弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京大学医学部附属病院の薬剤取り違え事故から学ぶ改善策

診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであるとされています(最判平7年6月9日(民集49巻6号1499頁,未熟児網膜症姫路日赤病院事件))。

大学病院は,①医師等の育成のための教育機関であると同時に,②新しい医療技術の研究・開発を行う研究機関でもあり,③高度の医療を提供する地域の中核的医療機関でもあります。
小児科は,多様な臓器の疾患を取り扱います。患者の年齢も基本的に0~16歳まで多様です。

東京東部地域には「子ども病院」の様な小児専門病院はありません。東京大学医学部附属病院の小児医療センターが,東京東部地域の中核的小児病院としての役割を担っています。
また,東京大学医学部附属病院は,最適な先端医療,高度な医療を提供する大学病院なので,最適な先端医療,高度な医療を必要とする重篤な患者も入院しています。
このような 東京大学医学部附属病院小児科で,薬剤取り違え事故が起きると,重大な結果を生じ得ることは容易に予見できますので,薬剤取り違え事故が起きないように薬剤のダブルチェックの仕組みが必要と思います。とくにハイリスク薬については,ダブルチェックが絶対的に不可欠です。

2015年の事故調査報告書によると,東京大学医学部附属病院の薬剤取り違え事故の問題点は,第1に他の患者の薬剤を誤注入してしまったこと(薬剤を取り違えたこと及び照合確認を怠り取り違えに気付かず誤注入してしまったこと),第2に,誤投薬後の連絡・説明が十分でなかったこととされています。

事故調査報告書は,(1)内服薬ルールを周知徹底する,(2)内服薬専用の管理場所を確保する,(3)内服薬処方に関する検討を進める,(4)業務内容を整備する,(5)オカレンス(occurrence)発生時の連絡体制を周知する,(6)出来るだけ速やかに患者さんのご家族へ公式な場を設けて(ベッドサイドではなく)誠意をもって説明する,の改善すべき6点をあげています。

事故調査報告書には次のように記載してされています.

1.内服薬ルールを周知徹底する
 以下について、小児医療センター、看護部で周知徹底する
(1)薬剤を準備する際は、1患者1トレイとする(水薬と散剤を別にしない)
(2)散剤の溶解は出来るだけ直前に、薬剤を投与する者が行う
(3)薬剤を準備する際は、薬剤を吸引する前にシリンジに必ず患者氏名を明記する
(4)無記名のシリンジに準備された薬剤は、使用しない
(5)薬剤投与(注入)直前のリストバンドでの患者確認を徹底する

2.内服薬専用の管理場所を確保する
(1)与薬カード・1患者1トレイのためのトレイ・内服薬準備用ケースを整備する
(2)輸液準備と同じ場所を使用せず、内服薬専用の場所を確保する
(3)内服薬準備用ケースの患者名が、薬剤を入れても見えるものに変更する

3.内服薬処方に関する検討を進める
(1)薬包数が少なくなるように検討する
① 看護師が、病棟で散薬調剤を薬剤毎に別々に行うと時間と手間がかかるため、薬剤部で最初から薬剤を出来るだけまとめてもらうようにする(同じ種類の薬剤や同じ効果を持つ薬剤は一つにまとめるようにする)
② 多くの薬剤を内服している患者は、その薬剤を続けるかどうかについて、医師と薬剤師で検討する

4.業務内容を整備する
(1)朝6時の業務の集中する時間帯の業務を整理し、不必要な業務をなくす
 ① 業務の集中する時間帯に、スタッフからの連絡の電話を避けるように周知する
 ② 周辺業務の整理、夜勤人数を増員するかどうかの検討を行う

5.オカレンズ発生時の連絡体制を周知する
担当医師は患者の治療に専念するため、Pocket医療安全マニュアルに従い迅速に報告すること

6.患者さんのご家族への説明について、以下の点を徹底する
出来るだけ速やかに、患者さんのご家族へ公式な場を設けて(ベッドサイドではなく)誠意をもって説明すること


2017年の東京大学医学部附属病院のサイトには,
「内服薬に関するルール(注入器具への記名、薬剤注入直前の本人確認用バンドでの患者確認など)の周知徹底、内服薬の管理環境の整備(内服薬ケースの患者氏名の視認性の向上など)、看護師の業務負担の軽減(看護師の増員、看護師が病棟で調製する薬包数を減らすための多職種での検討、処方に複数の薬剤がある場合に薬剤部で予め服用時点ごとに1つの袋にまとめることの推進など)を実施しました。また、重大事故発生時の連絡体制や職業倫理に関する職員教育を、研修会やe-learningにより実施すると共に、内服薬(散薬)のバーコード管理システムを導入することとし、そのための医療情報システムの仕様書策定を行いました。内服薬に関するルールや緊急時の連絡体制などの職員教育については、今後も継続的に実施して参ります。」
と書かれています。

2015年の事故調査報告書と2017年の東京大学医学部附属病院のサイトがダブルチェックについて言及していないことはいかがなものかと思います。東京大学医学部附属病院小児医療センターの性格と役割に鑑み,とくにハイリスク薬についてはダブルチェックが絶対的に不可欠であることを考慮し,2015年の事故調査報告書が指摘する点をふまえ,真に実効的な再発防止策が実行されることを強く期待いたします。




谷直樹


ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村>
by medical-law | 2017-02-03 09:37 | 医療事故・医療裁判