弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

群馬大学医学部附属病院の医療過誤被害対策弁護団,病院の調査は不十分と指摘(報道)

共同通信「群大手術、悪質医療過誤で告訴も 遺族弁護団」(2015年3月6日)は,次のとおり報じました.

「群馬大病院で腹腔鏡手術を受けた患者8人が死亡した問題で、うち2遺族の依頼を受けた被害対策弁護団が6日、前橋市内で記者会見し「医師の刑事、行政処分も考慮すべき重大かつ悪質な医療過誤で、病院の最終報告は不十分」と不満を表明した。遺族と弁護団は告訴や告発を今後検討するとしている。時期などは現時点では未定という。

 弁護団によると、依頼したのは80代の男性患者と70代の女性患者の遺族。執刀医は手術前、女性患者と家族に「すごく簡単な手術だから大丈夫」と説明、同意書には「腹腔鏡手術」という記載はなかった。女性は術後約1カ月で死亡した。」


上記記事には,安東宏三先生,梶浦明裕先生,川見未華先生らの会見の模様の動画,写真も載っています.

共同通信「【群馬大病院】 「手技は稚拙」と専門医 弁護団報告、体制も問題視」(2015年3月7日)は,次のとおり報じました.

「群馬大病院で 腹腔 (ふくくう) 鏡手術を受けた患者8人が死亡した問題で、遺族側の弁護団は6日に「中間報告」を公表し、事前検査の不備など執刀医の対応を問題視したほか、刑事告訴を検討する可能性も示した。独自調査で話を聞いた専門医が「執刀医の手技は稚拙」とした意見も紹介。2人目以降の死亡例は「執刀医の報告の欠落と病院の体制の問題による過誤」とした。

 3日公表の病院側の最終報告は「手術適応や術式決定に際し、術前評価が不十分と判断される」とし、日々の診療録の記載が乏しく、執刀医の思考過程に不明な点が多いとした。

 弁護団は中間報告で、事前検査を実施せず手術に及んだことは極めて異常と指摘。「『思考過程が不明』とは、手術適応、検査や治療方針決定の判断をせずに手術を行ったということで、違法性が極めて高いと言わざるを得ない」とした。

 また執刀医の技量に関しては専門医の評価を引用。「手技はかなり稚拙」「術野も出血で汚染されており、血の海の中で手術をしているような状態」との声を中間報告に盛り込んだ。

 なぜ同じ執刀医の腹腔鏡手術で8人もの死者が出たのか―。病院側の組織的対応のありようも今回の問題の大きな焦点になっている。

 弁護団は「1例目で報告されていれば、ほか7例の死亡が回避できた可能性があるが、この点に十分言及していない」と病院側の最終報告を批判。「主治医の報告の欠落と(上司である)診療科長の看過の問題による過誤で死亡したのであり、2人の独自の過失が認められる」と指摘した。

 病院側によると、執刀医の所属する第2外科は、難易度の高い腹腔鏡手術を2010年に導入後、1年未満に患者4人が死亡していた。弁護団の中間報告で専門医は「通常の大学病院では、予期せぬ死亡があった場合、医療安全委員会が開かれ検討する。同じことが起きないようにルールを作る」「1年間で4人も死亡したら手術停止となる」とし、病院側の姿勢を批判している。

 弁護団は、病院側にさらなる調査を求める考えで、団長を務める 安東宏三 (あんどう・こうぞう) 弁護士は「死亡症例が続いたことの解明が不十分。これで腹腔鏡手術に関する調査を終えるのであれば拙速だ」と指摘。一方、この執刀医による開腹手術では、過去5年間に10人が死亡したことも判明しており「総合的に検討して結論を出すべきだ」と述べた。」


読売新聞「群大病院調査「不十分」…弁護団、刑事告訴検討」(2015年3月7日)は,次のとおり報じました.

