弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

山形市,救急車を出動させなかった事案について1500万円で裁判上の和解(報道)

朝日新聞「「救急車来ず、息子死亡」 山形市、母と和解 研修も」(2015年3月30日)は,次のとおり報じました.

「山形市で山形大学2年の大久保祐映(ゆうは)さん(当時19)が死亡したのは、119番通報をしたのに救急車が出動しなかったためだとして、母親が市に約1億円の損害賠償を求めた訴訟は30日、山形地裁で和解が成立した。市が原告に和解金1500万円を支払うことや、市がこの件を教訓として救急救命体制を整備していくことで合意した。また、職員研修のカリキュラムにこの件を取り入れることも盛り込まれた。

 母親は和解について、「祐映と同じような目に遭う人が二度と現れないよう強く願うばかりです」などとコメントを寄せた。

 訴状などによると、大久保さんは2011年10月、一人暮らしの自宅アパートから「体調が悪い」と119番通報し、救急車を要請した。だが、山形市消防本部は近くの病院にタクシーで行くよう促し、救急車を出動させなかった。大久保さんはその9日後、自室で遺体で発見された。」


NHK「119番通報の学生死亡 遺族と市が和解」(2015年3月30日)は,次のとおり報じました.

「山形地方裁判所は去年12月に和解を勧告し、30日、大久保さんの母親と山形市の市川昭男市長が出席して3回目の協議が行われました。
双方の弁護士によりますと、この中で、山形市が裁判所が示した案に従い、1500万円の解決金を支払うことやこの事例を消防職員の研修に取り入れ、教訓として生かすことなどを条件に和解が成立したということです。
大久保さんの母親は「『和解』は終わりではなく、これからも山形の救急体制が改善されていくかを見つめ続けます。同じような目に遭う人が二度と現れないよう強く願います」というコメントを出しました。」
「和解成立を受けて、原告側の藤木孝男弁護士は記者会見で「若い命が失われることが二度と起きないよう救急搬送体制を改善し、山形市から全国の消防本部に教訓として伝えてほしい」と述べました。
藤木弁護士によりますと、遺族は亡くなった祐映さんの写真を持って協議に臨み、冒頭、山形市の市川昭男市長が「今回のことを教訓として重く受け止めて改善策をきちんと実行したい」と述べたのに対して、母親はうなづいていたということです。
山形市の市川市長は記者会見で「すべての市民が不安を抱くことがないよう救急医療体制の整備や、消防職員の技術の向上に努めたい」と述べました。」


河北新報「<山大生死亡訴訟>遺族と市の和解が成立」(2015年3月31日)は,次のとおり報じました.

「ただ市長らの会見に関しては、内容をテレビで見たという原告弁護団長の藤木孝男弁護士が「何を教訓にし何をするのか見えない。あまりにも情けない会見だった」と、異例の追加コメントを発表した。市の態度は、原告側には最後まで誠実でないと映った。」


報道で知る範囲からですが,救急車不出動の判断が不適切であることは立証でき,ただ出動していれば救命できたという高度の蓋然性までは立証されていない事案(相当程度の可能性までは立証できている事案)で,裁判所が1500万円の和解勧告を行い,裁判上の和解が成立した例と思います.

軽症例でも常に救急車を出動させなければ違法というわけではありませんが,救急車出動・不出動の判断が不適切な場合,責任追及の余地があることが示されたとみてよいでしょう.なお,もし救急車搬送体制が整備されていないために出動判断が慎重になったとすれば,救急車搬送体制整備を怠った行政の責任が考えられるでしょう.

9日後に自室で遺体で発見された事案なので,救急車不出動と死亡との間の因果関係は推測になりますので,裁判所は相当程度の可能性にとどまると判断したと思います.相当程度の可能性でも1500万円で和解勧告がなされ和解が成立した事案とみるべきでしょう.


 谷直樹

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by medical-law | 2015-03-31 06:50