弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

訃報、滝井繁男元最高裁判所判事

滝井繁男元最高裁判所判事が急性肺血栓塞栓症のため大阪市北区の病院で2015年2月28日に78歳で死去と報じられています.

最高裁第二小法廷平成15年7月18日判決の反対意見が秀逸でした.

東京海上火災保険株式会社(当時)の女性社員(当時33歳)が、系列の診療所で実施した職場の健康診断で胸部レントゲン検査を昭和60年から62年まで連続3回受け、何れも異常なしとされました.その後、その女性社員は、大学病院を受診したところステージⅢaの肺腺癌と診断され、昭和62年11月に肺癌で死亡しました.遺族は、同社、系列の診療所、担当医師に、肺癌の見落としを理由とする損害賠償訴訟を提訴しました.

東京地裁平成7年11月30日判決は、過失を認めましたが、損害賠償は認めませんでした.
東京高裁平成10年2月26日判決は、過失も否定し損害賠償を認めませんでした.
最高裁第二小法廷平成15年7月18日判決は上告棄却でしたが、滝井繁男裁判官の反対意見が付されました.

「裁判官滝井繁男の反対意見は、次のとおりである。
原判決は、医師の注意義務の基準となるべきものは、当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であって、定期健康診断におけるレントゲン読影医の注意義務の水準としては、これを行う一般臨床医の医療水準をもって判断せざるを得ないとした上、本件レントゲン写真が定期健康診断において撮影された他の数百枚のレントゲン写真と同一機会に、当該被験者に関する何らの予備知識も無く読影された場合には、当時の一般臨床医の医療水準を前提にすれば異常を発見できない可能性の方が高いことが認められるとして、被上告人小山にレントゲン写真読影上の過失はないとした。

しかしながら、ある医療機関における医療水準は、それぞれの医療機関の性格や所在地域の医療環境等諸般の事情を考慮し、個別相対的に決せられるべきものであって、個々の医療機関の特性を無視して一律に決せられるべきものではない(最高裁判所平成4年(オ)第200号同7年6月9日第二小法廷判決・民集49巻6号1499頁)。

また、医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が上記医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない(最高裁判所平成4年(オ)第251号同8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁)。

定期健康診断は、その目的が多数の者を対象にして異常の有無を確認するために行われるものであり、レントゲン写真の読影が大量のものを短期間に行われるものであるとしても、そのことによって医師に求められる注意義務の判断基準についての考え方が上記と異なるものではなく、当該医療機関が置かれている具体的な検査環境を前提として、合理的に期待される医療水準はどのようなものであるべきかという観点から決せられるべきものであって、平均的に行われているものによって一律に決せられるべきものではない。

現実に行われている定期健康診断の内容も、用いられている設備や携わる医師等の知識経験は一様ではなく、それぞれの医療機関に期待されているものも自ずと異なるのであって、受診者もそのような事情、すなわち給付の内容を前提として検査機関を選択し、その検査結果に信頼をおいているのである。

したがって、定期健康診断における過失の有無も、一般的に臨床医間でどのように行われていたかではなく、当該医療機関において合理的に期待される医療水準に照らし、現実に行われた医療行為がそれに即したものであったかどうか、本件では、昭和61年に被上告会社東京本店において行われていた定期健康診断におけるレントゲン検診が、どのような設備の下で撮影されたレントゲンフィルムを、どのような研修を受け、経験を有する医師によって、どのような体制の下で読影すべきものと合理的に期待されていたか、そして、実際に行われた検査がそれに即したものであったか否かを確定した上で判断されなければならないのである。

しかるに、原判決は、被上告会社の胸部レントゲン写真がオデルカ100mmミラ―方式による間接撮影で、医師2名による同時読影が行われていたことを認定したのみで、当時の一般臨床医の医療水準なるものを指定し、それによってレントゲンの読影についての過失の有無を判断すべきものとし、そのことによって注意義務の内容が異なるものではないというのである。

しかしながら、被上告会社が実施していた健康診断が、定期健康診断におけるレントゲン読影の重要性を考えて、呼吸器の専門医など豊富な経験を有する医師を常駐させて読影に当たらせることとし、被上告会社がそのことを標榜していたとすれば、そのような読影条件を抜きにして当該医師の過失の有無を判断することはできないはずである。
なぜならば、注意義務として医師に求められる規範としての医療水準は、それぞれの医療機関の給付能力への合理的期待によって定まるのであって、一般的に定められるべきものではなく、このことは、定期健康診断においても基本的に異なるものではないからである。


したがって、原審としては、被上告会社における健康診断が、どのような水準のものとして実施することを予定されていたかを確定し、その水準をみたすものであったかどうかを審理判断すべきであったのに、一般臨床医の医療水準に照らして過失の有無を判断したのは、審理不尽の結果、法令の適用を誤ったものといわざるを得ず、この点を指摘する論旨は理由があるというべきである。そうすると、上記の点について、更に審理させるため、原判決を破棄して原審に差し戻すのが相当である。」


大量のレントゲン写真を短時間で見る健康診断の特性から(短絡的に)医療水準を低く認定した控訴審判決に対し、先行する最高裁判決を踏まえて、当該医療機関において合理的に期待される医療水準に照らし、現実に行われた医療行為がそれに即したものであったかどうかの観点から個別に認定すべきという反対意見は秀逸でした.

心よりお悔やみ申し上げます.


谷直樹


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by medical-law | 2015-03-04 02:13 | 医療事故・医療裁判