「遺族側の弁護団は、医療事故の被害者救済などを行う医療問題弁護団の弁護士8人が2月初旬に結成。これまで、腹腔(ふくくう)鏡(きょう)手術、開腹手術を受けて死亡した患者の遺族から相談を受けてきた。このうち正式依頼を受けた2人について、腹腔鏡手術に詳しい東京都内の大学病院消化器外科専門医の協力を得て独自に調査してきた。

 その結果、弁護団は、病院側がまとめた腹腔鏡手術に関する調査報告書に対し、〈1〉執刀医と教授に対する病院の聴取が不十分〈2〉報告書とカルテの記載内容に食い違いが複数あり、調査全体の信用性に疑問――などの問題を挙げた。」


m3.com「調査不十分、悪質な医療過誤」群大被害者弁護団」によれば,弁護団が指摘する群大病院の最終報告書の問題点は,次のとおりです.

1 執刀医、第2外科部長の科長からの説明・聴取が不十分
執刀医、診療科長から遺族に対する説明がないまま調査を終結することは問題である。

2 遺族からの聴取が不十分
遺族への聴取は一定程度されているが、不十分である。

3 カルテ記載欠落・虚偽記載は「刑事罰に値し得る」程度のもの
開腹術で死亡した患者の保険書類に虚偽の病名を書いたことは、虚偽有印公文書作成罪に該当する極めて悪質な行為。国公立病院の医師が作成するものは公文書であるとされ、過去には都立病院の病院長が担当医師と共謀して、医療事故により死亡した患者の死亡診断書および死亡証明書の作成の際、死因を病死としたことについて、虚偽有印公文書作成罪が成立したこともある。鑑定を依頼した専門医は「ご遺族に癌と伝えないことはあり得ないし、虚偽記載は相当悪質だ。誤診を隠したかったとしか考えられない。それ以外に動機が見当たらない」と指摘している。

4 術前評価の前例欠落は「重大な過誤の連続」であるのに解明不十分
専門医は「容量計算、IGC15分停滞率検査をせずに手術適応や術式選択をすることは不可能であり、あり得ないことである。医師100人に聞けば100人がしないことはあり得ないと答えるであろう。肝臓を専門としない外科の医師でもしている余りに基本的な事項である」と指摘している。

5 インフォームドコンセント欠落(同意なき違法な侵襲行為)の評価が不十分
遺族によると、執刀医の説明は「今手術をしないと死んでしまうよ、という説明だった。難しい手術という説明はなく、慣れているという印象を持った」「すごく簡単な手術だから大丈夫。体力的に今が限界とも言われた」というものだった。

6 手術手技は執刀医・助手ともに「稚拙」「技量が悪い」がその点の評価が不十分
専門医は「(本件執刀医の)手技はかなり稚拙である。鉗子のハンドリングもよくなく、剥離操作、止血操作にしても全部悪い。相当下手。術野も出血で汚染されており、血の海の中で手術をしているような状態。腹腔鏡の技量についてはかなり悪いと言える。無用に肝臓に火傷をさせるなど、愛護的操作がない。助手のカメラ操作も下手」と指摘している。

7 診療体制の問題も著しく、「2例目以降の7例は回避できた死亡」であるが解明が不十分
専門医は「通常の大学病院では、予期せぬ死亡があった場合、医療安全委員会が開かれて検討する。通常は1例で何か事件が起きれば、反省して改善案を検討していく。次に同じことが起きないようにルールを作る。診療科長が何らかの処置をとるのが通常である。診療科長がしっかりマネジメントできていなかったと言わざるを得ない。1年間で4人も腹腔鏡下で死亡したのであれば、通常の大学病院ではそれ自体で手術停止となる。腹腔鏡下で1例死亡したのであれば、腹腔鏡下での術式を中止することも考えられる。1例目が出た段階で検討していれば、ICGを実施していない点について相当叱責された上で改善策が取られたであろう」と指摘している。

8 開腹手術の問題
開腹手術事案の調査報告を待たずに本腹腔鏡事案を切り離して最終報告、最終合意することはできない。」


m3.com「調査不十分、悪質な医療過誤」群大被害者弁護団」によれば,弁護団が公表した遺族のコメント (全文)は,次のとおりです.

