弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

福岡地裁久留米支部平成26年8月8日判決,勤務先病院による看護師に対するプライバシー侵害で賠償命令

毎日新聞「HIV感染:勤務先病院に「就労制限で不当」と賠償命令」(2014年8月8日)は,次のとおり報じました.

「◇福岡地裁久留米支部、看護師のプライバシー侵害も認定

 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の検査をした大学病院から陽性結果が勤務先の病院に伝わり退職を余儀なくされたとして、感染した看護師が勤務先の病院に約1000万円の損害賠償を求めた訴訟で、福岡地裁久留米支部(太田雅也裁判長)は8日、勤務先病院に115万円の支払いを命じた。HIVに感染した医療従事者の雇用を巡る判決は初めて。

 判決は、病院による看護師のプライバシー侵害と就労制限の不当性を認定した。

 判決によると、看護師は2011年8月、勤務先病院の紹介で受診した大学病院でHIVの感染が判明した。看護師が知らない間に、大学病院から検査結果が勤務先に伝わり、複数の上司に検査結果が漏れていた。病院幹部から仕事を休むよう言われ、看護師は休職、同年11月に退職した。

 主な争点は(1)HIV陽性の感染情報を大学病院から受けた診療部門の医師と、労務管理をする看護師の上司らが共有したのはプライバシーの侵害にあたるか(2)HIV感染を理由に就業を制限することが違法かどうか−−だった。

 原告側は「HIVの感染情報を労務管理に使うのは個人情報の目的外利用」でプライバシー侵害にあたると指摘。看護師に病院側が休むよう指示したのは「HIV感染を理由にした職場からの排除にほかならない」と主張し、感染を理由にした就労制限は違法としていた。

 これに対し病院側は「HIV感染情報はたまたま入手したもので、雇用管理目的に利用しても目的外利用ではない」と反論し、治療に専念するため体調を気遣い休むように言ったことは、感染を理由にした就労制限に当たらないと主張した。また「わずかでも患者にHIV感染の危険がある以上、看護業務から離れてもらうのは医療機関として当然だ」としていた。

 看護師は退職後、医療現場を離れ別の職場で働いている。

 看護師は当初、検査をした大学病院にも賠償を求めたが、大学病院は診療情報の取り扱いについて原告との意思確認が不十分だったと謝罪し、昨年4月、和解が成立した。【宗岡敬介、金秀蓮】」


115万円ということは,主に精神的苦痛に対する慰謝料として賠償が認められたと考えられます.

詳細は,九州合同法律事務所のブログをご参照ください。

毎日新聞「HIV感染:陽性も医療現場で働ける…勝ち取るまで2年半」(2014年8月8日)には、原告看護師の代理人弁護士の小林洋二先生と同弁護士久保井摂先生の写真が載っています.


 「医療の職場でもHIVに感染した労働者は他の労働者と同様に扱われるべきだ−−。HIVに感染した看護師への就労制限を不法行為と認定した8日の福岡地裁久留米支部判決に、原告の看護師は「HIV感染者が医療の職場で働く権利が認められた。社会的に認めてもらいうれしい」と胸をなでおろした。感染者支援団体や看護団体も「妥当な判決」と評価した。【金秀蓮】

 「医療現場で働く人が正しい知識を持って、差別偏見をなくしてほしい」。2度と同じ思いをする人が出ないようにと、看護師が提訴に踏み切ってから2年半。退職せざるを得なかった精神的ショックは大きく「こうして生きていていいのか、自分の考えは正しかったのだろうか」と悩むこともあった。

 裁判の審理中は「原告の体調に配慮して休ませた」とする一方で「患者に感染するリスクがある」と繰り返す病院側の主張に何度も傷ついたという。

 幼い頃から憧れの職業だった看護師。奨学金を得て学校に通い、ようやく手にした資格だった。共に志した級友たちがキャリアを積む中「この件がなければ自分も一人前の看護師になれていたかな」とやりきれない気持ちになる。

 医療とは無縁の職場で働き、収入は3分の1に減った。復職を強く願うが「同じようなことをされるのでは」と一歩踏み出す勇気が出ないでいる。感染判明後の病院側との面談では上司から「あなたは働けると思っているの」と突き放されたように言われ、病院で働き続ける自信を奪った。

 だが、勝訴判決を得た今、はっきりと言えるようになった。「HIVを理由に休職に追い込まれるのはおかしい。病気でも働ける。医療従事者が正しい知識を持ち、自分のような経験をした人がいることも知ってほしい」

 原告弁護団の久保井摂(せつ)弁護士は「HIV陽性の人が医療現場にいるはずがないという間違った認識が世の中にあるのも現実。判決が、HIVに感染していることを秘して生き続けないといけない世の中を、少しでも変えられる一助になれば」と話した。」


【追記】

msn産経「HIV就労制限で控訴 福岡」(2014年8月22日)は,次のとおり報じました.

「エイズウイルス(HIV)感染を理由に退職を余儀なくされたとして、福岡県の20代の元看護師が勤務先の病院に損害賠償を求めた訴訟で、病院側は21日、約115万円の支払いを命じた福岡地裁久留米支部の判決を不服とし、福岡高裁に控訴した。」



谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2014-08-08 16:01 | 医療事故・医療裁判