弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京都立神経病院、治療に関係ないインスリンが大量に検出された事案で2000万円支払い(報道)

難治性側頭葉てんかん手術後の後遺症がある患者が東京都立神経病院に入院中、平成23年6月に治療に関係ないインスリンが大量に検出された事案について、都立神経病院高インスリン値検出事案検証委員会報告書(平成26年6月)は、「必要のない患者に第三者によりインスリンが投与された可能性が疑われる事態を招いたことは、病院管理上の不備を指摘されかねない問題であり、ご家族からの不信感のみならず、病院に対する都民の信頼性の低下に繋がる恐れのある出来事である。」と指摘しました.
インスリンが外部から持ち込まれたものか不明で、また何者がインスリンを投与したかも不明ですが、東京都は、平成26年12月27日、損害賠償金2千万円を支払うことで和解を成立させたとのことです.
なお、患者側代理人は、医療問題弁護団の弁護士です.

朝日新聞「インスリン大量投与で和解 損賠2000万円 都立神経病院」(2014年12月30日)は、次のとおり報じました.

「都立神経病院(府中市)で2011年、入院中の女性(45)の容体が急変し、血液中から治療に関係ないインスリンが大量に検出された問題で、女性の代理人弁護士は29日、都が損害賠償金2千万円を支払うことで和解が成立したと明らかにした。成立は27日付。

 代理人によると、女性は06年8月、同院でてんかんの手術を受けた後、治療と療養を続けていた。11年6月23日、容体が急変し、意識障害となり、今は意思疎通ができないという。

 病院側は今年1月に検証委員会を設け、経過などを調べた。検証委が6月にまとめた報告書は、容体急変直後に女性の血液から通常の2500倍のインスリン値が検出されたとして、「医療上の必要性とは無関係にインスリンが投与された可能性が高い」と結論づけた。

 病院側は検証委に、インスリンが病院で保管しているものか外部から持ち込まれたものか、誰が投与したかは不明とした。インスリンを施錠して保管し、使用量を記録するなどの再発防止策をまとめた。

 女性の夫(48)は29日に都内で会見し、「自分たちのようなつらい思いをしないように、全国の病院でインスリンの管理を見直してほしい」と訴えた。病院側は和解の成立を認めた上で、「詳細なコメントは差し控えたい」としている。」


読売新聞「大量インスリン検出、都が2千万円支払いで和解」(2014年12月30日 )は、次のとおり報じました.
 
「東京都立神経病院(東京都府中市)で2011年6月、入院中の女性患者(45)の血液から、大量のインスリンが検出された問題があり、都がこの女性と家族に2000万円を支払うなどの内容で和解したことが29日、わかった。

 女性の家族や弁護士が都内で記者会見を開いて明らかにした。和解は27日付。

 弁護士などによると、女性の容体が一時急変し、血中から治療には不要なインスリンが大量に検出された。女性はその後、脳障害を発症し、意識障害が続いており、警視庁が捜査している。

 同病院の検証委員会が今年6月にまとめた報告書では、インスリンが病院で保管していたものか、外部から持ち込まれたものかは不明だが、「医療上の必要性とは無関係に投与が行われた可能性が高い」などとしていた。

 この女性の夫(48)は会見で、「病院は本来、安全でないといけない場所。憤りを覚える」と話した。」


「都立神経病院高インスリン値検出事案検証委員会報告書」はコチラ
病院の再発防止策と委員会の評価は次のとおりです.
再発防止策は、他院でも採用されるべきでしょう.

「(1) インスリン管理について
神経病院のインスリン管理は、薬事法等の法令で求められる基準は満たしているが、今回の事案を受け、インスリンの保管管理を更に強化するため、以下の取組を実施している。

ア 薬剤科から病棟に払い出すまでの保管管理

(ア) 薬品払出庫の施錠
薬剤科には、病棟に払い出す薬剤を保管する薬品払出庫がある。夜間帯等、職員が不在になる時間帯の薬品払出庫の施錠を確実に実施することにした。

(イ) 病棟に払出したバイアル製剤の記録
薬剤科から病棟への払出記録は出納簿による在庫管理のみであったため、責任の所在が不明確になっていた。このことを踏まえ、薬剤科では、インスリンのバイアル製剤を病棟に払い出す際、薬剤科管理簿に日付、病棟名、出庫数、残数及び出庫者名を記録することにした。

