弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

最高裁平成27年4月9日判決,民法714条1項の監督義務者としての責任が否定された例(報道)

私が担当した事件ではありませんが,民法の過失責任の原則上重要な最高裁判決がだされましたので,ご紹介いたします.

自動二輪車を運転して小学校の校庭横の道路を進行していたB(当時85歳)が,その校庭から転がり出てきたサッカーボールを避けようとして転倒して負傷し,その後死亡したことにつき,同人の権利義務を承継した被上告人らが,上記サッカーボールを蹴ったC(当時11歳)の父母である上告人らに対し,民法709条又は714条1項に基づく損害賠償を請求する事案で,上告人らがCに対する監督義務を怠らなかったと認定されました.親の民法709条の責任も否定されました.

少年Cの過失を認め,1審では約1500万円,2審では約1100万円の賠償を支払うよう両親に命じましたが,上記最高裁判決は,それを覆しました.

上記最高裁判決の抜粋は以下のとおりです.

「本件小学校は,放課後,児童らに対して校庭(以下「本件校庭」という。)を開放していた。本件校庭の南端近くには,ゴールネットが張られたサッカーゴール(以下「本件ゴール」という。)が設置されていた。本件ゴールの後方約10mの場所には門扉の高さ約1.3mの門(以下「南門」という。)があり,その左右には本件校庭の南端に沿って高さ約1.2mのネットフェンスが設置されていた。また,本件校庭の南側には幅約1.8mの側溝を隔てて道路(以下「本件道路」という。)があり,南門と本件道路との間には橋が架けられていた。本件小学校の周辺には田畑も存在し,本件道路の交通量は少なかった。」

「前記事実関係によれば,満11歳の男子児童であるCが本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ったことは,ボールが本件道路に転がり出る可能性があり,本件道路を通行する第三者との関係では危険性を有する行為であったということができるものではあるが,Cは,友人らと共に,放課後,児童らのために開放されていた本件校庭において,使用可能な状態で設置されていた本件ゴールに向けてフリーキックの練習をしていたのであり,このようなCの行為自体は,本件ゴールの後方に本件道路があることを考慮に入れても,本件校庭の日常的な使用方法として通常の行為である。また,本件ゴールにはゴールネットが張られ,その後方約10mの場所には本件校庭の南端に沿って南門及びネットフェンスが設置され,これらと本件道路との間には幅約1.8mの側溝があったのであり,本件ゴールに向けてボールを蹴ったとしても,ボールが本件道路上に出ることが常態であったものとはみられない。本件事故は,Cが本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ったところ,ボールが南門の門扉の上を越えて南門の前に架けられた橋の上を転がり,本件道路上に出たことにより,折から同所を進行していたBがこれを避けようとして生じたものであって,Cが,殊更に本件道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もうかがわれない。
責任能力のない未成年者の親権者は,その直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが,本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,上記各事実に照らすと,通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。また,親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。
Cの父母である上告人らは,危険な行為に及ばないよう日頃からCに通常のしつけをしていたというのであり,Cの本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれない。そうすると,本件の事実関係に照らせば,上告人らは,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。」


民法714条1項の監督義務者としての責任については,被害者救済の観点から,容易に免責を認めないものと解釈されてきました.1審,2審は,その流れを踏襲し,監督義務者(親)の責任を肯定しました.
しかし,この具体的事案で,監督義務者(親)が何を怠ったかといえるのか,疑問です.1審,2審は,具体的妥当性を見失って従前の判例の流れにしたがったように思います.
最高裁の結論は,適切と思います.

なお,少年の行為に過失があることは争いになっていません.
上記最高裁判決も「満11歳の男子児童であるCが本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ったことは,ボールが本件道路に転がり出る可能性があり,本件道路を通行する第三者との関係では危険性を有する行為であった」と認定しています
.しかし,少年の過失責任を問うより,学校の責任を問題にするほうが適切な事案と言えるかもしれません.
「本件ゴールに向けてボールを蹴ったとしても,ボールが本件道路上に出ることが常態であったものとはみられない」としても,ゴール,道路の位置関係からすると,そのようなことは時々あったのでははないでしょうか.
「本件ゴールにはゴールネットが張られ,その後方約10mの場所には本件校庭の南端に沿って南門及びネットフェンスが設置され,これらと本件道路との間には幅約1.8mの側溝があった」と認定されていますが,ネットフェンスは低く(約1.2m),ボールが道路に飛び出すことを阻止するには十分とは言い難いように思います.
札幌地裁平成27年4月26日判決は,札幌ドームでファウルボールが右目に当たり失明した女性への賠償を認めましたが,それを認めるなら,この件はそれ以上にゴールの設置位置,ネットフェンスの低さから学校の責任が認められるべき事案と言えるかもしれません.
少なくとも,事故の再発防止,同種の事故の防止という観点からは,少年の過失を問うより,事故が起きうるようなゴール,フェンスの設置の責任を学校に認めたほうが,適切と言えるのではないかと思います.

ともあれ,上記最高裁判決によって,今後,高齢の認知症患者がおこした事故について家族が監督義務者としての責任を負わされる場合も制限的に解釈されることになるでしょう.


谷直樹


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by medical-law | 2015-04-10 00:50 | 司法