弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

奈良県の病院、看護師の鎮静剤プロポフォール投与後に患者が植物状態になった事案

読売新聞「病院長「看護師の鎮静剤投与、問題ない」」(2014年6月13日)は、次のとおり報じました.

「○○病院で昨年8月、手術を受けた女性(81)が鎮静剤「プロポフォール」の投与後、植物状態になった問題で、院長が13日、院内で記者会見し、「プロポフォールの使用でこのような事態になり残念に思う。患者、家族には誠意をもって対応したい」と述べた。
 鎮静剤の添付文書では医師が専任で患者の状態を注意深く監視することなどを求めている。女性患者に看護師が投与したことなどについて、中谷院長は「医師が少ない中、患者に医師が常に付き添うことは不可能だ。患者の容体は当直医や看護師が定期的に確認しており、病院の態勢や、看護師による投与に問題はなかったと考えている」とした。
 女性が植物状態になったことと投与との因果関係は「高齢で、はっきりしないが、原因であることも否定できない」と話した。」


読売新聞「鎮静剤「細心の注意を」 県が通知へ」(2014年6月14日)は、次のとおり報じました.

「○○病院で昨年8月、手術を受けた女性(81)が鎮静剤「プロポフォール」投与後に植物状態になった問題を受けて、県は13日、プロポフォールの使用にあたっては細心の注意を払うよう求める文書を、来週初めにも県内の医療機関に通知することを決めた。(小林元、守川雄一郎)
 県地域医療連携課は、同病院から同日、「プロポフォールの使用後に意識不明になった高齢患者がいる。原因はわからない」とする報告を受けたことを明らかにした。担当者は「内容を検討したうえで、各機関にこの薬の危険性や、取り扱いに関する注意の周知を図りたい」と話している。

 院長は同日、院内で開いた記者会見で、「女性が気の毒な状態になったことをおわびする」と述べる一方、看護師が投与するなどしていた病院の対応については「ミスがあったとは思わない。やることはやった」と強調した。
 病院側は、女性の容体は急変する20分前までは安定していたと説明した。中谷院長は「プロポフォールの使用は、やむを得なかった。同じやり方(医師の指示による看護師の投与)で、うまくいったケースもある」と述べた。」


報道の件は私が担当したものではありません.
プロポフォールは、マイケル・ジャクソン氏の死亡により一般にも知られるようになった薬です.
最近では、大学病院で、小児への投与が禁忌とされているにもかかわらず、投与され、死亡事故が起きていたことが報じられています.

プロポフォールの添付文書の「重要な基本的注意」の欄に、「本剤の使用に際しては、一般の全身麻酔剤と同様、麻酔開始より患者が完全に覚醒するまで、麻酔技術に熟練した医師が、専任で患者の全身状態を注意深く監視すること。集中治療の鎮静に利用する場合においても、集中治療に熟練した医師が本剤を取り扱うこと。」と記載されています.

最高裁平成8年1月23日判決(民集50巻1号1頁)は、「医薬品の添付文書の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者または輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が当該医薬品を使用するにあたって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。」と判示しました.
薬剤は、添付文書の記載どおり使用する義務があり、添付文書の記載どおり使用しない場合はそれについて特段の合理的理由があることを病院側が立証する責任があります.
医師が少ないから、というのは、合理的な理由とはならないでしょう.


谷直樹

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by medical-law | 2014-06-15 23:32 | 医療事故・医療裁判