医師が認知症患者について認知症でないという診断書を書いた場合の責任など
医師が結果的に誤った診断をしても,その診断がその時点の患者の身体所見,検査データ等から臨床医学的に適切な診断であれば,医師に過失はなく,損害賠償責任を負うことはありません.また,過失があっても,その過失によって損害が発生したことを患者側が立証できなければ,損害賠償責任を負いません.
公務所に提出すべき診断書,検案書又は死亡証書に医師が意図的に虚偽の記載をすると,虚偽診断書等作成罪(刑法160条)の刑事責任を負うことになります.虚偽診断書等作成罪(刑法160条)の「虚偽の記載」とは,客観的な真実に反する内容の記載をすることです.
ところで,75歳以上人は3年に1度の運転免許更新の前に,認知機能検査を受け,その結果,認知症の疑いありと判断されると,医師の診断を受けねばなりません.そこで,医師が認知症と診断すると,免許取り消しまたは停止の処分が下されます.
医師が認知症患者を認知症と診断するのは,(認知症患者は自分が認知症であることの自覚がない人が多いため文句を言われることがあるでしょうが)正しい行為です.
もし医師が認知症患者について認知症でないという診断書を作成すると,虚偽診断書作成罪(刑法160条)の刑事責任を負うことになります.
虚偽診断書等作成罪(刑法160条)の「虚偽の記載」とは,客観的な真実に反する内容の記載をすることです。認知症の診断には,定められた手順と診断基準がありますので,その手順と基準を無視した場合,医師の裁量という言い訳は通用しません.
医師が認知症でないと診断した人が事故を起こしたときに民事の損害賠償責任を問われるのではないか,という問題があります.
医師が診断した時点で,その人が認知症だったか否かが論点になります.
医師が定められた手順と診断基準にそって認知症でないと診断していれば,診断の時点ではその人が認知症ではなかったと認められることから,仮に診断の1か月に後に事故を起こしたとしても,医師がその事故の責任を問われることはないでしょう.
なお,認知症患者はとっさの判断力が劣り,認知症患者の6人に1人が事故を起こしているという報告もありますので,認知症患者であることと事故との因果関係は推定されますので,もし医師が定められた手順と診断基準を無視して認知症患者について認知症でないと診断した場合は,たとえ事故が診断から2年後であっても民事責任を問われる可能性があります.
つまり,医師が定められた手順と診断基準にそって診断していれば,民事責任,刑事責任を問われることはないと思われます.
なお,医師にその診断能力がないときは,認知症専門医を紹介するのが適切です.
認知症の診断業務のために,認知症専門医が多忙となり,日常診療業務を生じる懸念がありますので,認知症専門医を要請し増員する必要がでてくるでしょう.
谷直樹
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