イ 病棟における保管管理

(ア)薬剤科から払出されたバイアル製剤の記録
薬剤科から払出されたインスリンのバイアル製剤について、病棟ごとにインスリン管理簿を作成、補充されたバイアル製剤数を記録し、看護師及び薬剤師がサインすることで、責任の所在を明確にした。

(イ) インスリン使用実績の記録
病棟ごとにインスリン管理チェックリストを作成し、使用実績を記録管理することにした。併せて開封後1か月の使用期限を徹底した。

(ウ) 各勤務帯の引継ぎの実施
病棟ごとに、各勤務帯(日勤、準夜、深夜)において病棟管理のインスリン製剤の在庫数を確認し、インスリン管理チェックリストにより、次の勤務帯への引継ぎを実施することにした。

(エ) インスリン格納トレイの変更
冷蔵庫内のインスリンの予備アンプルが一目で認識できるよう、インスリンを格納するトレイを透明のものに変更した。

(オ) 薬品保冷庫の施錠
病棟には、薬剤科から払出された薬剤等を保管する薬品保冷庫がある。病棟13の夜間帯は勤務職員が少ないことから、薬品保冷庫の夜間帯の管理を強化する必要があるため、夜間帯について、薬品保冷庫の施錠を徹底することにした。

ウ 廃棄までの管理

(ア) 病棟から薬剤科に返却したバイアル製剤の記録
施用中止や開封後期限切れ薬品の廃棄は適宜病棟で行っていたため、払出後のインスリンの廃棄状況が確認できなかった。このことを踏まえ、各病棟から空バイアル、残薬(開封後1か月を経過する残薬を含む)を薬剤科に返却し、薬剤科で廃棄することにした。病棟ごとに、薬剤科に返却したバイアル製剤数をインスリン管理簿に記録し、看護師及び薬剤師がサインすることにした。

(イ) 廃棄の記録
薬剤科では、インスリン廃棄にあたり、返却されたバイアルを開封し、看護師と薬剤師で残液放流を確認後、MDボックス内に廃棄することにした。また、対応した薬剤師は、薬剤科管理簿の払出記録の備考欄に、日付、担当者及び残液廃棄について記録することにした。

(2) 警備の強化について
外部侵入者の可能性も完全に否定できないため、次の取組により、病院内の警備体制を強化した。
これまで1日6回行っていた病院内巡回警備を夜間帯に2回追加し、1日8回巡回警備を行うことにした。
また、監視カメラや出入口の施錠箇所を増設するとともに、管理看護長の巡回対を増やした。

(3) 医療事故予防マニュアルの改定について
インスリン管理方法の見直しに伴う手順の徹底のため、医療事故予防マニュアルの「病棟等の薬剤保管について」に掲げるハイリスク薬剤のうち、インスリンについては管理手順を追加した。

都立神経病院 医療事故予防マニュアル8-(1) 病棟等の薬剤保管について
(追加)インスリン管理について
①インスリン製剤は、管理簿、チェックリストで記録管理する
②インスリンバイアル製剤の空バイアル、残薬は薬剤科に返却する
③病棟保冷庫内のインスリン専用トレイに保管し、夜間帯に限り施錠する

(4)委員会における評価

今回、神経病院で行われた再発防止策は、インスリンの払出から廃棄までの管理方法の見直し、病院の警備強化、医療事故予防マニュアルの改定など、考えうる対策は網羅的に実施されており、事案に対する再発防止策としては適切といえる。
また、事案発生から3年が経過した現在においても、これらの取組は、高い水準で維持されている。
全体としては、過去にインスリン多量投与の事案が発生した他病院の再発防止の取組と比較してもほぼ同様の取組を実施しており、十分な対応であるといえる。
特に、インスリン管理については、事案発生時点においても法令で求められる保管管理は実施されており問題はないものと考えるが、本事案を踏まえて、薬剤科及び病棟におけるインスリン管理の徹底強化を行ったことや、廃棄を薬剤科に一元化したことなど、厚生労働省が示したガイドラインである「『医薬品の安全使用のための業務手順書』作成マニュアル」に記載されているレベルまでの改善を行っており、評価できる取組といえる。また、医療事故予防マニュアルを改定し、この取組を病院全体の取組として共通のものとしたことは評価できる。」


検証委員には、名古屋大学医学部附属病院医療の質・安全管理部教授長尾能雅氏が加わっています.
検証に外部委員が加わることは、客観性公平性を担保するために必要なことです.

谷直樹

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by medical-law | 2014-12-30 23:52 | 医療事故・医療裁判