弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

横浜地裁平成27年2月17日判決,健診通知遅れと死亡との相当程度の因果関係を認め330万円賠償(報道)

横浜地裁平成27年2月17日判決,健診通知遅れと死亡との相当程度の因果関係を認め330万円賠償(報道)

産経新聞「健診通知遅れ、精神的苦痛 死亡女性遺族に賠償認める」(2015年年2月17日)は,次のとおり報じました.

「神奈川県鎌倉市の老人ホームに勤務していた女性が平成22年5月に肺がんで死亡したのは健康診断の結果が速やかに通知されず、がんが進行したことが原因として、同市の遺族がホームを運営する一般財団法人「友愛会」に計約5千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、横浜地裁は17日、精神的苦痛に対する慰謝料など計約330万円の支払いを命じた。

 田中寿生裁判長は、女性は健診3カ月後に結果を知ったと認め、「治療開始時期を遅らせ、死亡時点でなお生存していた相当程度の可能性を失わせた」と判断。通知遅れと死亡との因果関係は認めなかった。

 判決によると、女性は非常勤職員として調理場の業務を担当していた20年2月に健診を受け、右肺に3センチの腫瘍が見つかった。同6月、別の病院の精密検査で4・3センチに拡大。さらに別の病院の医師は、この間にがんが進行したため手術ができないとして、抗がん剤などの治療を選んだ。女性は60歳で死亡した。」


原発性肺がんのおおよそ5分の4は非小細胞肺癌です.非小細胞肺癌のⅠ期,Ⅱ期は手術適応になります.Ⅲ期は,一部が適応となります。腫瘍の最大径が2cmを超えて3cm以下はT1b,腫瘍の最大径が3cmを超えて5cm以下はT2aです.
Ⅲ期で手術を受けないで抗がん剤と放射線治療のみの場合の5年生存率は(統計により異なりますが)約20%で,Ⅲ期で手術を受けた場合の5年生存率は(統計により異なりますが)約40%です.裁判所は,生存率の差(20%)に注目して相当程度の可能性と認定したのかもしれませんが,比率にすれば通知遅れによって生存率はおおよそ半分に激減していますので,患者は現実には平成20年2月から平成22年5月まで2年3か月生存したことを考えると,5年生存率が半減しなければ平成22年5月を超えて生きられた高度の蓋然性があったと認定できるかもしれません.
医事訴訟における不作為の因果関係における「相当程度の可能性」と「高度の蓋然性」の認定は微妙です.
また,5年生存率減少に伴う精神的苦痛だけでも,400万円から500万円の慰謝料が認められてしかるべきではないでしょうか(当職が患者側を担当した東京地裁平成18年4月26日判決ご参照).
新聞報道では事案がよくわかりませんので,断定的なことは言えませんが...


  谷直樹

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by medical-law | 2015-02-18 02:34 | 医療事故・医療裁判