弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

「医薬品の安全性と法-薬事法学のすすめ」

著者からいただいた本で,最近読み終えました.
「医事法学」については研究,刊行物も多いのですが,その一分野を構成する「薬事法学」について書かれたものは少ないように思います.本書の執筆者は,薬害オンブズパースン会議のメンバーで,体系的かつ実践的に書かれた意欲的な1冊です.

目次と執筆者は次のとおりです.
序章   薬事法学の基本原理(鈴木利廣先生)
 第1章  医薬品の安全性確保の歴史(後藤真紀子先生)
 第2章  医薬品の開発から市販後まで(関口正人先生)
 第3章  基本的考え方─医薬品監視の4原則(水口真寿美先生)
 第4章  企業のマーケティング戦略と監視(後藤真紀子先生)
 第5章  臨床研究の法と倫理─被験者保護と医薬品評価(水口真寿美先生)
 第6章  承認審査(八重ゆかり先生)
 第7章  市販後安全対策(水口真寿美先生)
 第8章  情報公開(関口正人先生)
 第9章  医薬品の開発と未承認薬(寺岡章雄先生)
 第10章 一般用医薬品(中川素充先生)
 第11章 医薬品被害の救済(鈴木利廣先生)

鈴木利廣先生は,薬事法学の7つの基本原理をあげています.
1 医薬品の評価基準原則としての予防原則と科学的根拠原則
2 リスク最小原則
3 利益相反規制原則
4 医薬品情報の公益性・公共性原則とアクセス権保障原則
5 医薬分業原則
6 ステークホルダー(関係者)の公共的責務原則
7 安定供給原則

予防原則に基づく安全対策については,本書で詳しく述べられています.

鈴木利廣氏はあげていませんが,「内外無差別原則」が言われることもあります.
品質,有効性,安全性の評価は,科学的に判断されるべきで,国・地域ごとに異なるべきではない,という考え方です.海外産品の供給者に対し,国内産品の供給者に比べて不利な条件を課してはならないというWTO・TBT協定が援用されます.もっとも,EUで適応が狭められている医薬品が日本ではそのように規制されていないなどの例もあります.
これについても,できれば言及してほしかったと思いました.

また,医薬品における費用対効果原則も課題となっています.
2012年度の診療報酬改定に「革新的な医薬品等の保険適用の評価に際し,算定ルールや審議のあり方も含め,費用対効果の観点を可能な範囲で導入することについて検討を行うこと」との附帯意見に基づき,中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会で,医療技術の費用対効果評価(HTA)の検討が進んでいます.この日本版HTAが薬価抑制をもたらすとされています.

「第1章  医薬品の安全性確保の歴史」は,2006年の薬事法改正,「最終提言」について書かれていますが,2014年の薬事法改正(「薬事法等の一部を改正する法律」(2013年11月27日法律第84号))についてふれていないのは,画竜点睛を欠く気がしました.
2013年改正で,医療機器,再生医療等製品については医薬品とは別に,それぞれの特性に応じた規制が行われるようになり,「薬事法」の題名が「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」に改められました.法の目的に,保健衛生上の危害の発生・拡大防止のため必要な規制を行うことを明示し,医薬品等の品質,有効性及び安全性の確保等に係る責務を関係者に課し,とくに医薬品等の製造販売業者に,最新の知見に基づき添付文書を作成し厚生労働大臣に届け出る義務を課すなど重要な改正です.再生医療等製品について「条件・期限付き承認制度」が設けられたことで,再生医療等製品以外にも「条件・期限付き承認制度」を適用することにより,薬事承認の迅速化を図るべきである,という主張も聞かれるようになりました.

規制改革会議は,医薬分業における規制の見直しを提唱しています.
「医療分野の研究開発に関する総合戦略」(2014年1月策定),「PIC/S加盟」(2014年7月),「日本医療研究開発機構(AMED)」設立(2015年4月)と医薬品をめぐる動きは加速しています.
最近,洗口液「エフコート」(フッ化ナトリウムが成分に含まれる)の要指導薬への指定が行われました.
2015年1月発行の本書の内容は十分に新しいのですが,昨今の変化にあわせた改訂版も期待いたします.


谷直樹


ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2015-04-20 23:47 | 医療