弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大阪地裁の書記官が判決正本交付日の記載を誤ったことを保険会社の代理人弁護士が立証できた例(報道)

毎日新聞「大阪地裁:控訴期限を誤る 高裁「二重ミス」批判」(2014年12月24日)は,次のとおり報じました.

◇保険会社、却下の後に逆転勝訴
 
「保険金の支払いを保険会社に命じた2011年3月の大阪地裁判決を巡り、被告の保険会社の控訴が約3年半後にようやく認められた。当時は「控訴の締め切りに1日間に合わなかった」とされたが、大阪高裁は今年11月、締め切りの起算日を地裁が誤って記していたと判断した。控訴を受け入れた高裁は保険会社の逆転勝訴を言い渡し、確定した。訴訟の行方に影響した異例のミスが明らかになり、高裁は地裁を厳しく批判している。

 当時の控訴無効の判断に伴い、保険会社は約470万円を原告側に支払っており、保険会社は今後、返還を求めていくという。

 訴訟は、50代男性=大阪府=が車上荒らし被害に伴う保険金を損害保険会社に求めて地裁に提訴した。11年3月8日の地裁判決は保険会社に支払いを命じ、判決確定前でも強制的に執行できる「仮執行宣言」も付けた。

 今年11月の高裁判決によると、保険会社は地裁判決を不服として11年3月23日に地裁に控訴状を提出した。控訴できる期間は2週間で、民事訴訟の場合は判決文を受け取った日の翌日から数える。保険会社は、代理人弁護士事務所の担当者が地裁の書記官室で判決文を受け取ったのは3月9日としており、控訴期限は23日となる。

 しかし、地裁の報告書には、保険会社側に判決文を渡した日時は「3月8日午後3時5分」と記されていた。この記録によると、控訴期限は22日となるが、地裁は日付を確認せずに23日に控訴を受理、その後、高裁が気付いて控訴を却下した。

 判決は、地裁の報告書に「3月8日午後3時5分」と記載した書記官が同じ日の午後3時以降に休暇を取っていたと指摘。弁護士事務所が保険会社に判決文をファクス送信したのも3月9日だったことから、書記官が9日なのに8日と勘違いして記したと判断、控訴を有効と結論付けた。

 判決は「チェック体制が万全だったと言い難い」と二重のミスをした地裁を厳しく批判した。その上で、車上荒らしは自作自演だとして地裁判決を取り消し、保険会社の勝訴とした。原告側は上告せず、確定した。

 訴訟を巡っては、控訴を却下した当時の高裁判断を不服として保険会社が上告。最高裁が昨年7月、「地裁のミスの可能性がある」と審理を高裁に差し戻した。一方、保険会社は仮執行宣言に基づき約470万円を原告側に払っており、地裁のミスが影響した形だ。


大阪地裁に限らず書記官の記載ミスはあり得ることですが,記載ミスを想定した仕組みが作られていませんので,書記官の記載ミスを立証することは事実上困難です.
報道の件は,その記載ミスを立証できた希有な例と思います.
法律事務所が保険会社に判決文をファクス送信したのが3月9日であっても,その法律事務所が判決正本受領後ただちに送信せず翌日送信したと認定される可能性があります.
この例でも,もし当該書記官が休暇をとらずに勤務していたら,日付けの記載ミスを立証することはできなかったのではないか,と思います.

書記官の記載ミスはあり得ることにもかかわらず,記載ミスがないという前提で一人の書記官の記載のみで判決正本交付日を認定している(点検・確認の仕組みがない)ため,法律事務所側が記載ミスを立証する手段が乏しいことを考えると,法律事務所が(郵送ではなく)交付の方法で判決正本を受領したときは,交付日ではなく判決日から起算して14日内に控訴状を提出するのが安全でしょう.
なお,私は,判決日から遅くとも10日くらいで控訴状・上告状兼上告受理申立書を出すようにしています.


谷直樹

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by medical-law | 2014-12-26 01:18 | 司法