弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大阪地裁,乳がん患者の治療の機会を奪った自称宗教家に約6000万円の賠償を命じる

産経新聞「ニセ霊能者「神さんに聞いた。癌と違う」、デタラメ“洗脳”の悲劇…すがった女性の乳癌は進行し3年後に亡くなった」(2014年8月29日)は,次のとおりました.

「乳がん患者の女性は、自称宗教家の「おはらい」を受けることで治療したと思い込んでいたというが、3年後にがんが進行し亡くなった。この宗教家に対し女性の遺族が損害賠償を求めた大阪地裁での訴訟の中で、宗教家は自らに霊能がないと告白するなどし、地裁は計約6600万円の賠償を命じた。

乳がん患者の女性は、自称宗教家の「おはらい」を受けることで治療したと思い込んでいたというが、3年後にがんが進行し亡くなった。この宗教家に対し女性の遺族が損害賠償を求めた大阪地裁での訴訟の中で、宗教家は自らに霊能がないと告白するなどし、地裁は計約6600万円の賠償を命じた

 「神さんに聞いた。あなたの病気はがんと違う」

 乳がんに倒れた女性は、ニセ霊能者のでたらめな言葉をすがるような思いで聞いたに違いない。「病気を治す」と嘘を言い、兵庫県内の女性=当時(47)=にがん治療の機会を与えず死亡させたとして、女性の遺族が、自称宗教家(66)などに損害賠償などを求めた訴訟の判決が7月、大阪地裁であった。女性はこの男性宗教家の施した「おはらい」を治療と思い込んだというが、宗教家は訴訟で自ら霊能がないと告白。地裁は宗教家に計約6600万円の賠償を命じた。信仰心の強さ故の悲劇だが、現代社会でも“宗教”に救いを求めるケースは少なくない。

“洗脳”期間3年

 判決によると、女性は夫と子供2人の4人家族。家事と子育てにいそしむ主婦生活に影が差したのは平成19年1月のことだった。

 乳がん検診で左乳房に2・5センチ大のしこりが見つかり、後にがんと判明した。医師には、手術か化学療法のいずれかの治療を選ぶよう告げられた。

早期がんのため、この時点で女性が適切な治療を受けていれば命が助かる可能性は高かった。ところが女性と夫は、かねてから心酔していた自称宗教家に助言を依頼。これが悲劇の始まりだった。

 宗教家は、女性に胸のしこりについて「神さんのお告げによれば、がんとは違うできものだ」と説明。「医者には治せない。霊能のある私しか治せない」と言い、自身のおはらいを受けるよう勧めた。

 女性は宗教家の言葉を信じ、しばらく手術などを見送ることを決意。おはらいを受けるため、週に1~4回、大阪市阿倍野区にある宗教家の事務所に通うようになった。おはらいは頭や肩をたたくだけの行為で、1回2万円。他に「胸に光を入れる」と女性をあおむけに寝かせ、胸の上に手をかざすこともあった。

 ただ、宗教家は特殊能力も医学的知識も持ち合わせてはいなかった。女性の病状は21年6月には、手の施しようがない末期がん(ステージIV)に進行。しこりは10センチ大になり、乳頭からは膿や血が出るようになった。

医師は抗がん剤治療を受けるよう女性と夫を強く説得した。それでも、宗教家は「できもんを小さくするためには膿は出さなあかん」「元は背骨が悪い。病院は背骨なんか見ないから乳がんと言う」などと女性を“洗脳”し続けた。女性は抗がん剤治療を拒み、比較的副作用の少ないホルモン療法を頼った。

 結局、女性はがん発見から約3年後の22年1月、家族に見守られながら自宅で亡くなった。この時、がんは肺に転移していた。

本業はかばん製造販売

 女性が宗教家に支払った「おはらい料」は少なくとも384万円に上るとされる。当然全額が賠償に含まれたが、女性に命の危険が迫る中、虚言を弄して金をもうけた宗教家とは一体何者なのか。

 昭和44年ごろ、大阪市阿倍野区でかばんの製造販売業を営み始めた。宗教家を名乗るのは59年ごろ。「雷神」を崇拝し、副業として心身の不調を訴える人々へのおはらいを始めた。亡くなった女性の夫とはこのころ、本業を通じて知り合っている。

宗教家の事務所は「教会」と呼ばれるようになり、信仰に篤い人々や特殊能力を持つ人々が集まるようになった。例えば女性と同時期に事務所に通っていた男性(30)は、小学3年生のころから叔母に連れられて教会に通った。景色や人物に独特の色が見えることに悩み、おはらいを受けていたのだという。

 ただ、宗教家には当初から霊能がなかった可能性が高い。宗教家は訴訟の中で自身を「市井の宗教家」と表現。他人の体内に存在する病変を見つけたり、治療したりする能力はないと認識していたと告白した。

 さらに、女性から病状の相談を受けた際、「がんではない」と発言した覚えはなく、むしろ病院に行くよう助言したと主張。度重なるおはらいについては「社会通念上相当な宗教行為だった」と訴えた。

 一方、地裁判決は、宗教家の主張を「信用できない」と一蹴。言動は宗教行為ではなく、不法行為にあたるとした。

 その上で、宗教家の振る舞いと女性の死亡との因果関係を認定。宗教家の嘘を信じた女性や夫に落ち度はなかったとし、宗教家に遺族5人に計約6600万円の高額賠償を支払うよう命じた。

刑事事件のケースも

 結局、宗教家が主催する宗教がどんな教義を持っていたのかは分からない。ただ、宗教上の理由から患者の治療の機会を奪って死亡させるトラブルは、刑事事件に発展するケースもある。

 福岡県警は平成22年、アトピー性皮膚炎が悪化した生後7カ月の長男に治療を受けさせず、感染症で死なせたとして、福岡市の宗教法人職員で信者の夫婦を殺人容疑で逮捕した。

 県警は親が合理的な理由なく子供に治療を受けさせない「医療ネグレクト」にあたると判断。夫婦は宗教の教義に従い、手をかざす「除霊」と呼ばれる行為で自然治癒を目指していたという。長男の死因は殺菌感染による敗血症だった。

 また、患者が自らの宗教上の信念で治療の機会を放棄する事例もある。

 科学技術の発達した現代社会では、人の命を救う役割を担っているのは医学的治療であり、宗教が救済するのはあくまで人の「心」が中心だ。とはいえ、病に倒れた人々は、苦しい闘病生活からの解放を願い、宗教に頼るケースがまだまだ多いのかもしれない。

 訴訟は控訴され、高裁で再び主張が争われることになった。今後の展開が注目される。」


がんではないとは言っていない,病院に行くよう助言した,とすれば,患者は病院を受診し治療を受けたはずですから,患者がこの宗教家のお祓いに頼ったという事実からすれば,宗教家はがんでないと述べたと考えられるでしょう。
宗教家に洗脳されている人は,宗教家に「がんではない」と言われれば,その言葉を信じたくなるでしょう.
本件は,宗教活動の限界を超えた違法悪質な行為と思います.
判決が因果関係を認めた点も正しいと思います.

谷直樹

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by medical-law | 2014-09-04 08:15 | 医療事故・医療裁判