弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

胸部食道癌手術時の大動脈出血事故の遺族(妻・娘)のコメント

港区にある病院の医療事故(胸部食道癌手術時の大動脈出血)の患者(東京都在住・61歳男性)の遺族のコメントは,下記のとおりです.

「第三者委員を加えた事故調査が行われたことに、感謝いたします。
私たちは、事故調査の結果の説明を受け、本当にいろいろなことが分かりました。

ただ、どうしても、○○病院の先生が、胸腔鏡で、胸腔内を見て、腫瘍が大動脈に固着していると分かりながら、独断で手術を続行されたことが残念でなりません。

大動脈に固着した腫瘍を剥離するために、大動脈の外膜も削ってしまい、血管が薄くなり、動脈圧に耐えられず大動脈から出血した、という説明を事故後に受けました。この説明を聞いて、大動脈の血管の一部を削ってまで腫瘍を取るのは危険すぎる、と思いました。


腫瘍が大動脈に固着している、つまり腫瘍が食道以外への臓器に浸潤しているので、T4です。○○病院の先生からは、事前にT4と分かっていた場合、手術ではなく化学療法を行ったというお話がありました。手術を始めてしまっても、T4とわかったときに中止してほしかったと思います。

手術の同意書にサインしましたが、T3という前提が変わったのですから、せめて、私たちに、大動脈に固着している腫瘍を危険を侵して取るかどうかを聞いてほしかったと思います。インフォームドコンセントというのは、きちんとした説明があることだと思います。
腫瘍が大動脈に固着している、T4だから本来化学療法になる、どうするか、と聞かれたら、私たちは手術の中止をお願いしたはずです。T4ですから長く生きられなくても、安らかな最期を迎えさせてあげたかったからです。訳も分からず突然亡くなってしまうなんて可哀相です。

今後は、インフォームドコンセントを徹底し、再発防止をはかっていただき、患者が安心で安全な医療を納得して受けられる病院にしていただきたく思います。

  2017年6月10日」


以下は,私のコメントです。

本件は,「予期されない死亡」にあたり,医療事故調査が行われました。
医療事故調査は,事故の原因を分析し,再発予防に役立てるものです。
責任の有無を判断するものではありません。したがって,事故調査報告書には,注意義務違反が明記されていませんし,病院が責任についてどのように考えるのかは,分かりません。
しかし,T4まで進行した癌については胸腔鏡下手術を行わないのが一般的ですし,大動脈に固着した腫瘍を剥離することの危険性のレベルは,T3について胸腔鏡下手術を行うものとは格段に異なります。にもかかわらず,敢えて手術を続行するという判断には疑問があります(判断ミス)。
また,少なくとも家族への説明が必要だったと考えます。
損害賠償については,今後,病院との話し合いで早期に解決できるよう努めたいと思います。

【追記】
テレビ朝日「○○病院で医療事故 大量出血で男性患者死亡」(2017年6月12日 )は次のとおり報じました。
「東京・港区の○○病院で食道がんの手術中に大量出血し、男性患者が亡くなっていたことが分かりました。

 ○○病院が公表した医療事故調査報告書などによりますと、去年10月、61歳の男性患者に対して食道がんの摘出手術を行った際、がんは事前の診断より進行し、大動脈に張り付いた状態でした。執刀医ががんを剥がそうと大動脈の血管の一部を削ったところ、大量に出血し、男性は翌日に死亡しました。遺族は「手術中にがんが予想より進行していると分かれば中止を求めた」と「医師の独断で手術を続行したのは残念」とコメントしています。病院側は遺族の意見を取り入れたうえで、「予想と異なる事態が起きた場合には手術を中断し、家族と相談して同意を得ることが重要」などの再発防止策をまとめました。」

谷直樹

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by medical-law | 2017-06-10 16:16 | 医療事故・医療裁判