「群大だということで先生を信じていた。(医療のことは)難しいことで分からないが先生を信頼して命を預けた。母自身も死ぬまで信じていた。今回のような思いはしたくなかった」
「担当医(執刀医)の言葉があまりになさ過ぎる。謝りに来たこともないし、こういう言葉を発していたということすら、(間接的にも)届かない(決まった担当者が事務的な連絡のために来ただけ)」
「世の中の一番の信仰は医学ではないか。初めて会った人に命を預けるのだから。しかも群大ということで先生もそろっていると考えられているから先生の言うことは否定できない。生死を左右する医療の仕事に携わっていると普通の人よりも死への感情は薄れる部分はあるかもしれないが、患者が命を預けるということと生死を左右する職業であるという意識を持ってしっかりやってもらいたい。執刀医に直接会ってこのことを伝えたい」
「執刀医も問題だが、教授(診療科長)がより問題ではないか」
「(保険請求の問題や診断書の嘘の記載のことを踏まえると)実験台にされたのではないかとも思う」
「同じこと、この家族の悲しみを繰り返したくない。自分たちで最後に。他の人にこういうことが起きないように。今後同じような犠牲者が出ないようにしてほしい」


m3.com「調査不十分、悪質な医療過誤」群大被害者弁護団」は,会見内容を,次のとおり伝えています.
 
「弁護団は真相究明や再発防止に対する群大病院の姿勢については、「遺族も弁護団も評価している」と説明。安東氏は今年10月から開始が予定される医療事故調査制度に関連し、「(厚生労働省の検討会では)事故調査の結果公表は不要、報告書作成不要、遺族に渡すことは控えるべきという意見が一部の委員から出ている。そういう状況と対比すると、調査し、公表し、遺族に伝えた群大病院の姿勢は評価できる。そうしたことがなければ、遺族は現状程度の納得もなかったはず」と指摘した。

 ただ、調査状況を公開する姿勢は評しつつ、「調査・解明が不十分なまま『最終』報告とすることについては、遺族と早期に示談を成立させることで、特定機能病院の承認取消回避、医師個人に対する刑事罰あるいは行政処分を回避する目的のために早期収拾を図ろうとしているとの疑いを抱かざるを得ない」と述べた。

 遺族に提供されたカルテの記載と最終報告書の内容が違う点などもあることなどから、群大病院に対してさらなる調査を求める一方、弁護団として執刀医、診療科長に聞き取りを求めている。弁護団の調査報告の結論は、聞き取りが済んでから出す予定で、医療的鑑定についても他の専門家に協力を求めていくとしている。」

 
 医療過誤は,過失,損害,因果関係の3要件を充たすものをいいます.
 過失は,具体的な予見可能性と具体的な回避義務が認められるものです.
 医療裁判では,単に「下手であること」は,過失にはなりません.
 そこで,外科手術についても細分化された特定の後行為について,具体的な予見可能性と具体的な回避義務が検討されることになります.

 本件で,第三者の医師は,「(本件執刀医の)手技はかなり稚拙である。鉗子のハンドリングもよくなく、剥離操作、止血操作にしても全部悪い。相当下手。術野も出血で汚染されており、血の海の中で手術をしているような状態。腹腔鏡の技量についてはかなり悪いと言える。無用に肝臓に火傷をさせるなど、愛護的操作がない。助手のカメラ操作も下手」と指摘しています.
 つまり,医師の臨床感覚からは,手術のどこに過失があるかというなら,全部としか言いようがない事案ということになります.

 下手というだけでは医療過誤にはなりませんが,法律家とくに裁判官は,相当下手な外科医の手術で連続して事故が起きているとき,一つ一つの手術のどこが問題というより,相当に下手な外科医が手術を行っていること自体が問題である,という視点から具体的な事案をみることが大切と思います.法律的な医療過誤という枠組みにのせて検討する以前の,とんでもない手術が行われた事案なのですから.

 弁護団長の安東先生は,相当に下手で事故が連続した東京医大事件を担当した弁護士ですので,適任と思います.
 弁護団の活動に期待します.

 谷直樹

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れも東京の医療問題弁護団の弁護士です.」

by medical-law | 2015-03-07 17:49 | 医療事故・医療裁判