであるfax で送られたアンケートも含めて255 例分の全てのデータがN 社に渡った。この中に施設名、主治医名、被験者のイニシャル、生年月(日)、性別、患者ID などが含まれていた。特に203 名分の患者ID が含まれていることは遺憾であり、守秘義務違反や個人情報保護法違反、学内内規の違反に該当する重大な過失である。」


◆ 第 75 回日本血液学会学術集会でなされた本研究の中間報告について

「タイトルとCOI 開示の2 枚を除く14 枚の発表スライドの内、半数の7 枚はN 社が作成したスライドと酷似しており、元のデータが同一のものを使用した可能性が高いと判断された。このうち1 枚はN 社社員がデータ解析し作成したスライドを流用したことが明らかとなっている。
なお、学会発表はビデオに撮影され、N 社によるニロチニブの販売促進活動に使用された。」

「ビデオ撮影された学会発表の内容は、研究の中間データであり、しかもN 社の関与の疑いがある。このような発表内容をN 社によるニロチニブの販売促進活動に使用させた事は慎重さを欠いていた。」


報告書で明らかにされた事実を前提とする限り、これは臨床研究に関する倫理指針違反にあたると思います.

また、国立大学法人法第19条は、「国立大学法人の役員及び職員は、刑法 (明治40年法律第45号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。」と定めています.
刑法第197条1項は、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。」と定めています.
N 社からの寄付金とこのSIGN 研究(実態はニロチニブの販売促進)との関係次第によっては、贈収賄罪も考えられるのではないでしょうか.


弁護士 谷直樹

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by medical-law | 2014-03-15 04:39 | コンプライアンス