弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

高松地裁平成27年4月22日判決,高松赤十字病院の帝王切開でPVL事案,2億1100万円賠償命令(報道)

毎日新聞「高松地裁:帝王切開、判断不適切 日赤に2億円賠償命令」(2015年4月22日)は,つぎのとおり報じました.

「高松赤十字病院(高松市)が不適切な判断で帝王切開手術をしたことで、男児(12)に重度の障害が残ったとして、男児と両親が同病院を運営する日本赤十字社(東京都)に損害賠償を求めていた訴訟の判決が22日、高松地裁であり、福田修久裁判長は原告の請求通り約2億1100万円の支払いを命じた。

 判決などによると、2003年2月3日、三つ子を妊娠し、妊娠30週目だった母親(当時29歳)が腹痛を訴え入院。同7日の診察で胎児1人が死亡していることが判明した。医師から「他の胎児に毒素が回る。至急手術する必要がある」などと説明を受け、その日のうちに帝王切開手術を受けた。生まれた2人のうち、1人は脳室周囲白質軟化症(PVL)と診断され、脳に重度の障害が残った。

 裁判で、両親らは「胎盤の元となる『絨毛膜(じゅうもうまく)』がそれぞれ分かれている三絨毛膜の三つ子で、1人が死亡しても他の胎児に悪影響はなく、緊急に帝王切開をする必要はなかった」と主張。病院側は「三絨毛膜での子宮内で胎児が死亡した場合のガイドラインはなかった」と反論していた。

 判決で、福田裁判長は「ただちに生存児の分娩(ぶんべん)を推奨する文献は見当たらず、様子を見るべきだった」と指摘。「帝王切開に踏み切ったことによる早産が理由で男児がPVLを発症し重度の障害が残った」と医師の注意義務違反を認め、日本赤十字社に賠償を命じた。【古川宗】」


これは,私が担当した事案ではありませんが,参考になる(影響の大きい)判決と思います.
胎児が子宮内で低酸素の状態にあることが示唆されるときに,急速遂娩(帝王切開)が遅れたために児に重度の障害を残し,責任を問われる例があります.それに対し,これは,予防的に急速遂娩(帝王切開)を行ったために児がPVLを発症し重度の障害が残った事案です.
現在のガイドライン(産婦人科診療ガイドライン産科編2014)は,2絨毛膜双胎で一児が死亡した場合は胎児間の輸血が発生しないため「母体DICに注意しながら待機的管理を行う」とされています.2003年当時も,緊急帝王切開を推奨するエビデンスはありませんから,緊急帝王切開とはならないでしょう.高松赤十字病院は,総合周産期母子医療センターではありませんが,地域周産期母子医療センターとして,2絨毛膜,3絨毛膜の多胎の症例も少なからず取り扱ってきたと思われます.「他の胎児に毒素が回る」という説明は不適切です.母体DICに注意しながら待機的管理を行うことができます.他方,25~30週の早産では約10%の確率でPVLを発症すると言われています.産科医師はPVLのリスクを認識していたはずです.PVLを発症するリスクが高いのですから,待機的管理を行うことができる症例なのですから,三絨毛膜での子宮内で胎児が死亡した場合のガイドラインはなかったからただちに医師の裁量で娩出できるということにはならないでしょう.
単純に帝王切開が早すぎても遅すぎても病院側は責任を負わせられてしまう,というのではないのです.
ガイドラインがなかったから標準的医療がなかったということにはなりませんし,標準的な医療から逸脱した医療行為に因って児に障害が残ったときは,病院側は賠償責任を負うことになります.本件もその一例とみることができると思います.

【追記】
毎日新聞「帝王切開で障害」控訴審 日赤病院と和解 高松高裁 」(2016年11月29日)は次のとおり報じました.

「高松赤十字病院(高松市)で生まれた男児の脳に重度の障害が残ったのは不適切な判断で帝王切開手術をしたことが原因だったとして、同市の男児と両親が病院を運営する日本赤十字社(東京都)に損害賠償を求めた訴訟の控訴審は28日、高松高裁(生島弘康裁判長)で和解が成立した。

 和解内容は双方とも非公表としているが、原告側は「納得できる内容だった」と取材…」



ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161129/ddl/k37/040/500000c#csidx6692890e2172d0fbbb2bad29f8aae6b
Copyright 毎日新聞

 谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2015-04-23 18:55 | 医療事故・医療裁判