弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

岐阜市の病院,術後患者のアラームとナースコールへの対応遅れの医療事故で病院の体制不備の責任を認める

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岐阜市民病院は,平成26年1月,60歳代前半の男性患者の事故について,平成29年5月24日,公表し,4000万円の損害賠償金を遺族に支払うことで示談が成立したと発表しました
岐阜市民病院のサイトによると,事故の概要と原因は次のとおりです.

「当該患者さんは、両手の痺れを主訴とし、各種検査のうえ、頚椎症性脊髄症と診断され、頚椎前方除圧固定術(多椎間)を施行した。手術は予定通り施行され、翌朝看護師が訪室した際には異常がなかったが、その後容態が急変し、モニターアラーム及びナースコールがあり看護師が訪室すると意識がなく、呼吸数、心拍数も低下している状態であった。
医師らが心肺蘇生を行い、心拍は再開したが意識は戻ること無く、蘇生後脳症と呼ばれる状態となった。その後、意識回復を期待して治療を継続したが平成27年9月、死亡した。
心拍を監視するモニターのアラーム音が発報し、患者さんもナースコールを鳴らしたが、当該病棟のスタッフは他の患者の対応中であり、直ちに対応することが出来ず処置が遅れてしまった。
事故後、第三者委員を入れた事故調査委員会を設置し検証した検証した結果、合併症として起こりうる低酸素血症の発生に対して早期に対応できなかった病院の術後管理体制に問題があると指摘された。」

読売新聞「頸椎の手術後合併症で死亡、4千万円賠償で示談」(2017年5月25日)は,「容体急変の際、心拍数の異常を知らせるアラームと患者からのナースコールが鳴った。しかし、看護師4人全員が他の患者の食事の準備などをしていてすぐに対応できず、8分後に病室に行くと、意識が混濁していたという。」と報じています.

岐阜市民病院は,次の再発防止策をとったとのことです.

「●頚椎前方除圧固定術(多椎間)の術後患者について
○当院では、術後のリスクを考慮し、本件後は一般病棟ではなく、ICU(集中治療室)に入室し、きめ細かい管理ができるようにした。

●重症患者の管理体制強化について
○新たにHCU(高度治療室)を整備し(平成28年2月1日から稼働)、8床体制で術後患者を含めた重症患者を管理している。

●一般病床における対応について
○ナースコールを受けた場合は、患者の訴えを確認し、返答がない場合には直ちに病室を訪室し、患者の状態を確認するという運用を統一して看圖蔬全員に周知した.
○手術後の注意点などを職員間で共有する手術後経過表の見直しを行い、「患者情報共有シート」を作成して、担当看護師だけでなく他の職員全てが患者の安全に務める体制づくりを行った。
○ナースコールと連動しているPHSの台数を増やし、職員相互の連絡・連携を強化した。

●スタッフ教育について
○緊急応援要請コール事例について収集・分析を行い、患者の異変につながる予兆に気付くことの重要性についての研修を行ったほか、病棟・外来において患者急変時の対応についてシミュレーション研修を実施した。」


本件は,私が担当したものではありません.
リスクの高い患者は,一般病棟ではなく,ICUやHCUで管理すべきでしょう.例えば,「急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)」でも短期リスク分類で高リスクの不安定狭心症はCCUに収容すべきことが明記されています.
病院の体制整備義務違反を認め,再発防止策をとった点で,評価できる対応と思います.

谷直樹

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by medical-law | 2017-05-25 06:57 | 医療事故・医療裁判