弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

佐賀大学医学部附属病院,MRI検査を怠り胸腰椎硬膜外血腫を見逃す医療ミスで謝罪

佐賀大学医学部附属病院は,2015年12月28日,次のとおり「医療過誤の経緯と対応について」を発表しました.

1.事故の概要

患者さんは40代女性で、両下肢麻痺で当院を受診されたが精神疾患によるものと本院の担当医が診断し、他院へ紹介しました。転院先の病院で転院3 日後に施行されたMRI検査で脊髄急性硬膜下血腫と診断され本院へ搬送となりました。本院では発症4 日後に胸腰椎硬膜外血腫の診断の下に緊急手術を施行しましたが、永続的になり得る両下肢麻痺、膀胱直腸障害を残すという結果になりました。

2.事故の経緯

① 平成27年10月早朝、両下肢に力が入らなくなり触っても認識できない状態で臀部から下腿にかけて脱力を認めたため、ご家族の介助にて当院外来を車椅子で受診されました。
② 車椅子に座っていることは可能でしたが、呼吸は速迫し上半身が震えている状態で不安を訴えられていました。総合診療医が診察し、患者さんは精神科通院中であり、転換ヒステリーの可能性が高いと考えました。神経内科にコンサルトし、神経伝導検査で末梢神経障害を除外され、あと器質的疾患を除外するにはMRI検査、血液検査を行ったほうがよいとの意見を受け、血液検査(電解質)を行ったが異常はありませんでした。総合診療医は精神疾患を疑い脊髄病変に関しては可能性が低いと考えMRI検査は後日でよいと考えました。このため、MRI装置を備えている他院へ紹介し、同日転院となりました。
③ 転院先病院入院中(3日後)、両下肢麻痺の症状は著変なく、同院にてMRI検査が施行され、脊髄急性硬膜下血腫と診断されました。
④ 翌日(4日後)、当院へ搬送され、MRI検査を施行したところ胸腰椎硬膜外血腫と診断され、全身麻酔下で胸椎椎弓切除術、血腫除去術を施行しました。
⑤ 現在、両下肢麻痺、膀胱直腸障害は残存し、リハビリテーションを主体とし加療中です。自宅退院を目指し、リハビリテーション継続のため転院されました。

3.検証の経緯

医療安全管理室を中心とし総合診療部、神経内科、整形外科など関係者を集めて検証部会を開催しました。

(1) 初診時の対応について
胸椎の硬膜外血腫で下肢麻痺を伴うという稀な病態を診断することは困難であるが、脊髄障害(例えば脊髄梗塞など)の可能性は初診時に除外すべきであり、MRI検査を初診時に行うべきでありました。

(2) コンサルテーションの在り方について
神経内科医が総合診療医にMRI検査を勧めたことに対して、それが施行されなかったことが本事例の原因となっており、コンサルト医から指示された内容に関する二者間の十分な議論がされるべきでありました。

4.患者様・ご家族への対応

胸椎の硬膜外血腫で下肢麻痺として発症することは稀であり、また症状に精神疾患の要素が関与している可能性もあることなどに影響され、緊急MRI検査を撮影する決断に至らなかったことが重大な結果を招いたことを患者さんご本人とご家族に説明し、謝罪いたしました。

5.再発防止策

(1) 可能性が低くても重大な結果に至る疾患が疑われる際には、積極的にMRI検査などで診断が確定できるよう徹底しました。

(2) より質の高い医療を提供するために、コンサルトシステムを機能させていくよう、職員に周知しました。」


本件は,私が担当したものではありませんので,上記発表以上のことは知りませんが,上記発表からすると,器質的疾患を除外するにはMRI検査、血液検査を行ったほうがよいとの神経内科医の意見を無視したことが事故の原因のようです.
たしかに可能性の高い疾患を疑うのは正しいのですが,同時に可能性は低くても緊急の重大疾患を除外診断する必要があります.とくに,画像診断の進歩によって疾患の早期発見が可能になっていますので,画像診断への期待,画像診断義務が大きくなっています.画像検査義務違反はありがちな医療ミスで,対応によっては医療事件となることがあります.

佐賀大学医学部附属病院の本件事故後の対応は,上記発表を読む限り,誠実で評価できると思います.


谷直樹


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by medical-law | 2015-12-29 05:19 | 医療事故・医療裁判