弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大阪高裁平成27年1月22日逆転判決,熱中症を認定し兵庫県に約2億3700万円の賠償を命じる(報道)

2007年5月24日に兵庫県立龍野高校の女子テニス部キャプテンが練習中に倒れ心停止となり低酸素脳症による重度の意識障害が残った事案で,一審の神戸地裁がウイルス性の心筋炎の可能性をあげ請求棄却としたのに対し,大阪高裁(森宏司裁判長)は,熱中症と認定し,さらに,顧問の教諭の義務違反を認め,兵庫県に約2億3700万円の賠償を命じたとのことです.

朝日新聞「部活中に熱中症で障害、県に過失 2.4億円賠償命令」(2015年1月22日)は,次のとおり報じました.

「事故時について森裁判長は「コートは30度前後で、地表はさらに10度前後高かった」「当時は定期試験の最終日で、女性は十分な睡眠がとれていなかった」と指摘。ウイルス性の心筋炎の可能性を踏まえた一審判決の認定を変え、女性は熱中症だったと認めた。

 正午から約30分間練習に立ち会い、出張でコートを離れた顧問の教諭について「キャプテンだった女性が指示された練習メニューをこなそうとすることは想定できた」と判断。軽度な練習にとどめるなどし、危険が生じないように配慮するべきだったとした。そのうえで将来の介護費用として約1億円、逸失利益として約6千万円などとする賠償額を算定した。」


毎日新聞「部活事故:高2女子に重い障害 兵庫県に逆転賠償命令」(2015年1月22日)は,次のとおり報じました.

「森裁判長は、顧問が出張のために練習に立ち会わない代わりに、練習内容を主将だった女性に指示していたことについて「熱中症に陥らないよう指導すべきだった」と指摘。安全配慮義務違反があったと認定した。

 判決によると、女性は2007年5月24日正午ごろ、学校近くの市営テニスコートで他の部員と練習を始めた。約3時間後、熱中症で倒れて一時心肺停止となり、低酸素脳症による意識障害に陥った。今も手足を動かすことや話すことができず、寝たきりの状態で生活している。

 判決は、当日の状況について(1)普段は夕方に部活動をしていたのに、日差しの強い日中に練習をした(2)定期試験の最終日に当たり、練習は10日ぶりで、部員は睡眠不足の可能性があった(3)女性にとって顧問が不在時に練習を仕切るのは初めてだった−−と大きな負担がかかる状況だったと指摘した。

 更に、顧問が指示した練習メニューは密度が濃く、これまでの練習ぶりから女性が率先してこなすことが予想できたと判断。「練習の様子を直接監督できない以上、部員の健康状態に配慮すべきだった」と述べ、練習を軽くしたり、水分補給の時間を設けたりし、熱中症になるのをあらかじめ防ぐべきだったと結論付けた。賠償額のうち将来の介護費用を約1億円と算定した。」


産経新聞「学校は安全な場所であってほしい」事故から8年…逆転勝訴に父訴え 部活熱中症裁判」(2015年1月22日)は,次のとおり報じました.

 「「おめでとう」。法廷を出た両親は車いすに近づき、会話できない娘の手を握りしめた。約8年前に高校の部活中に熱中症で倒れ、重度の障害が残った女性(24)と両親が兵庫県に損害賠償を求めた訴訟。22日の逆転勝訴判決後に会見した父親(52)は「学校は安全な場所であってほしい。二度と同じような事故を起こさないでほしいと願って娘と生きていきたい」と話した。

 平成19年5月24日、中間テストの最終日だった。午前2時過ぎまで勉強していた女性は寝不足のまま登校した。

 責任感の強い努力家。所属する硬式テニス部では部員の信頼が厚く、顧問直々に主将を任された。その日も顧問が考えた練習メニューをもとに、休憩を挟まず他の部員と練習を続けた。気温は25度を超えていた。

 倒れたのは、大阪高裁判決が「負荷は相当重い」とした練習メニューの終盤。部員の先頭を切ってランニング中に突然意識を失った。以降、女性は手足が動かず、言葉を発することもできなくなった。

 21年5月以降は在宅介護となり、夜は2時間おきに両親が交代で起床し、床ずれを起こさないよう女性の体勢を入れ替える。食事はチューブで胃に栄養を送っているが、リハビリの成果でようやくヨーグルトが食べられるまでになった。

学校側は事故後、原因を調査せず、謝罪もしていない。女性と両親は22年4月に提訴したが、1審の法廷では当時の校長が「調査が再発防止になるとは思わない。道義的責任で謝罪しても法的責任にすり替えられる」と証言したという。

 独立行政法人日本スポーツ振興センターによると、中学・高校生の熱中症は25年度までの3年間で約1万3400件発生。被害者による訴訟は全国で相次ぐが、原告側によると、高校生の部活は「生徒の自主的な判断で休めばいい」と判断される傾向があるという。

 原告代理人の渡部吉泰弁護士は「判決は女性の真面目な性格や体調までをも考慮して学校現場に対応を求めており、かなり踏み込んだ判断だ」と評価した。」


神戸地裁の裁判官は,他原因(ウイルス性の心筋炎)の可能性を完全に排斥できないことから熱中症による心停止という患者側主張の機序が認定できないと判断したのでしょうが,他原因の可能性を厳密に排除するところまで患者側に求めると,ほとんどの場合患者側の敗訴となってしまいます.裁判所には,証拠から合理的な事実認定を行うことが求められています.
顧問の教諭の義務違反についても,どこまで求められるのか,が問題になります.
同じ事実を前にしても,裁判官により判断が分かれることがありますが,本件は,大阪高裁の判決のほうが適切な方法で事実と義務違反を認定し,社会通念に合致した結論を導いたものと考えます.

医療事件でも,心停止の事案では低酸素脳症から遷延性意識障害となる例があり,性別・年齢によっても異なりますが,本件の賠償金額は参考となると思います.

谷直樹


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by medical-law | 2015-01-23 03:08 | 司法