弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

強力ステロイドを含有する「ステロイド不使用の漢方クリーム」の漢山株式会社と医師が破産

神奈川新聞「強力ステロイド処方 山口院長が自己破産」(2014年7月17日)は,次のとおり報じました.

「横浜市都筑区の山口医院が「ステロイド不使用の漢方クリーム」とうたって最も効力の強いステロイド含有の塗り薬を処方していた問題で、同院の山口了三院長(69)と、同院長が代表取締役を務める医薬品輸入会社「漢山」(同区)が東京地裁に自己破産を申請し、破産手続き開始決定を受けていたことが16日、分かった。決定は14日付。

 破産管財人によると、債権者数や債権額は現時点で不明という。また同院が今月22日に同院ホームページで破産について報告する予定とし、「(報告まで)詳しい内容の説明は控える」としている。

 同院は4月に開いた患者向け説明会で、処方薬代の返金について法的整理も含めて検討していると説明していた。

 管財人によると、債権届け出期間は12月10日まで。債権者集会は同24日午後1時半から、日比谷公会堂(東京都千代田区)で開かれる。

 同院をめぐっては、2013年秋の国民生活センターの調査で、塗り薬へのステロイド含有が発覚。横浜市は医療法に基づく行政指導をした。被害弁護団は同院に患者の慰謝料など損害賠償を求める集団訴訟を予定していたほか、県警は今年4月、同院と院長宅を不正競争防止法違反容疑(虚偽表示)で家宅捜索していた。 

◆「いつ救われるのか」集団訴訟白紙に

 山口了三院長の自己破産手続きの開始を受け、被害弁護団(黒田陽子代表)は16日、同院長に対し損害賠償を求めて8月中に起こす予定だった集団訴訟を「白紙」にすることを明らかにした。今後は、破産手続きの中で患者の救済を求めていく。一方、原告団に加わる準備を進めていた患者は、歯がゆさを吐露した。

 歯科衛生士の女性(38)=横浜市港北区=は、ステロイド依存によるリバウンド(離脱症状)で顔が激しく腫れ、1月から休職している。副作用を裏付ける診断書を取得し、原告団に参加するつもりだった。

 2011年から買い続けた20万円近くに達する塗り薬の代金ばかりか、リバウンドの治療費や休職による慰謝料を求めて争う決意は、提訴目前でしぼんだ。「いつになれば、救われるのか」

 「(破産は)損害賠償請求訴訟による責任追及回避が狙いではないか」。長男(31)が副作用に苦しむ同市港南区の男性(64)は勘ぐる。「債権の配当で終わりとは、あまりに無責任だ」と憤った。

 被害弁護団の鈴木順事務局長は12月の債権者集会に向け、「患者をできる限り救済していきたい」と話している。弁護団は今後の対応をホームページ(http://ty-higai.kanagawa-iben.com/)で公表する予定。」


ステロイドの副作用についての医療過誤に基づく損害賠償請求であれば,山口医師個人の医事保険を使うことはできるかもしれませんが,被害者が多数で,保険金支払いの限度を超えると,先取特権(保険法22条)でも全額の賠償金を確保するのは難しそうです.

都筑区山口医院弁護団は,被害者に,債権届出期間内(平成26年12月10日まで)に,債権届出を行うよう奨めています.


【追記】

神奈川新聞「強力ステロイド薬問題 病院が3909人に処方 債権総額2億円超」(2014年11月1日)は,次のとおり報じました.

「横浜市都筑区の山口医院が「漢方クリーム」とうたって最も強力なステロイド成分を含む塗り薬をアトピー性皮膚炎患者らに処方していた問題で、同院が2009年以降、3909人に塗り薬計5万8915個を処方していたことが31日、関係者への取材で分かった。山口了三院長(69)は7月、東京地裁に自己破産を申請。3909人は債権者一覧に含まれ、債権総額は2億3165万円に上る。

 同院は4月の患者向け説明会後、神奈川新聞社などの取材に対し、13年の1年間に処方した患者は「少なくとも1600人」と答えていた。同院は十数年前に処方を始めたと説明しており、被害弁護団は「実際の債権者は6千~7千人に上るのではないか」とみている。

 債権者一覧には、3909人のカルテ番号、氏名、購入個数、購入総額(債権額)が記されている。塗り薬は2種類あり、それぞれの処方数は2万9476個と2万9439個。100万円を超える債権者も複数確認された。一部の債権者には計516万円が返済されている。

 破産管財人は近く、住所を把握している債権者に債権届出書を発送する方針。

 患者の被害回復に向け院長に対する集団訴訟を検討していた被害弁護団の鈴木順弁護士は、「患者側で処方された証明ができなくても、債権を主張できる可能性がある」と指摘。管財人側が把握できていない患者に債権が通知されない可能性も想定されるため、「泣き寝入りせず、管財人に問い合わせてほしい」と呼び掛けている。

 同院の説明の倍以上の患者に対する処方が確認されたことについて、自己破産を申し立てた代理人は「知らなかった。破産手続きに移行したのでコメントする立場にない」と答えた。「漢方相談役」として塗り薬を同院に持ち込んだとされる中国籍の女性(52)の代理人は「後遺症や副作用を負った方がいれば、大変気の毒であり、遺憾である」と書面で回答した。

 債権者一覧は東京地裁で閲覧できる。債権届け出は12月10日まで。債権者集会は同24日、日比谷公会堂(東京都千代田区)で開かれる。債権に関する問い合わせは、破産管財人室電話03(3539)2099。

 ◆山口医院によるステロイド含有塗り薬処方問題 2013年秋の国民生活センターの調査で、山口医院が処方した塗り薬から最も効力の強いステロイド成分「プロピオン酸クロベタゾール」が検出された。被害弁護団は院長に対し、損害賠償を求める集団訴訟を起こす方針だったが、自己破産の申し立てを受けて撤回。県警は今年4月、同院と院長宅を不正競争防止法違反(虚偽表示)の疑いで家宅捜索し、患者のカルテを押収して調べている。」


谷直樹

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by medical-law | 2014-07-17 08:05 | 医療事故・医療裁判